サステナビリティ経営を取り巻く状況と今後のトレンド ープロファームジャパン 立川博巳氏 講演レポート

2022年8月、IoTNEWSの会員向けサービスの1つである、「DX事業支援サービス」の会員向け勉強会が開催された。本稿では、その中からプロファーム ジャパン株式会社 立川 博巳氏のセッションを紹介する。

プロファームジャパンの立川氏は、大学時代から持続可能な資源管理を勉強し、その後、環境コンサルティング会社に勤務。2006年に独立し、現在は、国内外の工場の資源生産性の向上支援など、環境やサステナビリティに関するコンサルティングを行っている。

そうした日々のコンサルティング業務を通じて、国際的なトレンド、日本の立ち位置、企業の取り組みについて、ご講演いただいた。

企業は、環境を守らなければならないというムードの高まり

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台風(左上)、山火事(左下)、右上(温暖化)、右下(廃棄物)

まず、立川氏は、最近の環境変化を掲げた。

  • 極端な天気(台風や豪雨が頻発したり、生態系が回復出来ないほどの山火事)
  • 温暖化(平均気温の上昇による氷河の減少)
  • 資源の枯渇に伴う廃棄物処理の規制の厳格化や関連ガイドラインの策定

立川氏によれば、これらの変化は人為的なものなのか、自然環境によるものなのかという議論の余地はあるが、近年は、「人為的に引き起こされているものである」という見方が大勢を占めるようになってきているという。

そのため、日本でも世界でも、企業は、これらの環境の変化を自分たちの事業環境の変化と受け止めて、何らかの対応をとることが要求されるようになってきているとのことであった。

もちろん、企業が環境問題に取り組むようになったのは、最近になってからではない。歴史をさかのぼれば、日本では主に1960年代より公害による健康被害が問題となり、企業の公害の原因となる行為は、法的な規制を受けることとなった。この規制を守らない場合、企業は罰金を支払ったり、新聞などで報道されることでブランド価値を損失してしまうことになるので、企業はそれらを回避すべく、過去から公害対策を講じていた。

しかし、立川氏いわく、こうした企業の行動は、あくまでも法律を守るという意識で取り組まれていたものであったという。また、環境を守るという意識をもって法律以上の活動に取り組んでいた企業もいるにはいたが、そうした取り組みを行っている企業は、一部の資金の観点で余裕のある企業だけだった。

だが、最近は世界的な環境意識の高まり及び極端な天気に代表される、身近に感じる実際の物理的な環境変化によって、一部の余裕のある企業にとどまらず、中小企業含めて、何らかの対応を要求されるようになってきている。

企業は、誰から、どんな対応を求められているのか

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自然環境の変化が企業にどのようにして影響を与えることになるのかを示している。

企業は何らかの対応を要求されているというが、一体だれからどんな対応を取ることが求められているのだろうか。

立川氏によれば、異常気象や気候変動といった環境変化には、まず行政や金融機関・投資家が何らかの行動や意識変化を起こしているという。

行政であれば、規制やルール・基盤づくりを行う。分かりやすい例としては公害問題で、四日市ぜんそくや水俣病といった公害があったときに、行政が再発防止のためにルールを設けて、環境に良い活動をするよう企業に働きかけるというものだ。

金融機関・投資家であれば、以下の観点で企業の融資や投資の判断を行う。

  • 企業は、環境の変化が自社の事業環境に与える影響を整理・理解しているのかどうか
  • 上記を踏まえて、企業は、どのような対策を取ろうとしているのか

金融機関・投資家のこうした対応は目新しいことではないが、最近はさらに関心が高まっているという。

つまり、環境変化が起きると、企業と共に、企業を取り巻くステークホルダー(例:行政、金融機関、投資家)が変化していく。自社の活動と共に、ステークホルダーの変化に、企業は適切に反応していくことが要求されているのだ。

