東大・OKI・三菱電機、5G/IoT本格普及に向けた光アクセスネットワークの仮想化制御試験に成功

近年、各種センサーを使ったIoTサービス基盤や無線通信システムの開発が盛んに行われており、無線通信システムとしては、国内でも今春から5Gの商用サービスが開始され、2025年頃には本格普及する見込みだ。

一方、IoTサービスにおいては、5Gを活用したさまざまな社会課題解決への期待の高まりに伴い、有線と無線が統合されたネットワーク上の通信サービス要求が多種多様化(超大容量化、超多数同時接続対応、超低遅延化・超高信頼化)している。これらの要求は通信リソースを大量に消費するため、ネットワークの設備・運用コストが増大することが予想される。

この課題を解決する技術として、経路全体にわたるネットワークについて、それぞれの通信サービスに合った形で通信リソースを柔軟かつダイナミックに管理・提供できる「ネットワークスライス関連技術」が注目されている。

国立大学法人東京大学大学院情報学環の中尾研究室(以下、東大)、沖電気工業株式会社(以下、OKI)、三菱電機株式会社は、通信サービスが多種多様化する5G/IoT本格普及期に向けて、通信リソースを有効利用できる柔軟なネットワークを提供するため、2017年に総務省から受託した「IoT機器増大に対応した有無線最適制御型電波有効利用基盤技術の研究開発」に取り組んでいる。

そして今般、3社は光アクセスシステム「PON」(※1)の通信リソース(低遅延や大容量など通信における能力)を管理・制御する「PONリソース管理・割当制御技術」を開発し、光アクセスネットワークの仮想化制御試験に成功した。

同研究では、仮想的なPONを構築するオーケストレータを東大が担当し、光アクセスシステムをPONなどのネットワーク形態に依存しない形態に抽象化して通信リソースの管理制御を行うSDNコントローラー(SDNC(※2))は三菱電機が担い、PONリソースの割当制御を行うVOLTHA(※3)/vOLT(※4)形式のPON仮想化をOKIが行った。詳しい内容は以下の通り。

  • オーケストレータ技術
  • 業界団体Open Networking Foundation(以下、ONF)が開発しているCORDプロジェクトで開発したオープンソースのONOS(※5)プラットフォームで動作するPONドメインオーケストレータ(光アクセス網のみの制御)を開発し、多種多様な光アクセスサービスを従来よりも効率的に収容する見通しを得た。

  • SDNコントローラー技術
  • データの送受信に要する伝送遅延時間の要求度に応じて、事前に通信リソースを超低遅延向け・低遅延向け・遅延制限なし等の複数のクラスに分類し、そのクラスごとに通信速度や可用性(システムを停止することなく稼働し続ける能力)などを算出しておくことで、ネットワーク構築の要求を受けた際に通信リソースを素早く割り当てることができるアルゴリズムを開発した。

    また、PONの親局(OLT(※6))と複数の子局(ONU(※7))を結ぶPONリンクごとに通信リソースの利用状況を管理し、利用可能な通信リソースに応じて、スライス(分割されたネットワーク)に利用すべきPONリンクを選択する方式を考案し、多数のスライスを効率よく収容できる通信リソースの管理・制御アルゴリズムを開発した。

  • PON仮想化技術
  • 波長と時間の帯域を割り当てるTWDM-PON(※8)をベースに、要求に応じてPONのハードウエア機能の切出・合成を行うリソース割当技術、および切出・合成されたネットワーク(スライス)の独立性を確保する帯域割当技術(vOLT)を開発し、ONFが開発したVOLTHAアーキテクチャを考慮し、SDNコントローラーとのインタフェースをNETCONF(※9)で構成することで、PON仮想化を実現した。

東大・OKI・三菱電機、5G/IoT本格普及に向けた光アクセスネットワークの仮想化制御試験に成功
東大・OKI・三菱電機、5G/IoT本格普及に向けた光アクセスネットワークの仮想化制御試験に成功
同試験では「光アクセス網」部分における光アクセスシステムの通信リソースを仮想化制御するためのテストベッド(試験用プラットフォーム)を構築し、リソース割り当て試験を行い、仮想的なPONが構築できることを実証した。(トップ画像参照)

これにより、デジタルシネマや自動運転など、通信要件の異なるさまざまなIoTサービスに仮想ネットワークを効率よく構築できることを実証し、通信事業者が、5G/IoT時代に必要な通信サービスに応じた光アクセスネットワークをIoTサービス事業者に提供する目途をつけた。

3社は今後、仮想的ネットワークをより効率的に構築するために、今回の開発技術をベースとした割当制御技術を開発し、他の仮想化装置との協調動作検証やIoT有線無線リソース管理制御技術のプロモーション活動を実施していく。

なお、同研究にあたっては、早期にビジネス展開することを想定し、国際標準化も同時に行っている。光アクセスネットワーク仮想化を実現するアーキテクチャについては国際標準化ITU-T SG13(※10)で勧告化を完了し(Y.3150、Y.3151)、インタフェースについてはITU-T SG15(G.hsp)にて勧告化に取り組んでいる。

※1 PON(Passive Optical Network):光アクセスネットワークにおいて、収容局と加入者を結ぶ光ファイバーを分岐して、時間多重により収容局と加入者を1対多数で結ぶネットワーク構成。収容局側設備と光ファイバー線路を複数の加入者で共用するため、ネットワークの設備コストを低く抑えることができる。
※2 SDNコントローラー(SDNC):SDN(Software Defined Network)は、ネットワークをソフトウェア化する技術の総称で、その制御機能をSDNコントローラーという。
※3 VOLTHA(Virtual OLT Hardware Abstraction):業界団体Open Networking Foundation(ONF)がCORD(Central Office Re-architected as a Datacenter)プロジェクトの中で開発したOLTの機能を抽象化する装置であり、各ベンダの異なる仕様のOLT装置を共通化することで、制御を簡単化する。
※4 vOLT:Virtual OLT PONにおける集線装置を仮想制御するOKI開発の装置。
※5 ONOS(Open Network Operating System):SDNとオープンソースを採用した、通信事業者向けのオペレーティングシステム。
※6 OLT(Optical Line Terminal):PONにおける集線装置。
※7 ONU(Optical Network Unit):PONにおけるユーザ側装置。
※8 TWDM-PON(Time Wavelength Division Multiplexing PON):時間と波長の帯域をシェアするPONシステム。
※9 NETCONF(Network Configuration Protocol):ネットワーク機器の設定を取得、更新するための遠隔手続呼出しベースの通信プロトコル。
※10 ITU-T SG13/SG15(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Study Group13/15):
国際電気通信連合の標準化団体であり、SG13はIMT-2020、クラウドコンピューティングと信頼性の高いネットワーク基盤設備を中心とした将来網の規格化を行っており、SG15は伝送網、アクセス網及びホームネットワークのためのネットワーク、技術及び基盤設備の規格化を行っている。

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