トヨタ自動車株式会社は、交通事故死傷者の低減を目指し、北米の大学や病院、研究機関等と共同研究を行う「先進安全技術研究センター(Collaborative Safety Research Center、以下CSRC)」について、2011年の設立当初から5年間行ってきた自動車の安全に関する研究成果と共に、次の5年間の研究計画を発表した。「CSRC ネクスト」と称する次の計画では、自動運転やつながるクルマの課題や可能性について集中的に研究を行うという。
CSRCは2021年までに3500万ドルの規模で、新時代のモビリティに安全に移行するための研究を進めるとしている。具体的には、以下の4つの方向性で研究を進めていくという。
- 様々な衝突形態に対応する為の、センサーの高度化による予防安全・衝突安全技術の統合
- 自動運転技術など、先進技術を搭載したクルマを、ドライバーのみならず、交通社会全体を見据えてより使いやすく、より人間の感覚に合ったクルマとするための開発モデルづくり
- ドライバーの心理状態や健康状態を具体的な数値で把握することで、より良いモビリティに繋げていく研究
- ビッグデータと安全の分析手法を活用して、より現実の交通環境に即した運転データを研究できるアルゴリズムやツールの開発
この「CSRC ネクスト」を立ち上げる時点では、研究プロジェクトは8つで、6つの大学とパートナーシップを組んでいる。その中のひとつに、マサチューセッツ工科大学(MIT)Age Labと実施する、自動運転車向けの新システムに関する研究がある。周囲の対象物を確認し、交通流の中で他の交通とのやりとりを理解するという、画期的なシステムに関わるものである。また、バージニア工科大学とは、総合的な安全システム(ISS)-予防安全、衝突安全の双方を含む-を以ってしても、なお残りうる将来の安全上の問題について推測する研究を行うという。
CSRCは、北米における自動運転研究開発の一部も担っている。TRI(Toyota Research Institute, Inc.)やTC(Toyota Connected Inc.)などとも協力しつつ、CSRCは、自動運転技術開発のスピードを加速させるとともに、複雑さを増す新時代のモビリティと将来の社会のトレンドについても調査していくとしている。
また、「CSRC ネクスト」のスタートは、同時に、CSRC設立以降5年にわたる安全研究の成果を結論付けるものでもあるという。2011年の設立以降、CSRCは自動車業界のなかでユニークな活動を進めてきた。即ち、北米の大学や病院、研究機関とともに、事故の死傷者を減らすことを目指すプロジェクトを共同で進めてきたことに加え、全てのドライバーがメリットを感じられるように、研究成果を公にしてきた。
この5年間に、CSRCは23の大学と共に44の研究プロジェクトを立ち上げ・完了し、200以上の論文を発行、また様々な車両安全関連の会議でも研究プロジェクトの発表を行ってきた。
そして、CSRCの研究はトヨタ車の安全性向上にも貢献。たとえば、コンピューターによる衝突シミュレーションの能力向上、高度運転支援システムの作動をより的確なものにする研究といった例がある。ただし、CSRCは、トヨタ車の安全性を向上させることだけには留まらず、一例として、SAE(Society of Automotive Engineers)のような、国際機関における安全基準づくりにも貢献してきたという。
CSRCのプロジェクトは自動車業界全体としても、安全性向上に貢献。例えば、車両安全におけるヒューマンファクターの研究、予防・衝突双方の安全システムの効果の研究に加え、安全運転のデータやデータ解析のための新ツールの開発も実施してきた。
また、救急医療の推進についても、CSRCの研究成果のひとつだと考えているという。
ミシガン大救急医学部とのプロジェクトでは、運転中の心筋梗塞・心筋虚血を含む、重篤な心臓病の発症を、不要なノイズに紛らわされず確実に検知・もしくは予測する技術を開発。さらに「CSRC ネクスト」の一部として、院内、もしくは運転中に心臓病を発症した患者から収集した脳波データを機械学習にかけ、運転中の心臓病の発症を検知・予期するモデルを作る研究を実施している。
また、ネブラスカ大メディカルセンターと共に行う研究では、インシュリン注射を行う糖尿病患者のドライバーをモニターし、運転中の安全のために、血糖値を常時モニターするシステムの実証研究を行ってきた。この中で、実際の運転行動を評価し、どんな血糖値のレベルやパターンのコントロールが必要かを決める手法を研究してきた。
【関連リンク】
・トヨタ(TOYOTA)
・マサチューセッツ工科大学(MIT)
・バージニア工科大学(Virginia Tech)
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