では、具体的に企業が適切に反応していくとは、どういうことなのか。立川氏によると、最近の企業の対応をみてみると、以下の5つのような活動に取り組む傾向があるという。

  1. CO2の排出削減
  2. 水資源管理(日本だと馴染みがないがインドなどの海外だと希少な資源)
  3. 資源生産性の向上(使用原料の削減・リサイクルなど)
  4. 非財務情報の開示(環境・社会の情報など)
  5. 環境マネジメント位置づけの変更(環境活動と事業活動の統合)

共通指針に則っていく際のポイント

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国連、金融機関、投資家などが様々な指針を作成する。

しかし、環境問題という大きな課題に取り組むには、企業ごとに個別に対応を検討し、実践していくというやり方は現実的ではない。そこで共通の指針が必要だ、と立川氏は述べる。

こうした指針は1つではなく、前述の行政(国際機関含め)や金融機関・投資家が、特定の機関や団体として発行しているという。

行政(国際機関含め)でいうと、例えば、国際連合がSDGsを掲げているし、国連グローバル・コンパクトは行動原則を定め、企業に対応を求めている。

金融機関・投資家でいうと、CDPというイギリスの慈善団体が管理するNGOが、企業に対し、非財務情報とよばれる財務情報以外の企業の価値を測る要素を開示するよう要求している。また、CDPを含む合計4団体が、Science Based Targets(SBT)という企業における温室効果ガス排出削減の長期的目標を設定するよう呼び掛けている。

立川氏によれば、こうした指針に対応していくにあたり、ポイントは「時間軸」だという。

というのも、SBTは、2050年を見据えた目標設定が基本となっている一方で、SDGsは、2030年までの目標となっている。こうした指針ごとに、目標達成時期が統一されていないということを踏まえて、企業は対応を検討しなければならない。

サステナビリティの文脈で求められるバランス感覚

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端的にいうと、内部利益は企業の得で、外部利益は社会にとって良いことを示す

さて、企業は、ステークホルダーの変化に対して、適切に対応しなければならないということは理解できたが、その対応に追われた結果、企業の利益を損なってしまうのでは本末転倒になってしまいかねない。

そこで、立川氏は「内部利益」と「外部利益」のバランスを保つ考え方が重要だと話す。

「内部利益」とは企業が物やサービスを販売することで得られる利益のことだ。対して、「外部利益」とは、企業が活動することで、結果的に環境負荷が低減し、社会が結果的に良い環境を得られるという利益を意味している。

一昔前は、企業は、売上を上げ、利益を得ることを第一の目的に経営し、あとはCSR活動を自社の出来る範囲で実行していればよかった。この売上/利益を内部利益だ。

しかし、冒頭に説明したとおり、近年、気候変動による異常気象などが、企業の活動や日々の生活の土台に影響を及ぼしている。そうした状況下においては、自社の活動が自社自身の利益(=内部利益)と共に社会の利益(=外部利益(例:環境負荷の削減))に貢献するようなバランスを持ったアプローチが重要になる。

この内部利益と外部利益を両立させた具体的なアプローチの例として、製品デザイン・プロセスの改善がある。これは自社で使う原料を削減し、コスト削減(自社の利益率の向上=内部利益の向上)と自然環境から採取する材料を減らす(環境負荷の削減=外部利益の向上)取組みである。

環境変化に取り組まない場合どんなリスクが存在するのか

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環境汚染や環境破壊が進むというリスク以外に気にしなければならないリスクがある。

冒頭、環境を守らなければならないというムードが高まっていると述べたが、そうした社会情勢を無視して、環境変化に対応しなかった場合、どのようなリスクが存在するのだろうか。

立川氏によれば、リスクは4つあるという。

1つ目は、環境汚染・環境破壊リスクで、企業の活動が自然環境に悪影響を及ぼす恐れがあるということだ。

2つ目は、リーガルリスクで、法律違反を指す。

3つ目は、マーケットリスクといい、特にヨーロッパを中心に、サステナビリティや環境変化の問題に取り組まないと、企業は物やサービスが売れなくなってしまうリスクのことをいう。

