デジタルマーケティングの運用において、避けて通れない課題が「コンバージョン(CV)数の拡大が、必ずしも事業収益に直結しない」という点です。
多くのマーケティング現場では、広告運用を通じてリード獲得数の最大化に注力します。
しかし、獲得したリード(見込み客)の中に、商談化の可能性が低い層が一定数含まれることは避けられず、これが組織全体の効率を低下させる要因となります。
そこで本記事では、優先すべきリードを特定して商談化率を高め、広告投資の最適化を支援するべく、流入したリードをAIが分析・スコアリングし、改善案を提案する仕組みの構築プロセスを解説します。
商談確度の低いリードが組織に及ぼす「見えないコスト」
マーケティング施策が功を奏し、リードの獲得数が増加することは本来歓迎すべきことです。
しかし、その中身に商談化の可能性が低い層が一定数混在していると、組織には「見えないコスト」が発生し始めます。
まず顕著に現れるのが、営業リソースの分散による機会損失です。
インサイドセールスや営業担当者が、限られた時間の中で全件に対して一律にアプローチを試みると、予算感や導入時期が不明確なリードへの対応に多くの工数を割かれることになります。
その結果、本来最優先でフォローアップすべき受注精度の高い重要顧客への初動が遅れ、競合他社に案件を奪われるという本末転倒な状況を招きかねません。
また、こうした状況はマーケティング部門と営業部門の連携不全を深刻化させます。
マーケティング側が「獲得件数」という目標を達成している一方で、営業現場から「商談に繋がらない」という不満が噴出すれば、両部門の評価基準に乖離が生じます。
客観的な判断指標がないままでは、共通のゴールである売上拡大に向けた協力体制が崩れ、施策全体の改善サイクルが鈍化する要因となります。
さらに、データ活用の遅延も無視できない課題です。
リードの評価を現場の感覚や手動での分類に頼っている場合、どの媒体や訴求が真に良質なリードを連れてきているのかをリアルタイムで把握することが困難になります。
分析にタイムラグが生じることで、質の低いリードを量産している広告枠への投資を止められず、逆に有望な流入経路への予算集中が後手に回るなど、広告投資の最適化を阻害する大きな障壁となってしまいます。
2つのAIを組み込む設計ロジック
こうした「営業リソースの分散」や「部門間の連携不全」といった課題を解消するためには、まず業務に対する捉え方そのものを再定義する必要があります。
具体的には、目前の1件を捌く「日々の対応」と、全体の傾向から改善を導き出す「戦略立案」という、時間軸の異なる2つのフェーズに切り分けて考えます。
日々の対応
日々の対応では、流入するリードに対して、それが自社にとって優先すべき案件か否かを決められた基準に沿って判別し、その判定結果をデータとして蓄積します。
ここで重要なのは、主観による「なんとなくの感触」ではなく、一貫性のある基準による「客観的なデータ」へと変換することです。
この一次判定が正確で早いほど、部門間での評価の乖離が防がれ、初動のスピードが最大化されます。
また、ここで蓄積されたデータは次のステップである構造的な分析の土台となるため、精度の高い母集団を形成することが重要となります。
戦略立案
次に、蓄積された一定期間のデータを集約して読み解く「戦略立案」のフェーズです。
日々の対応が目の前の1件を捌くことにあるのに対し、こちらは過去の判定記録を統計的に捉え、構造的な課題を抽出することを目指します。
「なぜ特定の時期に質の低いリードが増えたのか」「広告のどの訴求が、ミスマッチな期待を生んでいるのか」といった共通項を導き出し、その知見をLP(ランディングページ)の修正や広告予算の配分変更へとフィードバックする。
このプロセスが継続されることで、単なる「作業の繰り返し」が「組織的な学習」へと昇華されます。
実践:n8nで構築するリードスコアリングと戦略立案システム
前述の設計ロジックを具現化するため、今回は業務フローをノーコード・ローコードで自動化するiPaaSツールである「n8n」を活用し、目の前のリードを捌く「日々の対応」と、全体を俯瞰する「戦略立案」の2つのワークフローを構築します。
フェーズA:AIによる「日々の対応」の自動化
まずは、流入したリードに対して、AIがスコアリングを行い、データを蓄積していく仕組みを構築していきます。
ワークフローの全体像
今回のワークフローは、「定期的なデータの巡回➔AIによる内容解析➔結果の自動書き出し」という、一連のサイクルを自動化する設計になっています。

