東芝、機器の稼働音を解析し劣化の兆候を捉える「音響劣化推定AI」技術を開発

近年、人手による定期点検での機器保全に代わり、AIを用いた機器の状態監視により適切なタイミングで保全を行う「状態基準保全」の取り組みが進んでいる。

機器の稼働音は、機器の状態を監視するための重要な情報の一つであり、連続動作や繰り返し動作の多い機器では、機器の異常や劣化が稼働音に現れるため、稼働音による状態監視が有効だ。また、稼働音を収集する音響センサは価格が安く、設置の制約が少ないというメリットもある。

稼働音による機器の状態監視においては、AIを用いた監視技術の開発が進んでいる。

AIは、大量の正常な稼働音を学習することで、機器の異常や劣化の音を高精度に検知することができる一方、実際の現場では、周りにある他の機器や空調設備などのノイズが入り込み、AIがこうしたノイズを異常として誤検知してしまうという課題がある。

特に、長期稼働する機器は、一般的に数年の時間をかけて徐々に劣化が進行し、劣化の初期段階に稼働音に現れる異常は微弱だ。

このため、従来のAI技術では、劣化を早期に検知しようとすると、周囲のノイズに対しても感度が高くなるため、誤検知の増加につながっていた。

こうした中、株式会社東芝は、機器の稼働音を解析し、劣化の兆候を高精度に捉える音響劣化推定AI「VAE-DE(Variational AutoEncoder-based Deterioration Estimation)」を開発した。

「VAE-DE」は、人間の脳の仕組みを模したAIの計算モデルであるニューラルネットワークを用いて、機器の稼働音の特徴を学習することで、劣化傾向にある微小な稼働音の変化を検知する性能と、周囲のノイズに影響されない頑健性を両立するAI技術だ。

「VAE-DE」は、データの特徴を自動で見つけ学習する「深層学習」の手法の1つである「変分オートエンコーダ(VAE)」のネットワークを用いて、正常音と劣化傾向音を離すように設計された、東芝独自の基準を用いて学習している(トップ画参照)。

従来のVAEは、正常音にノイズが混ざった場合でも誤検知を起こすことが少ない一方、微弱な劣化傾向音も正常音として見逃してしまうリスクがあった。

そこで「VAE-DE」では、ノイズに対して誤検知を起こしにくいVAEの手法をベースにしながら、新たに正常音と劣化傾向音を分離する基準を用いて学習することで、微弱な劣化傾向音のみを正常音の範囲外として検知することができる。

東芝、機器の稼働音を解析し劣化の兆候を捉える「音響劣化推定AI」技術を開発
上:「VAE」による従来手法 下:「VAE-DE」による微弱な劣化傾向検知のイメージ

これにより、稼働音に周囲の騒音や雑音などの音響ノイズや回路の電気的ノイズが混入した場合でも、誤検知することなく機器の劣化の兆候を捉えることができる。

実際に、電力設備で数年間使用された冷却ファンの稼働音と電力設備設置場所で収集したノイズから作成したシミュレーションデータを用いて、「VAE-DE」の効果を検証したところ、稼働音から機器の劣化状態を推定した値である「劣化推定値」と、実際の機器の劣化状況を示す「劣化傾向」の相関について、相関係数が0.144から0.905と大きく向上したのだという。

東芝、機器の稼働音を解析し劣化の兆候を捉える「音響劣化推定AI」技術を開発
評価結果である劣化度合いと推定値の関係。エラーバーは推定値のばらつきを示す。

これにより、従来は困難であったノイズによる誤検知を抑制した高精度な劣化の推定が可能となることが確認された。

今後は、今回開発されたAI技術を電源設備の冷却ファン向けに早期に適用することを目指すとともに、社内外の工場やIT設備において、長期間連続で稼働する冷却ファン以外の機器などへの適用拡大を目指していくとしている。

なお、「VAE-DE」の技術の詳細は、2022年11月13日から18日までハイブリッド開催される電力設備の診断技術を扱う国際会議「CMD2022」にて発表される。