PTC、AR技術を活用し製造業における検査工程の効率化を行う新製品「Vuforia Instruct 」の提供を発表

2021年6月8日、PTCジャパン株式会社(以下、PTC)は、AR開発プラットフォーム「Vuforia」に関する新製品の提供を、米国時間で2021年6月21日に開始することを発表した。オンラインで行われた記者会見で製品のデモ映像も披露された。

会見に登壇したPTC代表取締役/アジア太平洋地域統括責任者の桑原宏昭氏は、製造業では製品と品質にフォーカスがあたっているとした上で、どんな状況でも正しい品質を提供していく事が製造業の課題であると定め本製品を提供するに至ったとした。

検査工程の重要性と課題

製造業の売上高の5〜30%が品質問題の対処に費やされている。
製造業の売上高の5〜30%が品質問題の対処に費やされている。

米国の製品品質に関する専門のWEBメデイア「Quality digest」の調査結果によれば、製造業の企業の売上高の5〜30%が製品の問題クオリティの問題に対処するために費やされている事がわかってきているという。

製品品質に問題があるとリコールがあり、そうすると製品の安全性や信頼性に傷がつく。顧客満足度が下がり、見えないコストが企業にのしかかる。また、製造や整備の現場で不具合が発生すると、部品を交換する必要があり、廃棄する部品や中間材、原料が増えてくる。

こうした品質に関わるコストの発生を防ごうと思うと、エンジニアに対して教育を行う必要があり、こちらにも期間とコストがかかる。したがって、製造業企業はかなり品質に対してのコストがかかっている。品質を担保するには、どうしても検査の工程が重要になり、検査を行う方法が大切であるという。

製品検査の課題

品質を担保するために重要な検査工程だが、現状の検査工程には下記のような課題があるという。

技術格差

製造業では、高度な技術を備えた人材の不足や従業員の高齢化が進んでいる一方で、技術継承が中々行えず、技術格差が生まれている。

現在行われている技術継承は、紙を用いてのマニュアル形式、対面でのフィジカルな形式などが一般的になっている。その中でも、紙のマニュアルを用いた方法というのは大きな割合を占めており、現在でも67%の製造業企業やサービス提供企業は、未だに紙のマニュアルを主に使用しているという。

複雑化

製品の複雑化と共に、作業工程や製造工程も複雑化してきており、製品の品質管理が難しくなってきているという状況がある。

顧客要求の増大

顧客の要求が多様化しているため、要求に対応するための製品開発が進み、変量生産や少量生産を求められている。

紙のマニュアルを使用した技術継承や品質検査の問題点

紙マニュアルを使用することで、作業ミスや再作業が発生し、コストが掛かってしまう。
紙マニュアルを使用することで、作業ミスや再作業が発生し、コストが掛かってしまう。

紙のマニュアルを使用することで以下のような問題が起こることが考えられる。

  • 紙に書かれている情報が間違っていたり古かったりする場合がある
  • 紙を大量に保管している場合、情報を探しづらい
  • 紙の図を見て検査の判定を行う場合があり、判断が難しい
  • 図を見てもわかり辛い場合があり、判断ミスや間違えた検査を行う可能性がある
  • 紙のマニュアルでは、現場で起きた問題やイレギュラーの解決に役立たない場合が多く、相談なども行えない

検査を正しく行えなかったり、工程ごとに検査をしたか記録ができなかったりすることで、検査を再び行う必要が出てきてしまう可能性がある。品質に関わるコストを下げていくためには、こうした課題を解決していく必要がある。

ARの技術を用いて検査にまつわる課題を解決

PTCはAR技術を用いて検査にまつわる課題を解決しようとしている。

AR技術を用いることで、検査作業時に3DCADのデータを活用できる。3DCADのデジタル情報と検査対象の製品情報を重ね合わせることで、製品の見方や動作時の挙動などを確認する事ができるほか、差異があるかどうかがわかるようになる。

また、検査対象物にマーカーを出すことで検査指示を行える。本来高度な技術が必要であった検査も、デジタルと現実の重なりから差異を見つけ出すことが容易になり、技術格差も埋められるという。また、紙と検査対象物を見比べて行ってきた業務が改善され、製品品質の管理が容易になるとしている。

検査作業中に感じた、気づきやイレギュラーの報告もリアルタイムで行うことができるため、是正処置や修正処置を速やかに行える。また、同時に、検査の進捗や作業時間、失敗のしやすい工程などの統計情報をとっているので、現場の作業で起きる問題が解決される。

リアルタイムで情報を収集し、品質検査の問題を解決するために、PTCが今回リリースする製品が「Vuforia Instruct」である。

「Vuforia Instruct」 とは

「Vuforia Instruct」は3DCADデータを活用しAR作業表示書を作成するサービスだ。
「Vuforia Instruct」は3DCADデータを活用しAR作業表示書を作成するサービスだ。

「Vuforia Instruct」は3次元のCADデータをフル活用し、ARの作業手順を作る事ができるプロダクトである。その結果、製造業務や保全業務、設計業務での品質に関する改善や、品質検査そのものを大幅に改善するサービスであるという。
また、「Vuforia Instruct」は「PTC Atlasプラットフォーム」というSaaS上で稼働するアプリケーションである。

「Vuforia Instruct」推奨利用シーン

PTCのVuforia instruct は製造の品質検査とフィールドメンテナンス検査に対して高い価値を発揮する。
「Vuforia Instruct」は製造の品質検査とフィールドメンテナンス検査に対して高い価値を発揮する。

