センサーによって取得されたデータはサーバー上にアップロードされ、あるアルゴリズムに従い、解析などの処理が行われる。このデジタル上で処理された結果は現実世界にフィードバックされるというのがIoTの仕組みだ。
近年、サーバー上にアップロードされたデータをAIに処理させることで、例えば、製品の外観検査を自動化したり、トラックの配送ルートを最適化したり、小売店の需要を予測したりといったユースケースが増えている。
しかし、トラックの配送ルートを最適化したい場合には「巡回セールスマン問題」に直面してしまう。これは、「セールスマンがいくつかの都市をすべて訪問して出発点に戻ってくる時に、移動距離が最小になる経路を求めよ」という問題で、トラックはセールスマン、配送先は都市に該当する。巡回セールスマン「問題」というのは、仮に訪問する都市を30都市とした場合、スーパーコンピューター「京」で計算しても1,401万年かかるような膨大な計算が必要とされる場合があるからだ。※20都市であれば6秒。
この巡回セールスマン問題は「組合せ最適化問題」のうちの1つといわれ、様々な制約を前提に、考えられる選択肢の中から、ある指標を最も良くする変数の値(組合せ)を求めなくてはならない。そして、この組合せ最適化問題を解こうとする際に必要とされるのが、コンピューターの処理能力であり、その点においては、スーパーコンピューターよりも処理能力が高い量子コンピュータの実用化が期待されてきた。
こうした背景がありながら、12月20日に日本電気株式会社(以下、NEC)は2020年1月に量子コンピューティングに関する活動を加速するため、「量子コンピューティング推進室」を新設することを発表した。
さらにNECは、量子コンピュータの実用化に向けた取組の一貫として2020年度第1四半期から同社のベクトル型スーパーコンピューター「SX-Aurora TSUBASA」を活用した組合せ最適化問題を解決するための共創サービスを始める。
ベクトル型スーパーコンピューターとはなんだろうか。
スーパーコンピューターによる計算方法は主に「スカラ型」と「ベクトル型」の2種類があるが、スカラ型はデータを細かく分けて逐次的に処理する計算に向いている一方、ベクトル型は多くのデータを並列的に処理する計算に向いている。そのため、大規模なシミュレーションをするには、ベクトル型が強いと言われる。
このベクトル型スーパーコンピューター「SX-Aurora TSUBASA」の上で、NECの独自開発アルゴリズムを組み込んだソフトウェアを動作させると、組合せ最適化問題を解決することができるようだ。このマシンは、一般的にシミュレーテッド・アニーリングマシンと言われ、選択肢の「良さ」をコスト関数と呼ばれる「実数値関数」で表現し、これが最も低くなる選択肢を計算できる。
このNEC独自開発のアルゴリズムを組み込んでいるシミュレーテッド・アニーリングマシンは、従来と比較して300倍以上高速に計算できたとNEC社内で確認されている。NECが来年の第1四半期から始めるという前述の共創サービスでは、このシミュレーテッド・アニーリングマシンが使えるようになるというわけだ。
では、スーパーコンピューターを用いたシミュレーテッド・アニーリングマシンのサービスが、量子コンピュータの実用化に向けた取り組みとなっているのはなぜか。NECはアニーリングマシンの開発が、実用化がまだ先とみられている汎用量子コンピュータの開発促進にも寄与すると考えている。アニーリングマシンのために開発した集積技術が汎用量子コンピュータの量子ビットの集積技術においても重要な技術であり、また、一部のアルゴリズムも適用できるためである。
そこで、NECは今回、新たに課題解決の実証環境として、同サービスを提供することにより、サービス利用者と共に課題解決へ挑戦していきながら、2023年には量子コンピュータの実用化を目指すということだ。
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現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。特にロジスティクスに興味あり。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。