コネクテッド・インダストリーの全体最適と部分最適[Premium]

この記事は、先日行われたIoTパートナーコミュニティフォーラムでの小泉の公演に加筆修正しました。

新年あけましておめでとうございます。2018年が始まりました。今年もIoTNEWSを宜しくお願いします。

数年前まではIoTという言葉自体認知が進んでおらず、現在もっとも企業における投資額の多い製造業であっても、その当時は「m2mとどう違うのだ?」と言われていて、注目度も決して高いとは言えなかった。

その後、バズワードと呼ばれて数年たつが、最近ではバズワード好きな人たちは、IoTという世界を消化し切ることなく次のバズワードへと興味を移そうとしているようだ。

IoTNEWSは、そういった一過性の流行を追うのではなく、IoTやAIによる産業の変革を追いかけているので、今一度IoTという言葉の持つ意味とその役割、そして我々の産業に与えるインパクトを整理しようと思う。

 
私は、2017年、世界の展示会やイベントにできる限り参加し、様々な企業をインタビューしてきた。

その大きな理由は、例えば、「日本の製造業は中国に負けている」という言い回しをよく見かけるが、製造業といっても範囲が広く、どの分野の話で、どれくらい負けているというのか、ということが知りたかった。

他にも、「日本の匠の力を大事にしなければならない」という言い回しも、何を匠の技術と呼んでいて、どう守ろうとしているのかというあたりが具体的でなく、守るべきものがあるのは理解できるが、どれを指しているのかが全くわからなかったので、世界を知ることで日本の製造業のいいところも知りたかったという理由も大きい。

さらに、「スマート家電は、我々の生活を大きく変える」というテーマについても、正直ピンときていなかった。

IoTNEWSを始めるまでは自分で世界を取材してまわるなどということができなかったので、具体的にどうなるのかのイメージがつかなかったものだ。そして、同じような疑問を持たれる方も多かったのではないだろうか。

こういった疑問を持ちながら様々な展示会でいろんな企業の方とお話をさせていただいた結果、結論から言うと、今グローバルにおけるIoTの世界では、足元の収益を上げるための「局所最適」と、デジタライゼーションによる「全体最適」が同時に起こっていると感じた。

IoTにおける全体最適とは何か?

昨今、IoTやAIを自社ビジネスに活用しようとする企業が増えてきている。たとえば、製造業においては、生産性向上のため、「工場の見える化」や「予知保全」の取り組みが盛んだ。

様々な分野で仕事がたくさん来ている状態では、もちろん、生産性を改善し、なるべく設備投資をしないようにしながらビジネスを大きくする取り組みは不可欠だ。しかし、これらを「局所最適」のためだけに活用していないだろうか。

いわゆる系列と言われる下請け構造の中で、上位の製造業が儲かっていれば下請けも儲かるという図式は、高度成長期にはシンプルに成り立っていたと言える。

一方で、現在のように変化が激しく、10年前には存在感のなかった中国や台湾の下請け工場が、どんどん力をつけてきて製造業を牽引する存在になってきている昨今においては、これまでの系列関係がいつ崩れるかはわからない。

実際、2017年も幾つかの大企業が売却されたり解体されたりしていった。再編成が起きる中、必要な技術を持っている工場は継続的に仕事があるだろうし、海外からの発注がきている企業も多いという。しかし、高性能な製品を作る場合は、日本の工場のほうが安くて品質がよいといわれる状況があるが、それは過去数十年の間時間をかけて築いてきた状況であり、少子高齢化が進む中、必ずしもその技術が継承されているとは言えない。

そんな中、世界の需要を取り込むだけの生産技術が継承されていかなければ、仕事がある以上、新興国の企業も様々な経験する機会があるはずなので、いずれは別の国の企業がその仕事を奪い取っていくことになることとなる。

そんな環境の中、IoTで実現できることはもっとたくさんあるのに、我々は、本当に生産性の改善だけに取り組んでいていいのだろうか。

そのもう一方で起きているという、IoTによる「全体最適」とは何だろうか。

IoTにおける「全体最適」

IoTによって、現場から欲しいデータを集めてくることができる。そして、そのデータを膨大に集めることで、リアルな世界をバーチャルの世界にコピーすることができる。これが、「デジタルツイン」と呼ばれる概念だ。