製品のライフサイクルの中にある全ての検査に対して「Vuforia Instruct」というのは価値を発揮するという。部品や原材料の受入検査や中間材の品質検査、出荷後の定期メンテナンスやオーバーホールなどだ。

その中でも、最終的な工程検査や出荷前検査などの製造現場における品質検査の場面と、アフターサービスでの整備や顧客に製品を引き渡す前に行う最終検査などのサービス現場での検査の場面、この二つの領域において高い価値を発揮するという。

また、現場に配属される前には、研修やトレーニングを行うが、その時にも「Vuforia Instruct」は活用できるとしている。

「Vuforia Instruct」の構成

「Vuforia Instruct」を構成する3つのモジュール。
「Vuforia Instruct」を構成する3つのモジュール。

「Vuforia Instruct」は、「Vuforia Editor」、「Vuforia Vantage」、「Vuforia Insight」の3つのモジュールから成り立っている。

Vuforia Editor

「Vuforia editor」の編集画面。文字や写真、3DCADのデータを活用しAR作業指示書を作成できる。
「Vuforia editor」の編集画面。文字や写真、3DCADのデータを活用しAR作業指示書を作成できる。

「Vuforia Editor」は3DCADのデータからARによる検査手順書を作成するためのものである。

検査手順は、文字による概要の説明と、写真や動画による確認の支援、CADデータによる確認部位の情報を利用することができ、検査項目毎に適した検査手順の作成を行える。作成した内容がどのように表示されるかは、「Vuforia Editor」内で確認が可能である。検査手順の内容を、そのままワードドキュメント形式で保存することも可能である。「Vuforia Editor」は、権限を持つユーザーがウェブブラウザから利用できるサービスである。

Vuforia Vantage

「Vuforia Vantage」上で検査対象物を確認している様子。
「Vuforia Vantage」上で検査対象物を確認している様子。

「Vuforia Vantage」は、「Vuforia Editor」で作られた検査手順を、現場で実行するものである。

「Vuforiaアプリ」にログインすることで、その作業の担当者にのみ共有された手順しか表示されない。このため作業指示はセキュアに個人向けに最適化されている。アプリに表示される固有の検査手順を選択し、検査を開始する。また、シリアル番号を入力することにより、検査実績がデータとして関連付けられる。

「Vuforia Vantage」のライブガイドと検査対象物を合わせる瞬間。
「Vuforia Vantage」のガイドと検査対象物を合わせる瞬間。

検査が始まるとガイド機能が起動する。ガイドを実物に向けると、ARが対象物をロックオンし検査手順が始まる。検査が始まると、検査の最初のポイントに誘導される。対象部位に近づくと、着目する必要がある部分を的確に示すマーカーが表示される。

Vuforiavantage画面上で検査対象部位にポイントオブインタレストマーカーが表示される瞬間。
Vuforiavantage画面上で検査対象部位にマーカーが表示されている。

検査項目ごとに、合否判定を行うコマンドがあり、検査の結果を入力していく。この結果を提出するだけで、オートバイの検査結果がデータとして記録される。

Vuforia Insight

「Vuforia Insight」の完了作業の確認などを行うUI画面。ウェブブラウザからアクセス可能で、検査結果を閲覧することができる。
「Vuforia Insight」の完了作業の確認などを行うUI画面。ウェブブラウザからアクセス可能で、検査結果を閲覧することができる。

「Vuforia Insight」では、「Vuforia Vantage」で、実施した検査の入力結果を確認することができる。この機能も権限があるユーザーがウェブブラウザからアクセスすることができる。「Vuforia Vantage」で提出した結果は、この機能で閲覧することができ、実施日、完了日、作業時間、フィードバックが表示される。

例えば、特定のステップでは、作業の所要時間が予想よりも長く要している、またある一体期間の実施では、特定のステップで不合格が多かったといった傾向を、確認することができる。この結果は、CSVファイルに出力できるので、外部のシステムなどに取り込むことも可能である。

この3つのモジュールの総称が「Vuforia Instruct」である。「Vuforia Instruct」という製品はPTCのAtlasプラットフォームの上で提供を行う。

PTCのAtlasプラットフォームとは

PTCAtlasプラットフォーム概要図。共通機能はAtlasコアサービスとして提供される。
PTCAtlasプラットフォーム概要図。共通機能はAtlasコアサービスとして提供される。

PTCは、CAD製品、PLM製品、IoT製品、AR製品を扱っている。この4つの製品をSaaSで提供する場合、それぞれの製品群が全ての機能を個別に開発するわけではなく、バージョン管理やアクセス制限、ワークフローなどの全ての製品で共通して必要になる機能群は、PTCのAtlasコアサービスという形で提供する。この上で各製品群が個別の機能を提供する、それがPTCのSaaSアプリケーションである。

今回提供開始する「Vuforia Instruct」は、PTCAtlasプラットフォームの上で提供される最新のVuforia製品である。

PTCジャパンAR・IoT製品のエンジニア統括山田篤伸氏によれば、「Vuforia Instruct」の導入により検査工程の問題が解消されていくとした上で、「Vuforia Instruct」以外にも続々とPTCAtlasプラットフォームの上で各製品群が新しい製品を提供していくことになるので今後もPTCAtlasプラットフォームを注目してほしいとした。