まず、設定した間隔でスプレッドシートを自動チェックし、新しい問い合わせデータがあればそれをAIノードへ受け渡します。
AIはあらかじめ定義した基準に沿って、各案件の重要度を数値化(スコアリング)し、その判断理由を言語化します。
最後に、AIが出した結論をスプレッドシートの元の行へ正確に書き戻すことで、人間がシートを開いた時に優先順位を把握できる状態になります。
では、このプロセスを構成する4つのステップを順番に解説します。
①起点の設定
まずは、ワークフローの起点となるトリガーを設定します。
今回は「Schedule Trigger」を採用し、1分間隔や毎日など、スプレッドシートの内容をチェックしてほしい間隔を設定することで、自動で内容をチェックしてくれます。
なお、今回の検証では、仮のAI導入サービスの問い合わせ内容をあらかじめ30件用意し、テストデータとして読み込んでもらいました。
②AIエージェントによる判定
次に、読み込んだデータをAIエージェントノードに渡します。
このノードでは、問い合わせ1件1件に対し、AIに「判定者」として評価させ、「判定スコア」と「分析理由」を提示してもらいます。
ここでは、AIのモデル選定とプロンプトによる指示、そして回答を整理する出力パーサーを設定します。
モデルは、GPTであればOpenAI、GeminiであればGoogleといったように、適宜活用したいモデルのアカウントと連携して、モデルを選択します。

モデルを設定したら、以下のようなプロンプトで、判断基準や出力ルールを設定します。
以下の問い合わせ内容を分析し、商談化の可能性を判定してください。
【会社名】: {{ $json[“会社名”] }}
【担当者名】: {{ $json[“担当者名”] }}
【問い合わせ内容】: {{ $json[“問い合わせ内容”] }}判定基準:
・本気度(1-5):課題が具体的か、導入意欲があるか
・ターゲット一致度(1-5):事業内容が自社サービスと合致しているか# 出力ルール(最重要):
あなたはシステムの一部として機能し、後続のプログラムが直接読み込める形式で回答する必要があります。
1. 出力は必ず以下のJSON形式のみとし、他のテキストは一切含めないでください。
2. “`json や “` といったMarkdownのコードブロック記法は絶対に禁止です。
3. 「はい、承知しました」などの挨拶や説明、補足も一切不要です。
4. 有効なJSONオブジェクトの文字列({ で始まり } で終わる)だけを出力してください。{
“score”: “合計点数(10点満点)”,
“reason”: “判定理由(100文字以内)”
}
このように、AIに対して判定者としての役割を与え、具体的な「判定基準」を提示します。
今回は「本気度」と「ターゲット一致度」をそれぞれ5段階で評価し、合計10点満点でスコアリングするように指示しました。
また、出力パーサーは、システムが扱いやすい形式(JSON形式)に整える「型抜き」のような役割を果たします。
AIは放っておくと「承知いたしました」などの余計な文章を付けてしまいます。
そこで、プロンプトで「JSONのみ出力、挨拶不要」と指示し、さらにパーサーで「score」と「reason」の型を指定することで、後続のシート書き戻し処理がエラーにならない「綺麗なデータ」を安定して生成させます。
③スプレッドシートへの自動書き戻し
最後に、AIが生成した「スコア」と「判定理由」を、スプレッドシートの元の場所に自動で書き込むように設定します。
これにより、「バラバラのデータを整理されたリストに変える」ことができます。
まずは、「No(一連番号)」を照合キー(Column to match on)に設定します。これにより、AIが判定した「No 1」の結果が、確実にシートの「No 1」の行に書き込まれるよう紐付けられます。

そして、AIの回答とスプレッドシートの列を紐付けます。
ここでは、以下の画像のように、AI(出力パーサー)が整理してくれた項目を、シートの各項目にドラッグ&ドロップで設定します。
スプレッドシートの「AI判定スコア」の欄には、直接数字を書くのではなく、AIの結果を自動で引用するための「Expression(式)」を設定します。
【実際の設定値(Expression)】
AI判定スコアの列: {{ $json.output.score }}
AI分析理由の列: {{ $json.output.reason }}
なお、構築の最初では、この流し込みがうまく設定できず、データが空っぽ(null)のまま送信されてしまうエラーがよく起こりました。
そこで、上図左側の「INPUT」欄に表示されているAIの回答結果から、上記の値を右側の各項目へ繋ぐことが重要です。

これにより、AIが導き出した「8点」や「具体的な悩みがあるため商談確度が高い」といった言葉が、シートの空欄へ正確に流し込まれる仕組みが完成します。

フェーズB:軍師AIによる「戦略立案」の自動化
フェーズAで一定期間データが蓄積されたら、このデータをフェーズBのAIに読み込ませ、改善案を提案してもらいます。
ワークフローの全体像
フェーズBのワークフローは、「定期実行➔全データの読み込み➔データのひとかたまり化➔AIによる俯瞰分析➔メール送信」という流れで構成されています。

