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NTT・ドコモ・NEC、28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功

高周波数帯は遮蔽物による電波伝搬の減衰が大きいため、遮蔽物対策が重要となる。1つの基地局から多数のアンテナを分散配置し(分散アンテナ)、移動端末に対して複数方向から無線伝送する高周波数帯分散MIMO(※1)は有力な解決手段の一つである。しかし、高周波数帯は、所要の無線伝送距離を確保するためにはアンテナの電波放射を特定方向に集中させる必要があるため、環境に応じて分散アンテナを選択する動的な無線伝送制御が必要となる。

日本電信電話株式会社(以下、NTT)と株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)と日本電気株式会社(以下、NEC)は、28GHz帯を用いた分散MIMOにおいて、エリア内の無線伝搬状況や移動端末の位置などの環境情報をシステム自身が把握し、環境に応じて基地局の分散アンテナを動的に切り替える技術の実証実験を2022年6月6日~9月29日まで実施し、成功したことを発表した。

併せて、分散MIMOを用いて遮蔽物の位置を検出する無線センシング技術や、分散MIMOの広エリカを実現する次世代ICTコミュニケーション基盤の構想「IOWN」の光無線融合技術の一つであるA-RoF(※2)伝送技術の基礎実証も行った。

分散MIMOシステム自身が環境把握し、動的に分散アンテナを選択する技術

NECは、分散アンテナを活用して分散MIMOシステム自身が移動端末の位置を予測し、適切な分散アンテナを選択する技術を開発した。具体的には、エリア内の各位置で、各分散アンテナの無線品質を持続的に測定し、最適な分散アンテナを学習しておく。そして、運用時に分散MIMOシステム自身が、各分散アンテナの無線品質を随時観測し、機械学習により移動端末の位置を推定する。

さらに、過去の移動端末の推定位置から未来の移動を予測し、次の無線品質情報を取得するまでの移動端末位置と最適な分散アンテナを予測する。これにより、現在の無線品質情報から取得した分散アンテナだけでは、移動に伴う遮蔽により伝送性能の急な低下や切断の可能性がある場合でも、同技術により移動端末の予測位置を基にして分散アンテナを選択し、無線伝送を継続できるようになる。

同技術の実証実験を広さは25×15×3.5m、実験エリア内に柱が4本存在する実験室で実施した。使用した実験機は5G NR 28GHz帯の物理仕様に準拠しており、周波数帯28GHz、信号帯域100MHz、サブキャリア間隔60kHzのOFDM方式(※3)である。また、同軸ケーブル(長さ20m)により、基地局装置と6本の分散アンテナを接続している。各分散アンテナは#0~#5の位置に合計6本設置し、図中の経路Y上に移動端末を台車で移動させて、分散アンテナ毎の無線品質情報を取得し、伝送性能を評価した。

その結果、無線品質情報の取得間隔が20msで移動端末が自転車走行速度(15km/h)程度で移動した場合、現在の無線品質に基づいて分散アンテナを選択する従来方式では、柱で遮蔽される位置にて受信強度が平均13dB程度低下したのに対し、同技術では、同位置における受信強度の低下を従来に比べて平均8dB程度改善して5dB程度に留め、高周波数帯分散MIMOで懸念される瞬断の回避が可能であることが確認された。

NTT・ドコモ・NEC、28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功
実験エリアと実験系の概観
NTT・ドコモ・NEC、28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功
実験結果(従来方式と本技術適用時の各々の相対受信強度特性)

無線センシング技術

分散アンテナの選択技術の実現には、移動端末の位置に加えて、通信デバイスを持たない遮蔽物の位置の把握も重要となる。固定設置される遮蔽物については、前述したように事前に無線環境を学習することなどで対応できるが、人体などの移動する遮蔽物については対応が困難だ。

そこで、NTTとドコモは、システム内で取得可能な無線品質情報から遮蔽物の位置推定を行う無線センシング技術を考案した。具体的には、分散アンテナ間で定期的に取得したCSI(※4)からアンテナ間の相関情報に基づく時系列情報を抽出し、この情報を特徴量とした事前データに基づく機械学習を行うことで、遮蔽物の位置推定を行う。

