産官学が集まり激論。インダストリー4.0の何がすごいのか 東洋ビジネスエンジニアリング IoTForum 2017 基調講演 レポート

先日行われた、サテライト会場を含めると、優に1,000人以上が会場を埋め尽くした、B-EN-G IoT Forum 2017だが、オープニングトークでは、産学官連携が大事とされるインダストリー4.0の世界で、「産」「学」「官」のそれぞれから集まった出演者で、「何が我が国製造業の活力となるのか」という大きなテーマで議論がされた。

<出演者>
経済産業省 クリエイティブ産業課長 西垣淳子氏
株式会社デンソーアイティーラボラトリ 代表取締役社長 平林裕司氏
慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 白坂成功氏

<モデレーター>
株式会社ウフル 専務執行役員 IoTイノベーションセンター所長 八子知礼氏

<イベントホスト>
東洋ビジネスエンジニアリング株式会社 常務取締役 CMO/CTO 羽田雅一氏

「産」からみたIoT

B-EN-G IoTForum2017
株式会社デンソーアイティーラボラトリ 代表取締役社長 平林裕司氏

現在製造業のIoTについて、工場の中をインターネットにつなぐだけではなく、設計から開発・製造、サポートに至るまでの全体をインターネットに接続することで、新たな価値が生まれるとされる流れを受けて、デンソーの平林氏からは、「デンソーでは開発と設計、製造が非常に近く、生産ラインを自前で作っているため、そもそも設計を知らないと製造ができない、製造も設計をしらないと作れない。という環境であるという」ことが述べられた。

さらに、「開発と設計・製造が近いことがデンソーの強みとなっている」、とも述べた。設計が終わって量産に入った時、ダントツ工場で改善を繰り返す力や、完成度を上げていくというやり方が強いと考えているとした。

一方、慶応大学に入る前は、三菱電機で宇宙開発に従事するという、「産」の立場でも活躍していた白坂氏からは、「ドイツのエアバスの部署に2年くらいて、こうのとり(人工衛星)を開発した時にNASAと仕事をしていたのだけど、日本人はやらなければいけないことを確実にこなす。ただ、やれと言われたことは確実にやるのだが、それ以上やらないという傾向がある。やるべきことを明確にされた場合、やるべきことしかやらないという傾向もある。」と述べた。

こう見ると、やるべきことを確実にやる一方で、やれといわれたこと以外はやらないという気質の現場があるというのは問題だが、デンソーのように関連工程の内容を知った人材が、設計・開発・製造を行っているというのであれば問題がないように感じられる。そういう企業は、インダストリー4.0だからといってなにか慌ててやる必要がないということになるのだろうか?

製造業でITを取り入れていくということはどういうことなのか

ITというと、パソコンやスマートフォンで見ている世界をイメージする人が多くいるが、「本来ITとは広くテクノロジー全般を指すべきだ」と八子氏は言う。

製造業がITを取り入れる際、どういうことに注意していくべきなのだろうか。

B-EN-G IoTForum2017
東洋ビジネスエンジニアリング株式会社 常務取締役 CMO/CTO 羽田雅一氏

羽田氏は、「トータルのリードタイムを削減するという場合、現場でできることは限られてくる。そこで、設計段階で現場をかなり意識して、ものづくりをしていくべきで、PLM(Product Life cycle Management)と呼ばれる分野が海外では流行っている。」という紹介をした。

白坂氏は、「IoTというと、FAの話に活きがちだが、現場で得られたデータを設計にフィードバックすることでスピードも出る。

例えば、人工衛星の分野では、設計と製造を同時に考えるということが始まっている。これによって、これまで半年から1年かかっていた製造をわずか3週間で製造するということが実現できているというのだ。これは、衛星の設計そのもののやり方も変わっていくということなのだという。さらに、こうなると、大型衛星の製造も変わる。13ヶ月ある調達期間が10ヶ月になるくらいでもう勝てない。つまり、設計と製造を同時に考えることは非常に重要なのだ。

