復興へ向け「防災」と「観光」を両立させるシステムづくり ―システムフォレスト インタビュー

株式会社システムフォレストは、熊本県人吉市に本社を置き、九州地方を中心とする地域の企業に対し、地域密着型でクラウドやIoT、AIソリューションなどを提供している企業だ。

IoTを活用した、養豚場の総合管理などの農畜産関係の事例が有名だが、最近では、養殖業や小売業、行政や製造業など、活動の幅を広げている。

そこで今回は、代表的なDX事例を2つお聞きし、前編・後編に分けて紹介する。

前編では、熊本県人吉市が主導する橋をライティングすることで防災につなげる事例について、株式会社システムフォレスト代表取締役 富山孝治氏、最高IoT責任者(Chief IoT Officer)西村誠氏、IoTイノベーションチーム マネージャー 松永圭史氏にお話を伺った(聞き手:IoTNEWS 小泉耕二)

「光」を活かし、平時・有事共に視覚に訴える

人吉市は、2020年7月に発生した集中豪雨の被害が特に大きかった地域だ。わずか48時間の間に7月の平均雨量1ヶ月に相当する豪雨が発生。人吉市の球磨川は、既往最大水位を超過し、球磨川やその支流の反乱により、甚大な被害が発生した。

この災害を機に人吉市は、「災害に負けないまちづくり」を掲げ、復興プロジェクトやスマートシティ構想を立ち上げている。

そうしたまちづくりの一環として、2021年に人吉市が公募した「人吉市ライティング防災アラートシステム構築業務」をシステムフォレストが受託し、水位情報に応じて橋をライトアップすることで、市民にアラートを出すシステムの構築を行ったのだ。

ライティングを活用した防災アラートシステムの着想は、光を活用した空間設計を行う株式会社LEM空間工房と人吉市が、観光地として復興することを目的に、「人吉ひかりの復興プロジェクト」を立ち上げたことから始まる。

「人吉ひかりの復興プロジェクト」では、人吉市の神社や城址、通りなどをライトアップする「光のランドマーク」や、灯りと音楽を融合させたイベントを実施するなど、光を活用した観光を通し、復興を目指す活動が行われていた。

復興へ向け「防災」と「観光」を両立させるシステムづくり ―システムフォレスト インタビュー
光のランドマーク。「青井阿蘇神社」「人吉城址隅櫓」「鍛冶屋町通り」「人吉城址水の手門」(左上から時計回り)

一方、復興を実現するためには、「防災」の観点も欠かせない。

通常、豪雨などによる緊急事態発生時には、自治体が保有する防災行政無線を活用し、野外の拡声機(スピーカー)から避難を促す。

しかし、雨天や強風、車の通過などにより、市民に届かない場合がある。実際、2020年7月の豪雨の際も、放送が聞こえなかったという声が挙がっていた。

そこで、観光で活用しているライティングを防災でも活用できないかという発想のもと、「人吉市ライティング防災アラートシステム構築業務」を公募したのだ。

そしてシステムフォレストが参画し、橋梁の手すりなどに水位センサと連動した変色可能なLED照明を設置し、照明効果を利用して住民へ情報伝達を行う取り組みを企画・実施した。

復興へ向け「防災」と「観光」を両立させるシステムづくり ―システムフォレスト インタビュー
実際に点灯された様子。水位が基準水位に達した場合に、照明の色が自動で変化。住民へ危険を伝える事が可能に。

こうして、「防災」と「観光」を同じソリューションで実現することで、自治体、市民、観光客など、様々なステークホルダーを巻き込み、コスト効率を最大化しながら実現することができたのだと富山氏は語った。

復興へ向け「防災」と「観光」を両立させるシステムづくり ―システムフォレスト インタビュー
人吉市スーパーシティ構想における、「防」と「攻」が一体となったまちづくりを表した図

必要なインフラを整え、最大限に活用する

次に、「人吉市ライティング防災アラートシステム」のシステム構成について伺った。

全体の構成は、橋に取り付けられた水位センサが、基準水位(暫定)に達したことを検知すると、水位センサと連動した変色可能なLED照明の色が自動で変化する仕様だ。

復興へ向け「防災」と「観光」を両立させるシステムづくり ―システムフォレスト インタビュー
「人吉市ライティング防災アラートシステム」の構成図

水位センサから取得したデータは、3G/LTE通信にてクラウドに送信。クラウドはSORACOMのクラウドサービスを活用して構築している。

ここでのポイントは、通信に3G/LTEを活用している点だ。

通常防災目的でIoTを導入する場合、LPWAなどの低消費電力かつ長距離通信が可能な通信を使うことが一般的だ。

その理由は、河川などの屋外には電源がない場合が多く、「災害時」というある特定の際にのみにデータが必要となるため、そのためだけにリッチな電力を確保するにはコストがかかり過ぎてしまうからだ。

そこで、消費電力の小さい通信を活用することで、バッテリーや電池交換などのメンテナンスの間隔をなるべく広げ、デバイス自体の価格も低いことから、低コストで運用することができる。

一方、LPWAの場合、データ送信する間隔は30分に1回や1時間に1回などが一般的で、周辺環境によっては電波が乱れたり、遮断されたりすることで最悪通信できない可能性もある。

緊急性を問わない監視に関しては有効な通信であるが、水害の速度は思ったよりも早いのだと松永氏は言う。

「先日、夜通しで水位のチェックをしていたのですが、水位は10分もすればどんどん変化します。また、緊急時にはリアルタイム性も問われますので、安定的な通信が行える3G/LTE回線を活用しています。」(松永氏)

また、今回の事例では、もともと平常時は観光を目的として光りを活用する計画が進められていたため、電源の確保は整っていたのだ。

災害対策にデジタル技術を活用するには、費用対効果が難しい課題となってくるが、「防災」と「観光」を両軸で実施することにより、この課題をクリアしている。

クラウドのシステム構築に関しても、あえて自社で構築せずに、外部のクラウドサービスを活用することで、コストや時間をかけずに行うことができたのだという。

ITとOTを使い分け、適切な環境を構築する

また、システムフォレストは、前述したシステムの構築だけでなく、センサの取り付けや制御盤の設置など、物理的な施工も実施している。

復興へ向け「防災」と「観光」を両立させるシステムづくり ―システムフォレスト インタビュー
左:水面までの距離を測るセンサー、右:橋の側面に取り付けられた配線

その際、安全面や景観面などをクリアするために、様々な関係者に届出を出して調整するのに時間がかかったとする一方、施工に関しては、システムフォレストに電気系のエンジニアが在籍していたため、配線の取り回しなどを工事事業者と共に調整しながらスムーズに進めることができたと西村氏は言う。

そして、必要であればクラウドを経由したソフトウェアで制御する方式を取っている。

例えば、橋に設置されたライトは、季節やイベントに応じて手動で色などを変えられるようにしているため、水位によってライティングを変える制御盤とは別の制御盤が設置されている。

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左:手動で照明のライティングを変えるための制御盤 右:水位によってライティングするための制御盤

物理的に制御盤同士を接続することも可能だが、クラウド間連携することにより、柔軟な変更にも対応できるライティング制御を実現している。

さらに、取得した河川のデータは人吉市の防災に役立てたり、オープンデータ化してスマートシティを実現するためのデータとして活用したりできるためのシステムも、同時に構築されている。

ソフトウェアで構築するべきシステムと、物理的に構築するべきシステムを見極めながら実施したからこそ、平時と有事、両方で活用することができるソリューションが実現されたのだと富山氏は語った。