スウェーデンのスマホ送金「スウィッシュ」を支えるもの

(トップ画像撮影:筆者)

まず、筆者の都合で「次回も引き続きスウェーデンの話題」と締めくくってから8ヶ月も経ってしまったことをお詫びしたい。

さて、複雑化する日本とシンプルなスウェーデンのキャッシュレス環境を比較した前回(日本のキャッシュレスは、もっとシンプルにできる)に続き、今回はスウェーデンのキャッシュレス、スマホ送金について取り上げる。

スマホ送金に欠かせない「パーソナル・ナンバー 」

スマホ送金について語る前に、スウェーデンのパーソナル・ナンバー(Personnummer)と呼ばれる個人識別番号について触れておく必要がある。スウェーデン国民の全員が持っているパーソナルナンバーは、新生児が生まれた際、病院が税務署に通知した出生記録をもとに付番され、親が名前を税務署に提出して国税庁がパーソナル・ナンバーを付与する仕組みだ。6桁の生年月日と4桁の個人固有の番号で構成されていて、結婚などで変わることのない生涯不変の番号である。

スウェーデンのIDカード、写真左の数字がパーソナル・ナンバー
スウェーデンのIDカード、写真左の数字がパーソナル・ナンバー

パーソナル・ナンバーの起源は1571年に始まった住民登録制度で、当時は教会が担った。その後、1947年に番号制度が導入され、1991年からは教会に代わって国税庁が管理している。管理を国税庁が行なっているだけあって徴税目的で使われているが、それだけでなく他の行政機関の各種業務、医療機関のカルテや投薬記録などの管理などにも使われている。そして民間企業でも利用されており、そのうちの一つが銀行だ。

銀行口座開設には「パーソナル・ナンバー」が不可欠

スウェーデンではこのパーソナル・ナンバーがなければ銀行口座を開設できない。また口座を開設するとバンクID(Bank ID)が取得できる。バンクIDはパーソナル・ナンバーと紐づけた銀行口座で本人認証をするサービスで、さらに携帯電話番号を紐づけたモバイル・バンクID(Mobilt Bank ID)としてスマートフォンで使う。

スウェーデンのスマホ送金「スウィッシュ」を支えるもの
ストックホルム市内のフリーマーケットの様子。新型コロナ前はいつも賑わっていた

写真はまだ新型コロナウイルスが蔓延する前に訪れたスウェーデンの首都・ストックホルムで開かれていたフリーマーケット(蚤の市)の様子。商店や個人が出店しており、そのほとんどの店での支払いはキャッシュレスが可能だ。軒先には取り扱うカード決済の国際ブランドのマークが掲示されていて、そこには日本のJCBのマークもある店もある。スウェーデン国民のほとんどがVisaやマエストロ(マスターカード)といった国際ブランドのマークが入ったデビットカードを持っているし、街のあちこちにカード決済端末が置かれている。小さなお店にも小型の決済端末が普及している。

スウェーデンのスマホ送金「スウィッシュ」を支えるもの
小さな露店でも国際ブランドのマークが掲示されている(撮影:筆者)

スマホ送金を支えている「モバイル・バンクID」と独特のプライバシー観

近年はこうしたカード決済だけではなく、モバイル・バンクIDを活用したスウィッシュ(Swish)と呼ばれるスマホ送金で支払えるようになった。スウィッシュはスウェーデンの主要銀行が共同で構築したサービスで、スマートフォンを使って携帯電話番号だけで銀行間送金ができるもの。個人間の送金手数料は他行宛でも無料だ。

スウェーデンのスマホ送金「スウィッシュ」を支えるもの
左:スウィッシュの概念図、右:取引をモバイル・バンクIDで認証している様子

蚤の市の店の軒先にはカードブランドのマークと並んで携帯電話番号が掲示されていることが多い。07xから始まる個人が所有する番号と123から始まるビジネス用の番号の2種類があり、客はスウィッシュのアプリにこの番号を入力し、パスコードを入力すれば自分の口座から即送金される。受け取り側も口座に登録されている携帯電話宛に着金した旨が通知される仕組みだ。

スウェーデンのスマホ送金「スウィッシュ」を支えるもの
07xで始まるのは個人所有の番号、123が先頭の番号は企業用

ところでこのスウィッシュ。携帯電話番号が隠されることなく掲げられているだけでも驚きなのに、アプリでは送る側と受け取る側双方の名前と携帯電話番号も明らかになる。実際に目の当たりにして案内をしてくれた現地駐在の日本人女性の方に「恐くないのか?」と尋ねたが、彼女の答えは「全く問題ない」だった。スウェーデンには「その人の住んでいる住所、携帯電話番号、家族構成、持っている車、勤務先、場合によっては年収までわかる検索サービスがある」そうで、「携帯電話番号だけを重要なプライバシー情報だと思う人は少ない」ということだった。

スウェーデンのスマホ送金「スウィッシュ」を支えるもの

キャッシュレスの実現に必要なのは「技術」だけではない

日本でもキャッシュレスがようやく普及してきたが、その先進国のスウェーデンと日本では環境に大きな違いがある。出生時に付与され国民全員が持っているパーソナル・ナンバーに紐づいた銀行口座を、早い家庭では未就学児の頃から持ち、小学生からデビットカードで買い物をするという高いキャッシュレスリテラシー。あらゆる官民のサービスとパーソナル・ナンバーが繋がっているという環境。そして、公正な徴税とその先の社会福祉の充実と引き換えに多少の個人情報の開示を受け入れるという独特のプライバシー観だ。

スウェーデンこそ世界最古の中央銀行が誕生した国であり、かつ欧州最古の紙幣を発行した国だ。それが今では国民の9割がデビットカードやクレジットカードで買い物をする。未就学児も親の口座に紐づけて銀行口座を持ち、早いと小学校入学とともに自分名義の口座を持ってデビットカードで買い物をしており、2023年には完全にキャッシュレスになると言われている。

その実現には技術的な背景だけでなく、それを利用する国民の理解と納得できる理由、環境が伴っていることが必要だ。翻って日本の現状を眺めたとき、私たちがやらなければならないことは山のようにあると気がつく。国によって環境は違う。労働人口の減少、業務効率化だけでなく、購買体験向上や近い将来の個人データの有効かつ適正な活用など、アメリカや欧州、そして中国のそれとは違う日本独自の環境づくり。IoT(Intelligence of Things)の出番はここにあるように思う。

※筆者撮影分を除く記事中の写真の撮影は鈴木淳也

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