ドイツでインダストリー4.0の話をして、製造の話だけをする人はいない。設計の話をもっとするということだ。」と述べた。

また、西垣氏は、「一番問題はPLMだが、それを証明する数字がない。一般的にPLMによる、ものづくりの工程におけるリードタイム短縮効果があることについてはあまり知られていない。顧客が欲しいものを、早く、ニーズに応じて作ろうとした時、生産ラインの自動化や、混入生産は、すでにできているという話はするが、生産の現場以外で、どれだけの開発・設計工程に時間をかけていたかについて話す人はほとんどいない。」と述べた。

インダストリー4.0の代表企業シーメンスのなにが怖いのかというと、「ハードウエア」の分野についてではなく、「デジタルPLM」のトップメーカーになるために、3Dツールを持つ企業を買い続けて「デジタル・マニュファクチャリング・メーカーになろうとしていることなのだ」と西垣氏はいう。

製造のIoTについて語る時、生産の現場でのデータ取得にばかり目が行くことをIoTと言ってしまっていることが問題なのだ。

「学」からみたIoT

B-EN-G IoTForum2017
慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 白坂成功氏

また、「学」の立場で白坂氏は、「ドイツではちゃんと学が貢献している。日本では根本的なところで学が貢献できていない。日本の学と産業の間の産学連携では100万円未満程度の投資しかなく、しかも2年と続かないのが多い。これは、産業が学の結果を認めていない証拠だ。学はもっと論文をかくのではなく、結果につなげていくことが必要だ。」と述べた。

それでは、ビジネスに貢献する「学」とはどういう状態であればよいのだろうか?結果につなげるといっても具体的にどういうことができていればよいというのだろう。

そのことに関して、平林氏はドイツの例をだし、「ドイツの情報制御学会では実際の企業が提供するデータをつかって、どういう故障があるのかを問うようなベンチマーク問題が設定されている」ということを紹介した。

つまり、ある程度の企業内部の情報も学に対してオープンにされているので、その活きたデータをつかって学が研究をすることができるというのだ。

「官」からみたIoT

B-EN-G IoTForum2017
経済産業省 クリエイティブ産業課長 西垣淳子氏

「官」での取り組みとして、西垣氏は、「インダストリー4.0について話した時、ドイツの人に、日本のIMS(lntelligent Manufacturing Systems)じゃないかといわれた。なぜ、日本はいまさらインダストリー4.0で驚くのかわからないと言われた。」という。つまり1990年以降の取り組みの中で、日本の製造業の標準化は進んでいるという見方なのだろう。

しかし、ドイツがインダストリー4.0提唱して以降、プラットフォーム4.0という産官学連携の基盤を作った。その後、米国IIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)など海外との協力関係がすすんできた。

そういう中で、単なる標準化の取り組みに収まらず、リアルの情報をデジタル世界に展開し、未来を予測していく、「デジタライゼーション」への取り組みが、ドイツを中心としたヨーロッパ諸国で進んでいる。これについて、「スピーディー、スケーラブルであることが重要。自社だけでなく、どうやって繋がっていくのか、どうやって広がっていくのかが重要だと見ている。」と西垣氏は述べた。

現在、生産装置などのコアの技術は非常に高いと言われている日本だが、守りすぎるとまずい。インダストリー4.0の流れで多くの産業機械の構造の情報やコントローラーの情報をオープンにすることでデジタルファクトリーを構成し、高い汎用性のある産業機械で構成された工場で柔軟な製造をするということが起きてきているが、ここで情報を公開しない日系企業はこの中に入れない。

はじめは、差別化されているのでそれでも日本企業製品を買うことになるのだろうが、日本製ほどの性能がなくてもよい分野から徐々に他国製で情報を公開している製品群で埋め尽くされ出すのだろう。その結果、圧倒的にアドバンテージのあったガラケー産業が、スマートフォンに移行する中で、日本企業がプレゼンスを示せていないような状況が起きかねない。ここのバランス(どこまでを公開して仲間づくりを促進し、どこを非公開にするのか)をとるのが、今後の製造業では重要になるのだ。(小泉補記)

