製造業では、顧客に安全・安心な製品を供給するために、厳格な品質管理とともに製品不具合発生時には早急に根本的な原因を特定し、対策を実施することが求められている。近年の急速なデジタル技術の進展や昨今の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、データを活用したトレーサビリティシステムを構築し、品質管理体制の強化と従業員の安全性の確保の両立を図ることが重要となっている。
一方、自動車・家電向けエアコン用制御機器メーカーである株式会社不二工機の中華人民共和国の現地法人の蘇州不二工机有限公司(以下、蘇州不二工机)の工場では、これまで組立・検査ラインにおける作業実績を作業員が目視で確認しながら紙に記録していた。しかし、トレーサビリティを行う際には、人手で作業記録の中から関連する情報を収集して紐付けを行い、原因や波及状況の特定や対策を検討していたことから、作業に時間と経験・ノウハウが必要だった。
また、これまで蘇州不二工机では、Lumadaソリューションを提供する株式会社日立製作所(以下、日立)との協創を通じて、日立の生産管理システム「WEBSKY」(※1)や購買電子取引サービス「TWX-21 Web-EDI Global」(※2)、倉庫管理システム「ONEsLOGI」(※3)などの基幹システム・周辺システムを2004年以降から順次導入し、システムの拡張を行ってきた。
このほど、蘇州不二工机と日立は、製品トレーサビリティ強化とサプライチェーン連係を実現するスマートな高効率生産システムを構築し、2020年10月から稼働開始した。
具体的には、蘇州不二工机のエアコン用自動制御機器の製造工場(中国江蘇省蘇州市)において、日立の子会社である日立解決方案有限公司(以下、日立解決方案)がLumadaソリューションである製造管理システム「FactRiSM」を導入した。
FactRiSMでは、製造ロット単位で現品票をバーコードリーダーで読み取ることなどにより管理するとともに、製造現場のIoT化により使用部品のロット、生産ラインや生産シフトなどの4Mデータ(※4)についてもリアルタイムかつ正確に電子データとして管理できるようになる。
これにより、紙で記録管理をしていた従来に比べ、製品不具合発生の際に製品のトレースバック(※5)とトレースフォワード(※6)が瞬時に行え、原因究明と波及範囲の絞り込みが迅速かつ正確に実現できる。
また、作業ミス防止のためのインターロック(※7)機能も備えているほか、製造現場の4Mデータを活用して製造実行システム(MES)のKPI指標の国際標準規格ISO22400(※8)に準拠した総合設備効率(OEE)(※9)などのKPI分析を行える機能を有していることから、それを基にスピーディーに改善施策を立案・実行でき、生産性向上につなげることが可能で、かつ生産進捗のリアルタイムな見える化も可能となる。
さらに、FactRiSMで収集・蓄積した製造現場の部品出庫・加工・組立・検査ラインにおける4Mデータと、WEBSKYの作業計画データおよび顧客への製品販売データ、TWX-21 Web-EDI Globalの調達先からの購入部品のロットデータ、ONEsLOGIの部品入出庫データなどを連係させた。
製造現場と調達、生産、販売までのサプライチェーンが相互にシームレスに繋がることで、よりリアルタイムに事業全体の進捗状況やボトルネックなどの見える化が図れ、市場起点での迅速な経営判断と製造現場への反映が可能となる。

※1 WEBSKY:加工組み立て製造業向けの日立製の生産管理パッケージで、受注出荷・生産計画・購買・作業指示・原価管理などの機能を有する。
※2 TWX-21 Web-EDI Global:EDI(Electronic Data Interchange)業務(見積・発注・出荷指示・納品・請求など)を支援する日立製のクラウドサービス。
※3 ONEsLOGI::出荷・在庫管理から棚卸業務まで対応した日立物流ソフトウエア製のWMS(倉庫管理システム)。
※4 4M:huMan(人)、Machine(設備)、Material(材料)、Method(方法)。
※5 トレースバック:蓄積した情報を活用し、部品・製品の移動を遡及すること。
※6 トレースフォワード:蓄積した情報を活用し、部品・製品の移動を追跡すること。
※7 インターロック:FactRiSMの保有する機能。特定の原料ロットで不備が発覚した場合、当該ロットをロック状態にし、当該 ロットのロック状態が解除されるまで、作業者に警告を出す機能。また、指示された部品が無く代替部品を使用し、例外 的な作業を実施する場合、職場責任者の確認後に次の作業に進めるなど、作業品質の向上につながる機能のこと。
※8 ISO22400:MESのKPI指標の国際標準規格であり、生産性、品質、能力、環境、在庫、保全の6つの領域について、合計34項目のKPIが定義されている。
※9 総合設備効率(OEE):Overall Equipment Effectiveness。生産設備の効率を上げるために用いる指標で、稼働率、性能、品質により算出・決定される。
無料メルマガ会員に登録しませんか?

IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。