4つ目は、レピューテーションリスクといい、企業のブランド価値が毀損するリスクだ。

乱立する枠組みと、枠組みづくりの参加で遅れを取る日本

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乱立する基準や枠組み。まだ過渡期と立川氏はいう。

サステナビリティというのは、一言でいえば、持続可能な社会をつくるということだが、非常に広範なコンセプトであり、様々な機関や団体が、それぞれ異なる基準や枠組みを作っており、様々な基準や枠組みが乱立している状況にある、という。

立川氏いわく、乱立するルールにどう従えばよいのか苦労している企業が多いのが実態だ、と説明したうえで、共通の基盤を1つ作成し、網羅的にカバーするよう努力している企業もあれば、自社の市場が重視しているルールに則っている企業もあるという。

また、これらのルールづくりを主導してきているのは欧米である、という点も、日本企業にとっては潜在的な問題だと立川氏は述べる。というのも、ルール作りの大義名分はサステナビリティや環境を良くしていくことだが、それは、自国・地域に有利になるよう、自国のルールを国際ルールに書き換えることに繋がっている可能性があるからだ。

日本は、ルールづくりへの関与が不十分な状況であり、ひとたび日本企業に不利なルールが発行されてしまえば、関税とは異なる実質的な事業障壁ができ、企業は多大なコストを支払うことにもなりかねないそうだ。

実際、EUタクソノミーと呼ばれる、企業のどんな経済活動が地球環境にとって持続可能なのか、そうでないかを判定する仕組みがEUには存在し、エネルギー、運輸、製造業などの9つのセクター、計88種類の経済活動がサステナブルな経済活動と定義されている。

欧州の市場では、このEU独自の考え方に基づいて、サステナブルな活動かどうかを判断されてしまうのだ。

国内外で進む非財務情報の開示要求の動き

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企業の売上や利益以外の非財務情報を開示しなければならなくなった。

日本国内でも海外でも、大手企業に対して、これまで開示していた財務情報とは別に非財務情報の開示を要求する動きが強まっていると立川氏はいう。

企業の売上や利益以外の非財務情報を開示しなければならなくなった。

国内では、2022年4月に東京証券取引所の市場区分再編が行われ、プライム市場上場企業は非財務情報開示が実質的に義務化された。ほんの一例だが、自社の工場が海に隣接したエリアにあった場合、そこで自然災害が起きた時に、どのくらいの復旧費用がかかるのかを試算し、情報提供しなくてはならなくなる。

また、海外では、機関投資家が、CDPなどを通じて実際に情報開示をしてほしいという通知書を毎年出し、多くの企業が、それに対応しているという。具体的には、CO2排出量はどのくらいか、自社のリスクは何か、それを削減するにはどういった対策が必要か、経営層はどの程度コミットしているのか等、細かく情報開示が求められるそうだ。

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イギリスのNGOであるCDPが、環境への影響が大きい業界の企業に対して、非財務情報開示を要請。日本企業も8社含まれている。

また、情報の開示には範囲というものが設定されているようで、範囲が最も広い「SCOPE3」ともなると、大手企業は、自社の情報を開示するだけでなく、サプライチェーン全体での状態を把握し、開示する必要が出てくる。

サプライチェーンとは製品の原料を調達してから消費者のもとに届くまでの流れを指すので、様々な中小企業から部品などを供給している大手企業であれば、自社だけでなく中小企業まで含めたCO2排出の情報開示が要求されるということになる。

以上のように深刻化する環境問題を背景に、企業に対する非財務情報の開示要求が高まってきている。

そのため、仮に企業が非財務情報の開示に消極的になってしまうと、株価価値が下がったり、マーケットで物が売れなくなってしまったり、企業のブランド価値が下がってしまうというリスクがあり、事業活動に対し、様々な影響を及ぼすという。

一方で情報開示に積極的になることで、企業は相応のベネフィットが獲得できるような状況になってきている、と立川氏は話す。

製薬会社のサステナビリティに関する取組み事例

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SDGsの17個の目標から1つ選択して、持続可能な経営を進める。