ひとりインダストリー4.0

また、「日本の工場に行くと、品質改善、ダウンタウンゼロ、などをインダストリー4.0と言っている。これをひとりインダストリー4.0と呼んでいる。」というのだ。これは、日本の工場が自社だけですべてを改善する活動をしていく様を表現しているといえる。実際のインダストリー4.0では、外部企業とも連携して、汎用品を取り入れて、全体で価値を出していくことなのに対して、「自社工場の改善の域」をでていないのだ。

これでは、効果に限界があるし、そもそも多くの日本の産業界が言うように、ファクトリーオートメーションの改善をしているだけだといえるだろう。

この状態で世界とどう戦うというのだろう。「製造を日本でやっているし、市場も日本なのでグローバルなんかは関係ない」という企業があるが、実際には自社が海外に出なくても、海外の企業が日本の市場を目指して参入してくる場合は多いわけで、グローバル市場においては、国内向けの生産だから、という言い訳は効かないのだ。(羽田氏)

デジタライズというコンセプトは日本に輸入できるか

八子氏は、ここで、日本の製造業は工場という狭いレベルのIoTの話が多い野に対し、欧米諸国がIoTといわず、「デジタライゼーション」キーワードで、製造のバリューチェーン全体をデジタライズすることについて、日本は同じ考え方を実現可能なのかという問いを投げかけた。

抽象化やモデル化が日本人は苦手といわれているが、実際にはで来ている人もいる。苦手な人が多い事実に対しては、単に教えていないだけで、ドイツもここ3年で大学で教え始めているということだ。と白坂氏が説明した。

また、西垣氏は、インダストリー4.0が入ってきた時に日本企業から聞こえてきた声は、「ファクトリーオートメーションは日本の方がすごい」という声だったという。

しかし、インダストリー4.0はファクトリーオートメーションの話ではない。ボトムアップ型ですすんできた日本において、システム的にどう見るのか?という考え方が現場に落ちてきていない、これが必要な発想だと考えている。」と述べた。

モデルベースエンジニアリングという考え方

モデルベースエンジニアリングとは、システムズエンジニアリングを、モデルを用いて進めるアプローチや手段のことだ。

白坂氏は、「モデルベースシステムエンジアリグはこれまでもやってきたが、プロダクトのライフサイクル全体を通じてモデルをどう活用するか?を考えることで恩恵が得られる」とした。しかも、「これができないと、インダストリー4.0などできない。ドイツでは、モデルベースというのを教えるために、概念を教えるためにアメリカから先生を呼んで、3年かけて教える人を育成している。」と学の役割を述べた。

また、「デザイン思考は、新しい価値を生み出すための方法だといわれているが、これは実は、日本のものづくりがスタートだと言われている。日本人がモノづくりに近いところで、みんなで集まりながら議論しながら作っていたのが始まりなのだ。一方で、スタンフォードのメカニカルエンジニアは、現場もわからないし、個室を与えられる、これではイノベーションは起きない、ということでデザインシンキングの考え方がでた」というのだ。

「日本では、このみんなで集まりながら議論することの良さが体系化されていないので、「みんなで作る」ということが失われてきている、もともとあった良さというのを体系化していけばよいのだ」と白坂氏はいう。

体系化といわれても、どうしてよいかわからないところだが、実際はそれほど複雑なことではないようだ。

それは、「何がモデル化できて、それをどれくらいの抽象度で管理して、目的に合致するか、を現場の人を交えて洗い出すこと」で「最終的なアウトプットはドキュメント30Pくらいのことだ」と白坂氏は説明する。

この考え方を習得するための教育を行うために、勉強会も行われているということなので、慶應義塾大学院の慶應イノベーティブデザインスクール(OPEN KiDS)のイベントをチェックするとよい。

B-EN-G IoTForum2017
株式会社ウフル 専務執行役員 IoTイノベーションセンター所長 八子知礼氏

会の最後に八子氏は、「多面的なコメントがきけてよかった。日本はハードウエアを作るところは強い。この10年のデジタライズの潮流をもっと取り込むことで、もっと強くなるはずだ。それが、生産現場という狭いところに陥ってはいけない、バリューチェーン全体にかかわる広い視点が必要だ。強みとなるところを見極めてよりよいビジネスモデルを作っていくということが重要だ。」とまとめた。

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