ドローン宅配やキャッシュレスに見る、スマートシティの理想と現実

IoTNEWSでは、月に1回、法人会員向けに開催している勉強会を開催している。

10月の勉強会では、IoTNEWS生活環境創造室ビジネスウォッチャーの佐藤毅氏が海外のスマートシティに関する事例を紹介しながら、日本におけるスマートシティ実現のために必要なモノ・コトを、考察を交えて解説した。

スマートシティのテーマは様々あるが、特に会員からの要望が高かった、「ドローンの理想と現実」と「キャッシュレスの視点からみた必要なモノ」について議論を深めた。

「現状のスマートシティへの取り組みは生活者目線が足りない」と考える佐藤氏が、海外を訪問したり、様々な現場を見る中で得た知見を紹介した。

本稿はそのレポートだ。

ドローン宅配の理想と現実

ドローンが空を飛び交い、住民へ荷物を届けているというのは、多くの人が思い浮かべやすい未来像の1つだ。

私たちは普段、荷物を届けたいとき、宅急便の伝票に送り主と受け取り主の住所をそれぞれ記載するだろう。より具体的にいうと、郵便番号、都道府県・市町村・区・字・番地・号などを記す。

例えば、IoTNEWSのオフィスに荷物を送りたいとき、住所は以下の通りだ。

東京都渋谷区渋谷○丁目○−○ ○○○○ビル 5F

では、この住所をどうやってドローンにインプットすればよいのだろうか。

想像がつくものとしては、緯度・経度・高度情報、オープンロケーションコード(OLC)と呼ばれる文字列だ。しかし、これらをインプットしたとしても、ドローンは荷物を運べない。なぜか。理由は大きく2つある。

第1に、ドローンはビルのどこに荷物を届ければよいかが分からないということだ。ビルによって、高さが異なるため、5Fと指示されたとしてもそれを精緻に判断することは難しいだろう。また、玄関の場所もビルによって様々である。くわえて、日本では同じ住所に複数の建物が存在するケースもあるので、ドローンにどこに荷物を配達するのかを正しく指示することは難しいと考えられる。

2020年10月勉強会レポート1
IoTNEWSが入っているオフィスビル。この一画でも大小さまざまなビルが立ち並んでいることがわかる。

第2に、GPSの緯度・経度・高度は誤差が生じることがあるということだ。利用するさまざまな環境によっては、リアルな位置情報とGPSの位置情報とで誤差が大きくなる。たとえばタクシーの配車サービスのアプリを使うとき、自分のいる位置を示すマップを見ていて、現在地が外れていると思ったことはないだろうか。常により正確に位置情報を知ろうとするのであれば、さらに日本独自のGPSを多く飛ばす必要がある。

ドローン宅配は先進的だ。しかし、今の日本のアセットはその先進的な世界を前提としたものになっていない。

もっとも、アメリカ郊外にあるような広々とした庭付きの一戸建てであれば、ドローンは配達場所を厳密に割り出す必要がなく、庭に放っていくこともできるだろう。ただ、日本の多くの住居は、そうなってはいない。

佐藤氏は、以上のように日本の今の建物の構造はドローンが認識するようにデザインされているわけではないことを踏まえ、日本においてドローン宅配が本格運用するための課題について解説し、このテーマを終えた。

キャッシュレスの視点からみた必要なモノ

4か国(スウェーデン・中国・韓国・エストニア)それぞれのキャッシュレスの普及状況とその背景(各国特有の歴史やプライバシー観)、そしてキャッシュレスサービスの仕組みについて解説された。

佐藤氏によれば、国民ひとりひとりに与えられる生涯不変の個人番号(日本でいう住民票コード)が各国のキャッシュレスサービスと密接に結びついているが、この個人番号という概念は、スマートシティの実現においても必要不可欠な要素だと話す。

本稿では、同氏が実際に訪れた韓国のキャッシュレス事情と同氏が考える日本のマイナンバーの課題に絞って取り上げる。

なお、スウェーデンのキャッシュレス事情については、佐藤氏によって執筆された記事がIoTNEWSに投稿されているので、ぜひ目を通してほしい。(※)

韓国のキャッシュレス事情

韓国はキャッシュレス大国であり、ある統計によれば2016年時点で普及率は約96%に上る。中国の約66%、スウェーデンの約52%の普及率と比較すると、キャッシュレスがいかに社会に浸透しているかがよくわかる。ちなみに日本は約20%だ。

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では、なぜこれほどまでに韓国ではキャッシュレス決済が盛んなのだろうか。

同氏によると、そのきっかけは1989年、アジア全体が不況に陥った東南アジア通貨危機を発端としているそうだ。この危機に直面した韓国政府は税収の確保を喫緊の課題として、脱税防止と消費活動の促進を決定。具体的にはクレジットカードの利用促進策を推し進めた。

韓国政府によるクレジットカード利用促進策は以下のようなものだ。

  1. 年間クレジットカード利用額の20%の所得控除(上限30 万円)
  2. 宝くじの権利付与
    (1,000 円以上で毎月行われる当選金1億8千万円の宝くじ参加権の付与)
  3. 店舗でのクレジットカード取扱義務付け
    (年商 240 万円以上の店舗が対象)