実証実験では、上記の検証と同じ実験場所と分散アンテナを用い、人体模型を遮蔽物と見立ててエリア内移動させ、同技術の実験検証を行った。具体的には移動端末と各分散アンテナ間のCSIから抽出した時系列の特徴量を学習させ、運用時に改めて取得したCSIから人体模型の位置を推定させた。

その結果、人体模型の位置推定誤差は中央値で約0.6m、平均値で約0.9mを達成しており、分散MIMO自身で、遮蔽物の位置も把握できる可能性が確認できた。同技術は、こうした高周波数帯分散MIMO伝送を支える環境情報の取得だけではなく、物体検知などのセンシングサービスへの活用にも期待できるとした。

NTT・ドコモ・NEC、28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功
使用した人体模型(遮蔽物)と遮蔽物の位置推定誤差

A-RoF伝送技術

基地局装置と各分散アンテナを同軸ケーブルで接続する場合、同軸ケーブルは通過損失が10mあたり数dB以上と大きいため、その設置範囲に限界がある。この代替え手段として、基地局装置からのIF信号(※5)をアナログ信号のまま光回線で伝送するA-RoFが考えられる。A-RoFは通過損失が1kmあたり0.5dB以下と小さいため設置範囲を広エリア化でき、同軸ケーブルと比べて細く曲げやすいため、ケーブル敷設にも柔軟性がある。

しかし、分散MIMOの実現には周波数同期用のローカル信号と、5GのようにTDD方式(※6)を実現するには、下り回線と上り回線の各伝送時間を通知するTDD制御信号を、基地局装置から各分散アンテナへ、データ信号とともに伝送する必要がある。そこで、NTTとドコモは、これらローカル信号・TDD制御信号・データ信号をシングルモードファイバにより、光1波長で伝送するサブキャリア多重伝送方式技術を開発した。

上記の検証と同じ実験場所と分散アンテナを用い、同技術の実証実験を行った。基地局装置から同軸ケーブル、またはA-RoFを介して2本の分散アンテナに接続し、A-RoF長も同軸ケーブルと同じ20mとして、TDD方式を用いて下り方向と上り方向のスループットを同時評価した。

その結果、A-RoF適用時も同軸ケーブルとほぼ同じスループット特性が維持できており、1波長にデータ信号とローカル信号、TDD制御信号を多重伝送しても、上下方向とも伝送特性が劣化しないことが確認できた。A-RoFはケーブル長を今回の20mから100m~1,000mと延長しても、通過損失が0.5dB以下であり、同特性がそのまま維持できることが期待できる。

これにより、高周波数帯分散MIMOをオフィスや店舗などの中規模屋内環境だけでなく、ショッピングモールや工場など大規模屋内環境にも適用可能となり、これらの環境にも安定した大容量無線伝送を提供できる可能性が示された。

NTT・ドコモ・NEC、28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功
A-RoF伝送技術の実験系
NTT・ドコモ・NEC、28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功
実験結果(上下方向のスループット測定)
今後は、28GHz帯よりもさらに高い周波数帯での実証や、人体など遮蔽物が変動する環境など、分散MIMOの適用周波数とユースケースの拡大に向けて、実証実験を進めるとしている。

※1 分散MIMO(Multi-Input Multi-Output):1つの基地局から多数のアンテナをエリア内に分散して配置し、それら分散アンテナとエリア内の移動端末との間でMIMO伝送を行う技術。
※2 A-RoF(Analog Radio over Fiber):無線信号をアナログ信号のまま光回線により伝送する技術。
※3 OFDM方式(Orthogonal Frequency Division Multiplexing):直交周波数多重伝送方式。
※4 CSI(Channel State Information):送信アンテナと受信アンテナ間の無線伝搬チャネル応答。5GのOFDM方式では、周波数リソースブロックごとに推定できる仕組みがある。
※5 IF(Intermediate Frequency)信号:中間周波数帯。ディジタル信号処理時のベースバンド帯と無線周波数帯との周波数変換処理の時に、実装インパクトを考慮して、一旦、その中間の周波数帯に周波数変換することが多い。
※6 TDD方式(Time Division Duplex):下り伝送と上り伝送を時分割で行う方式。

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