そして、このデジタルツイン上でアルゴリズムやAIによるシミュレーションを行うことで、未来を予測し、リアルの世界をアクチュエートする。これが、「デジタライゼーション」とよばれる考え方だ。

IoTによって起きているグローバルでいう「全体最適」とは、デジタライゼーションによって、ビジネスプロセス全体を最適化していく動きのことだ。

わかりやすい例として、UBERがあげられる。UBERは、ドライバーアプリを持っている車の情報と、ユーザアプリを持っている利用者の情報をデジタル上に持っている。

そして、このデジタルデータを活用することで、利用者が行きたい場所へ行く際、「最適な」配車ルートをドライバーに提供することができる。

これだけ聞くと、以前から物流業などで利用されている、配送ルートを決めるアプリケーションで実現できるていることだと考える人も多いと思う。しかし、UBERでは、複数の人を複数の目的地に送り届ける、「シェアライド」と呼ばれるサービスがある。たくさんの人や車が行き交う街で適切な配車を行うには、デジタルツイン上でのシミュレーションが必要となるのだ。

デジタライゼーションの主役は既存産業

米国のコンサルティング会社、アクセンチュアのCEO、ピエール・ナンテルム氏によると、米フォーチュン誌が毎年発表しているFortune 500(総収入に基づき、全米上位500社がランキングされる)において、2000年以降、その半数以上の企業が消えていったという。そして現状、Fortune 500にランキングされている企業も、10年後にはその半分程度しか生き残れないだろうと同氏は見ているという。

このように既存の企業が衰退していく理由は、「デジタルを、ビジネスの中心的な戦略にとらえていない」ことにあるからだという。

従来も、「デジタル化」をビジネスに導入するということは、多くの企業がやってきたことだ。たとえば、工場のオートメーション化を進めたり、会計ソフトを導入したりといったことがこれにあたる。

しかし、それはあくまで手法、ツールの一つとしてデジタルを使ってきた部分最適の使い方だと言える。

一方で、デジタライゼーションは、デジタルをビジネスの中心としてとらえ、生産プロセスや製品のライフサイクル全体を最適化する、全体最適だと言えるのだ。

さらにいうと、デジタライゼーションが既存事業の変革である以上、主役となるのはGoogleやFacebookのようなIT企業ではなく、「既存産業」であるということが重要だ。

デジタライゼーションは、産業の再編成も巻き起す

デジタライゼーションが起こす変化は、インダストリー4.0とも呼ばれるが、第四次産業革命と呼ばれるくらいなので、とても大きな変化なはずだ。

この変化がわからないという人のために、よく流用される例がある。それは、フォードが車を生み出した前後のニューヨークの街並みだ。

1900年代のニューヨークでは、馬車が街中を走っていた。しかしその13年後、もう馬車の姿は見当たらず、街はクルマで埋め尽くされている。

それまで馬車が走る街で必要であった産業は、馬を育てるたり、世話をする仕事や、馬具を製造する仕事など、当然だが馬車関連の仕事ばかりだった。しかし、クルマが主流となるやいなや、これまでの産業は退廃しクルマを製造する仕事や整備をする仕事、エネルギー源を調達する仕事などに変わっていくのだ。

今、世界で注目されているデジタライゼーションによる変化は、この「馬車」から「クルマ」へという変化でみるとわかりやすい。

デジタライゼーションが果たされた例として、UBERの他にも、建機メーカーのコマツの事例がある。

建機メーカーである、コマツにとって、建機の性能を向上したり、改良したりすることは、馬車の性能を上げることと同じだ。しかしコマツは、そのような局所最適にとどまらず、デジタルツインを使って土木建築のビジネスプロセス全体を最適化するという、「スマートコンストラクション」を新たに事業化した。

これにより、業界全体で問題となっている人不足を解消しようというのだ。

ここで注意が必要なこととしては、建機の自動化や改良といった土木建築のビジネスプロセス全体から見れば、部分最適されている部分がなくなるわけでは無い。しかし、デジタライゼーションが果たされる中で、これまで人がやっていて測量の仕事はドローンによる3D測量に置き換えられていき、人が行っていたプロジェクト管理はシステムによって大部分が代替されるようになるのだ。

