交通渋滞が最大26%改善、NTTデータの中国・貴陽市における渋滞緩和の実証実験

株式会社NTTデータは、中国・貴陽市において貴陽市政府協力のもと、中国科学院ソフトウエア研究所(Institute of Software, Chinese Academy of Sciences、以下:ISCAS)と2016年3月に行った交通渋滞緩和の実証実験(注1)に続き、2016年9月19日から9月30日まで実験対象エリアと適用時間帯を拡大した実証実験を行った。

本実証実験では、前回実証実験時よりも実験エリアおよび時間を拡大し、事前に確認した交通量状況とその分析に基づいて信号制御パラメーターの最適化を行った。貴陽市の新市街区である観山湖区19交差点の信号機約220機において、分析・シミュレーション結果に基づくパラメーターを時間帯ごとに反映して交通を制御し、渋滞緩和および交差点における交通処理量の改善効果を検証した結果、対象エリアにおける渋滞が平均で7%、最大で26%改善され、交通処理能力も平均6.7%改善したことを確認したという。

NTTデータは今回の実証実験の成果を受け、貴陽市、ISCASとともに貴陽市の交通管制システムとの接続統合を行い、2017年度をめどにリアルタイムでの信号制御自動化機能を持つ渋滞緩和ソリューションの実用化を目指す。また、日本国内および世界各国で導入が進められているスマートシティ関連プロジェクトへの展開を図り、2020年度末までに国内外で100億円の売り上げ創出を目指す。

背景・共同研究の概要

近年、世界各国において、情報技術を活用したより利便性の高い社会を実現するスマートシティの取り組みが進められている。 中国・貴州省の省都である貴陽市においても、経済成長や都市化の進展により、市内中心部の交通渋滞が課題となっている。すでに貴陽市では交通管理用のカメラを通じた交通モニタリングシステムや最新のネットワーク化された信号機を導入した交通管制システムなどの高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems:ITS)(注2)による公共交通管理や道路交通管制の取り組みが進められてきた。

NTTデータは、これまでも交通ビッグデータを用いた渋滞予測・信号制御シミュレーション技術(注3)の開発に取り組んでおり、2014年には中国・吉林市において、2016年には中国・貴陽市において渋滞予測・信号制御シミュレーションによる渋滞緩和の実証実験を行い、その効果を実証した。

ISCASは、中国における交通に関する知見はもとより、統計分析処理における高度な技術を保有しており、研究拠点として貴陽市に分院を設立している。交通分野においては、交通流量の把握等を目的とした交通管理用のカメラを用いたビッグデータの分析技術を保有し、貴陽市において実運用を行っている。

NTTデータとISCASは、2014年4月に設立した中国科学院ソフトウエア研究所とNTTデータ 技術開発本部との共同研究センターにおいて、交通管制の自動化を目指した大規模かつリアルタイムのカメラデータ処理技術と交通シミュレーションによる渋滞予測・信号制御を組み合わせた渋滞緩和技術を開発し、実証実験に適用した。

実証実験の概要

本実証実験では、より現実の運用に近い設定での実験として、面的な制御を行うために前回の実験エリアを東西方向に拡大し、貴陽市の新市街区である観山湖区内をほぼカバーする19交差点を対象とし、制御対象とする時間帯を24時間/平休日の全時間帯に拡大した。

ISCASが解析している対象交差点に設置されたカメラより得られたのべ6千万台の車両の交通ビッグデータを基に、渋滞予測・信号制御シミュレーションを行い、エリア全体での渋滞緩和のために最適な信号パラメーターを生成して、対象エリアの交差点の信号機約220機に反映した。エリア内の複数経路の移動時間、対象交差点を通過する車両台数を基にした交差点処理能力について実験前後で比較し、渋滞緩和効果を以下の観点で評価、検証した。

・対象エリア:(前回)中国・貴陽市観山湖区12交差点→(今回)中国・貴陽市観山湖区19交差点へ拡大
・実験対象の時間帯:(前回)平日の朝夕のみ→(今回)平日・休日問わず24時間
・交通管理用カメラの台数:(前回)約100台→(今回)約170台
・対象信号機:(前回)約100機→(今回)約220機
・対象車両数:(前回)のべ100万台→(今回)のべ6千万台

実証実験結果

1.交差点処理能力の改善
交差点ごとの単位時間あたりの処理台数を実測した交通量を基に分析した結果、信号間の連動を考慮して信号を制御した交差点で、平均処理台数が平均6.7%、最大25%程度改善しており、交通点の処理能力(ある交差点が一定時間に通過させられる車の台数)が実験前よりも向上していることが分かった。

2.運行時間の改善
対象エリアを通過する車両をナンバープレートで識別し対象区間を通過する車両の移動時間を検証した結果、実験における信号パラメーターの変更により、交差点間の連動や青信号が点灯している時間の長さを改善したエリアにおいて、渋滞損失時間(注4)が平均7%、最大26%改善された。

以上の結果から、交通管理カメラのデータ分析と交通シミュレーション技術の組み合わせによって、交通渋滞が緩和できることを確認した。

今後について

今回の実証実験の成果を受け、貴陽市およびISCASと連携し交通管制システムとのリアルタイム接続による渋滞制御の完全自動化を実現し、貴陽市の事例を貴陽モデルとして中国国内での展開を目指す。加えて、交通シミュレーションと信号制御技術を組み合わせた渋滞緩和ソリューションとして、日本国内および世界各国への展開し、スマートシティの実現に向けた取り組みを推進していく。世界各国で導入が進むスマートシティ関連プロジェクトに本信号制御最適化ソリューションをベースとしたサービス展開を図り、2020年度末までに国内外で100億円の売り上げ創出を目指すという。

参考

ISCASについて
ISCASは、中華人民共和国国務院直属の研究機関である中国科学院の管轄先の一つであり、コンピューター科学、ソフトウエアを研究する唯一の国立研究所だ。1985年に中国の国家研究機関である中国科学院内に設置され、中国のシリコンバレーとも呼ばれる中関村に位置している。約750名のメンバーで構成され、コンピューターサイエンス理論やソフトウエア先端技術とその応用に関する研究を行っているほか、人材育成先として、コンピューター科学、ソフトウエアプロセスの昼間制専門学位の修士育成機関や、電子情報分野における初めての博士育成機関、ならびにポスト博士課程科学研究拠点も設置している。これまでに、基礎的な研究からビジネスに近い研究まで幅広く技術開発を行っており、海外の大学・研究機関や企業との連携も積極的に進めており、米、欧、日、オーストラリアなど40数各国・地域との幅広い科学技術交流と連携関係を構築してきた。

注釈

注1 2016年5月31日ニュースリリース:
中国・貴陽市において、ビッグデータを活用した「渋滞予測・信号制御シミュレーション」の実証実験で渋滞緩和効果を確認

注2 高度道路交通システム(ITS)とは、人と道路と車両間の情報ネットワークにより、交通事故、渋滞などといった道路交通問題を解決する交通システム。

注3 渋滞予測・信号制御シミュレーション技術は、「大規模グラフマイニング技術(Grapon)注」を採用し、高速・大規模なシミュレーションを可能にしている。

注4 渋滞損失時間とは、基準となる旅行時間から、実際にかかった旅行時間の遅れ時間のことを指します。「基準旅行時間」から少しでも余分に時間がかかれば、混雑の程度は問わず「渋滞損失時間」が発生したことになる。

注 「大規模グラフマイニング技術(Grapon)」はNTTグループのAI「corevo™」を構成する技術。

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