このワークフローのポイントは、一件づつ処理をするのではなく、一定期間(今回は30件分)のデータを「まとめて」AIに渡す点です。
一件づつ処理をしていると、処理に膨大な時間がかかり、システムがフリーズしてしまうという課題に直面しました。
そこで、データをあえて「ひとかたまり」にしてAIに渡す工夫を施しました。
これにより、処理スピードが改善される、AIが問い合わせ全体を「俯瞰」して分析できるようになりました。
では、このプロセスを構成する5つのステップを解説します。
①起点の設定
今回は検証のため、定期的にチェックを行う「Schedule Trigger(スケジュールトリガー)」を起点にしましたが、実運用では目的に合わせて以下のような設計が選べます。
- スケジュール実行(今回採用): 「毎週月曜の朝9時」など、決まった時間にレポートが欲しい場合に最適です。
- 件数ベースの実行: スプレッドシートの行数が30件を超えたら実行する、という「溜まったら動く」設定も可能です。
- 手動実行(Webhook等): 「今すぐ分析してほしい」と思った時に、ボタン一つで起動させる方法です。
「データがある程度まとまってから分析する」という目的においては、どの起点を選んでもフェーズBの仕組みは有効に機能します。
②シート内の全データの読み込み
次に、スプレッドシートに蓄積された全データを取得します。
そこで「Google Sheets(シート内の行を取得する)」ノードを使用し、すでにフェーズAでAI判定が終わった30件分のデータを全て読み込みます。
ここで読み込まれたデータが、後のステップで「戦略」を練るための材料になります。
③集計ノードでデータを「ひとかたまり化」
そして、バラバラの状態の30件のデータを、一つの大きなテキストデータにまとめ上げます。
ここでは、「集計(Aggregate)」ノードを活用することで、30個のデータを「一つのリスト」に合体させます。
設定のポイントとしては、「Include」の設定を「All Fields」にすることで、会社名からAI判定スコアまで、全ての情報を漏らさずAIに渡せるようにします。

これにより、AIに30回個別に相談するのではなく、1回の相談で済むように「ひとかたまり」にすることができ、処理のループによるフリーズを防ぐことができます。
④AIエージェントによる分析
ここまででまとまったデータを、AIエージェントノードに渡して分析させます。
今回、AIエージェントには以下のプロンプトを設定しました。
プロンプト内容: あなたは敏腕ビジネスコンサルタントです。入力された全ての「問い合わせ内容」と「AI判定スコア」のリストを深く分析し、以下のレポートを作成してください。
現状の傾向: どのような属性(企業規模、悩み、地域など)からの問い合わせが多いか?
課題の特定: スコアが低い(ターゲット外)の問い合わせがなぜ発生しているのか、共通の原因を推測してください。
改善アクション: スコアが高い「優良顧客」だけを増やすために、Webサイトのキャッチコピーや広告のターゲット設定をどう変えるべきか、具体的な案を3つ出してください。
役割の定義では、「敏腕ビジネスコンサルタント」と定義することで、単なる要約ではなく、ビジネスの成長に寄与する「提言」を含めた回答を引き出します。
また、フェーズAでAIが付けた「判定スコア」も併せて分析対象に含めるよう指示することにより、「なぜこの客層はスコアが低い(自社に合っていない)のか」という一歩踏み込んだ分析を促します。
⑤分析結果の送信
最後に、AIの分析結果を「人間が受け取れる形」にして送り出します。
今回は、「Gmail(メッセージを送信)」ノードを採用し、AIエージェントが生成した分析結果を、指定したメールアドレス宛に自動送信するようにしました。

なお、今回はメール送信としましたが、組織のコミュニケーションスタイルに合わせて、以下のような配信先を選ぶことも可能です。
- SlackやMicrosoft Teams: マーケティングチームのチャンネルに直接投稿すれば、レポートを起点にその場ですぐに改善会議を始めることができます。
- LINE(Messaging API): 外出が多い担当者や、よりカジュアルかつ迅速に内容を確認したい場合に非常に有効です。
- Googleドキュメントの新規作成: レポートをメールで送るだけでなく、履歴として「ドキュメント」に保存し、そのまま週次報告書のベースとして蓄積していくことも可能です。
自社の業務フローと照らし合わし、分析した結果を活用できる方式を選択することが重要となります。
まとめ
本記事では、流入したリードの「一貫性のあるスコアリング」と、蓄積されたデータからの「戦略立案」を自動化するプロセスを解説しました。
これにより、優先すべき重要顧客の把握や、リソース配分の最適化、客観的なリード評価や改善の高速化が見込めます。
一方、AIによるスコアリングや改善提案の質は、運用しながら照らし合わせ、プロンプトなどを改善していく必要があります。
まずは一定のデータ数を分析させ、精度を高めながら実運用へと移行していくことが成功の鍵となるでしょう。
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