そのうち、建機そのもののデジタル化も行き着くところまで行くと、そこで差別化ができなくなり、そのうち土木建築の主役が建機ではなくなってくるだろう。もしかしたらその頃は全く別のモノで土木工事を行っているかもしれない。

こういう変化を読み解いて、実行することができた企業が、デジタライゼーションの果実を得るのだ。

スマートスピーカーがもたらすのはデジタライゼーションか

では、スマートスピーカーのように、声をかければ音楽をかけてくれる、といった単純な仕組みはデジタラインゼーションを果たせるのだろうか。

たとえば、Amazon EchoやGoogle Homeは、話しかけるだけでスケジュールを教えてくれたり、音楽を流してくれたりするかもしれない。しかしこれだけ見ると、人の生活を便利にするという「局所最適」のソリューションだと考えられる。

しかし、実際には、デジタライゼーションを果たすと、スマートスピーカーは生活プロセスの全体最適をもたらす。

例えば、毎朝何時に出勤したかを記録してくれるスマートロックがあるとする。そのスマートロックが記録する私の出勤時刻のデータは、クラウドに蓄積される。

ニュースサービスや、天気サービスがその情報を取得することができれば、AIスピーカーに対して、私がが出かける10分前になると、「雨がふるので傘を持っていくべきだ」「今日はいつも乗る電車が遅延しているよ」と教えてくれるようになるだろう。

これは「出勤」という生活におけるプロセス全体を最適化させることになっている。

「スマートスピーカー」や「スマートロック」などの単体の製品だけに注目してしまうと局所最適しかできないため魅力を感じない人も多いかもしれないが、こうやって生活プロセス全体の中にこれらを取り入れることで全体最適が可能となるのだ。

「とりあえずPoC」ではすまなくなってきている

現在多くの企業で「PoC」と呼ばれる実証実験の取り組みが進んでいる。しかし、ビジネスを意識していない、技術検証の域にとどまっている場合が多く、「どこで儲けるか」が明確でない取り組みが多いことが問題だ。ビジネス上の価値、特にビジネスプロセスを意識せず、「とりあえずIoTやAIをやらなければいけないから試しにやってみよう」と始めた企業はほとんどの場合成功していない。それどころか、得られた結果に対する成果を上に報告した時に、捨てられてしまうケースさえ散見される。

PoCにおけるビジネス的な価値とは、デジタライゼーションを果たすことを前提として、つまりデジタルをビジネスの中心として捉えることを前提として、やるべきことを定義し、概念実証を行うことが重要なのだ。

デジタライゼーションを意識している企業の多くは、同業における産業のプラットフォーム化を進めている。

プラットフォーム化とは、とある産業を平準化し、業務を取り込んだビジネスプロセス全体をデジタル中心に再構成するということだが、これにより一気に産業の在り方が変わる可能性がある。

では、すべての企業がプラットフォーム化を目指す必要があるのだろうか。実際のところ、そんなわけではない。

Googleが検索を始めとしたインターネットの世界のプラットフォームを作った際、Googleと一緒に大きなビジネスを作っていった企業は多くある。

つまり、必ずしもすべての企業がGoogleになる必要は無いし、新しいプラットフォーマーが現れることで、既存の産業構造の中のプレーヤーだけでなく、全く新しいプレーヤーにもチャンスが生まれてくるのだ。Googleの恩恵に預かって、ビジネスを大きくした企業は数え切れない。

シーメンスは、様々なジャンルのプラットフォーマーを次々買収し、多額の投資によりそれぞれのプラットフォームを鍛えようとしているのだ。

名前こそ、すべてをMindsphereと呼んでいるが、万能なものを目指しているというより、共有可能なモジュールは共有し、それぞれの業界によって異なるビジネスプロセスにあわせて内容を変えているように見えるのだ。

自社に関連する産業について、産業全体のビジネスプロセスと、自社の位置付けを明確にした時、自社はそのビジネスプロセス全体をプラットフォーム化するのか、それともその中に取り込まれることでメリットを生み出すのかを決断する必要がある時期がやってきているのだといえる。

もう、「とりあえずPoC」ではすまされない状況に来ているのだ。

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