立川氏から、とある製薬会社を例に、企業がサステナビリティや環境にどのように取り組めばよいのか、アプローチのイメージが共有された。ここでは、SDGs を取組みの枠組みとした。

まず、製薬会社はSDGsのなかの「3.すべての人に健康と福祉を」という目標に取り組むことに決めて、環境や社会に配慮した製品を提供することにしたそうだ。

具体的には自社の製造プロセスのなかで、どのように二酸化炭素排出量を削減するのかという「GHGマネジメント」や人権や労働、環境配慮といった観点から調達方針・基準を定め、取引先と連携していく「CSR調達」に取り組んだそうだ。また、廃棄物のような価値になっていないものを、極小化していくという動きも同時に行ったと立川氏は説明した。

そして、これらの取り組みについて、投資家等のステークホルダーに対し、丁寧に情報開示をしていったという。

どんなステップでサステナビリティ経営を進めるのがよいのか。

さて、環境問題を含むサステナビリティ経営を進めようとしたときに、企業はどういうステップで進めればよいのだろうか。あくまでも一般論と前置きをしながら、立川氏は大きく3つのステップがあると話す。

ステップ1は、視える化だ。エネルギー使用量、水の使用量、廃棄物の量を把握する。この3点に関して精緻に数字でとらえていくと、どれくらい無駄が発生しているかが分かる。立川氏は、こうした無駄を何リットルというような単位ではなく、全て金額に換算することが重要で、企業がより自分ごと(=内部利益)として捉えられるようになる、という。

また、システム開発を行っている企業は、企業の無駄を視える化するようなシステム開発に事業機会があるのではないか、と付け加えた。

ステップ2は、定量的な削減目標を立てる。(業界団体のガイドラインなど参考にすべきものがあれば参考にする。)

ステップ3は、外部のステークホルダーに説明できるよう、ファクトに基づきストーリーを立てる。

特に大手企業は、投資家などから環境への取り組みについて説明を要求されるため、上記のようなステップで取り組みが、進んでいるそうだ。その際、製品の原材料や部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ、いわゆるサプライチェーン全体での対応状況についても説明を要求されるため、大手企業は自社のサプライチェーンの各段階に協力する企業に対しても、情報の開示を求めるようになってきているという。

期待するテクノロジーの進化

立川氏は、最後に今後どんなテクノロジーの進化に期待しているのかについて話す。

代表的な例は、サーキュラーエコノミーに関するテクノロジーだという。サーキュラーエコノミーとは、日本語に訳すと循環型経済となる。これまで経済活動の中で廃棄されていた製品や原材料などを資源と考え、リサイクルなど行い、資源を循環させる経済システムのことだ。

既に欧州の自動車メーカーでは、部品は使ったら捨てられるのではなく、循環させていく発想のもと、開発段階から再利用のことを考えているようだ。

ただし、立川氏は、開発段階から再利用のことを考えて、モノづくりをすると、ある程度の耐久性が要求されるためコスト高になるケースもあるという。しかし、だからといって、企業は、これまでのように「使って捨てる」というような活動を続けてしまうと、イメージが良くない。反対に循環型経済の取り組むことで、より多くの消費者が獲得できるということもあるので、そうした視点を持つことが重要だと述べた。

また、同氏は、再利用する際に一定のエネルギー消費が必要になり、従来の廃棄物を生み出す前提のモノづくりより結局エネルギーが多くかかってしまう可能性も指摘する。しかし、これについても、サーキュラーエコノミーの発想に基づく製品の開発によって、ライフサイクル全体でみたときに環境負荷が増えたのか減ったのかをシミュレーションすることで、前向きに議論していけると述べた。

サーキュラーエコノミーの例に代表されるように、環境の変化を自社の事業環境の変化と受け止めて対応すること、それを事業戦略にも積極的に取り入れることが重要であるとして、立川氏は講演を締めくくった。

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