同氏は、利用者側にメリット(①所得控除や②宝くじ参加権)を持たせることで、クレジットカードが使えないお店では買い物をしなくなるため、お店はクレジットカードを取り扱わざるを得なくなるという。つまり、クレジットカードを取り扱うモチベーションが店舗にも生活者にもあるということだ。結果的にクレジットカードの利用率は伸び、様々な取引が可視化され、政府は通貨の流通状況を把握できるようになった。

住民登録番号とi-PINの存在

韓国の住民登録番号は、生年月日・性別・出生地・出生順・識別から構成される13桁の番号だ。韓国では、この住民登録番号がないと利用できないサービスが多く存在しているという(徴税・選挙・金融取引・ゲーム利用・不動産契約・健康保険・携帯電話契約など)。しかし、2014年までに少なくとも大統領を含む8割の国民の情報がハッキングされてしまった。

住民登録番号は、そもそもインターネットで利用されることを想定していなかった。そのため、ハッキングなどの脅威は考慮されずに、住民登録番号に様々な情報が紐づけられてしまっていたのである。

この事件を機に住民登録番号が民間で活用されることはプライバシー保護の観点で見直され、インターネットでは、インターネットで使う専用の番号を使用したほうがよいということになり、韓国の6つの官・民間登録機関が発行する「i-PIN」という新たな身元確認方法が登場した。このi-PINには住民登録番号が紐づけられている。

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つまり国が発行する番号と民間が発行する番号が連携しているものの、住民登録番号そのものは収集される心配がなくなる。さらに、住民登録番号が生涯不変の番号であるのに対しi-PINの番号は変更が可能となっており流出したとしても、被害を少なくさせることができる。

それでは、日本のマイナンバーの状況はどのようになっているのだろうか。佐藤氏は日本のマイナンバーの課題について話した。

マイナンバーの課題

まず、IDと呼ばれるものは3種類存在しているという。

  1. 物理的ID(運転免許証・パスポート・社員証)
  2. デジタルID(生体認証・携帯電話番号・クレジットカード番号)
  3. その他(AIやロボット工学で用いられるもの。新しいIDアーキテクチャ)

ここで押さえておきたいのは、①物理的IDは個人を特定するに至らないということだ。佐藤氏は運転免許証を例に出す。

運転免許は運転が許可されている人物の情報が券面に記載されているに過ぎず、その免許証を持っている人物が券面の人物であるということを証明はしてくれていない。現状、それを証明しているのは免許証にある写真と実際の顔を見て、人間(あるいはAIなど)が判断している。デジタルIDも同様だ。デジタルIDを入力した人物が、そのコードに登録されている本人であるかどうかは証明されていないのである。

しかし、もし運転免許証ではなく、マイナンバーカードにある電子証明の機能を使えば、本人であるということを認証できるはずだ。このようなクレデンシャルと呼ばれる「正当な利用者であることを示す手段」というのは、日本ではまだマイナンバーのみだという。

とはいえ、マイナンバーの課題は山積しているという。佐藤氏は、マイナンバーという番号それ自体では悪用はできないはずであるのに、裏の券面に番号が記されているばかりか、その番号がカバーによってマスクされていることから、マイナンバーを受け取った人からすれば、外に出してはいけないものだと思ってしまい、利用が進んでいないのではないかと指摘する。

また、前記の通り、韓国の住民登録番号は生年月日・性別・出生地・出生順・識別から構成される13桁の番号だと説明したが、マイナンバーは住基ネットの住民コードを元にした数字の羅列になっている。なんの脈絡もない16桁のコードはなかなか覚えられるモノではない。これもマイナンバーの普及を妨げている要因と考えられる。

さらに、マイナンバーを取得する手続きも煩雑であることや、マイナンバー上の証明書の有効期限と電子証明の有効期限が別になっていること、パスワードがそれぞれ設定必要であること、用途も社会保障・徴税の一部のみとなっていることなどが指摘された。

特に世界でも日本人のプライバシー観は稀にみる厳しさで、民間利用や国が管理することに対して抵抗感があるという。これについては、マイナンバーと民間の発行する様々なIDを連携するという韓国に近い方式にすることで乗り越えられる可能性があると佐藤氏は話した。

とはいえ、マイナンバーの普及率が20%程度であり、情報銀行をこれから作ったとして、1億人分の情報が集まるのはいつになるのか、それらの情報を管理・維持するコストは誰が払うのか、事業者なのか生活者なのか、このあたりが未だクリアーになっていないという。

このように住民ひとりひとりの情報をつなげていくための核となる番号が普及していない状況で、スマートシティの実現は可能なのだろうか。

スマートシティは住民目線に立って設計されるべき

これまでのスマートシティに関わる実証実験は、事業者側に立って実施されているケースが少なくない。しかし佐藤氏によれば、「スマートシティは本来、供給側の目線ではなく、住民目線で設計されるべき」という。

最後に佐藤氏は、「スマートシティの文脈で企業に今後期待している」と述べ、講演を締めくくった。

※ 佐藤氏の寄稿記事

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