ダイセル、AIを活用した「自律型生産システム」を開発

株式会社ダイセルが2000年に確立させた「ダイセル式生産革新手法」は、プロセス型の生産形態において生産の視点からビジネスモデルを構築する手法である。予備調査・安定化・標準化・システム化の4つのステップで生産現場に導入し、生産を効率的に情報化する。また、生産現場に潜む「監視」「判断」「操作」のノウハウを顕在化させ、それらのノウハウを性質によって分類して3段階の重要度を設定している。

ダイセル、AIを活用した「自律型生産システム」を開発
「ダイセル式生産革新手法」の進行フロー
そのうち、設計強度に関わる重要度Ⅰ、および予算達成や品質規格に関係する重要度Ⅱのノウハウを重要ノウハウと位置づけ、重大な事態を避ける目的で優先的に生産システムへ実装した。残る重要度Ⅲは品質やコストの最適化に寄与するノウハウだったが、システム実装には複雑なケーススタディが必要で、非常に高い計算負荷がかかる。そのため、ダイセルでは十分な計算技術が確立された後、重要度Ⅲのノウハウの実装を計画していた。
ダイセル、AIを活用した「自律型生産システム」を開発
生産活動におけるノウハウの重要度と活用状況
また、熟練者からのヒアリングによるノウハウ抽出や運用開始後のメンテナンス・アップデート(ノウハウの追加)に多大な労力を要しており、システム導入の大きな壁となっていた。

このほど、ダイセルは、ダイセル式生産革新手法で構築した「知的統合生産システム」に、国立大学法人東京大学と共同開発したAIを搭載した「自律型生産システム」を開発した。

同システムは、PCM(最適運転条件導出システム)・APS(高度予知予測システム)の2種類のアプリケーションによって構成されている。化学などプロセス型のモノづくり現場で取得したデータから日々学習を重ねたAIを搭載し、現場作業者を支援する。搭載されたAIは、過去に蓄積した運転ノウハウを活用するだけでなく、日々の運転の中からも新たなノウハウを自動抽出する。

PCMは、安全・品質・生産量・コストの指標をリアルタイムで予測し、それぞれの指標を最大化するための最適な運転条件を導く。ダイセルの実証テストでは、設定した品質指標の予測精度は90%以上だった。PCM導入により、運転状況の監視や予測などの必要が減り、現場作業者の負荷を低減する。また、従来は管理職が行っていた意思決定を一般の作業者がタイムリーにできるようになる。

一方のAPSは、PCMで計画した運転条件に沿って生産を行う中で、機器の故障や環境の様々な変化によって生じる計画のズレを抑えるため、APSで予兆を検知して運転条件を修正し計画どおりの運転を行う。ダイセルの実証テストでは、変調原因を100%予測し、誤ったタイミングでの検知は0.03%に抑えることができた。

生産プラントのトラブルを先回りして検知することで、製造設備で何らかの変調が起こった後で対応する「事後」作業中心の従来の働き方から、事前の「予防」やリアルタイムで作業する「コンディションベース」という働き方の変革に貢献する。

搭載されたAIでは、過去データから答えを導く「帰納法」と原理原則から結果を導き出す「演繹法」を両立した。ディープラーニングなどの従来のAI手法では、過去のデータを用いて帰納的な計算を行っていたが、変数が多岐にわたる化学プラントでは十分な精度を得られなかった。今回開発したAIロジックは、同システムの中で品質やコストなどの変化という「結果」とそれらの「原因」との複雑な因果関係と、約20年間蓄積してきた生産運転データ、リアルタイムのデータを組み合わせて演算し、結果を導く。

同システムにより、ひとつの企業における単一製品の生産の最適化だけでなく、関連する前後の企業・工程にまたがって応用でき、企業の枠を超えたサプライチェーン全体の最適化に貢献する。現在、生産現場にAIを導入する一般的な取り組みはほとんどが個々の計器やセンサーなどの故障検知や単一製品の品質予測など、効率化の手段の一つでしかない。しかし同システムは、モノづくりの一連の流れを標準化したダイセル式生産革新手法を用いて開発しており、広範囲で生産を最適化する。

さらに、同システムのPCMによる生産性の向上とAPSによる安全・品質・コストの安定化は、設備トラブルの予防保全で生じる過剰な修繕費の節約、効率的な生産による在庫の削減などに寄与し、生産コストの削減につながる。ダイセルでは、国内全拠点に導入が完了した場合、最大で年間100億円の生産コストを削減できると見込んでいる。

なお、ダイセルは既に同システムの日本国内の生産拠点への展開を開始しており、従来から行ってきた定量的な数値データに基づいた通常の運転に加えて音声や画像などの定性的なデータをも活用し、プラント運転の立ち上げ、停止など非定常時の運転標準化を進める研究にも着手している。

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