GitLab、AIエージェントの応答速度を最大11倍高速化するコンテキストグラフ「Orbit」を発表

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大規模なコードベースにおいて、AIによる自動コーディングや開発支援エージェントを実務に導入する際、ボトルネックとなるのはAIモデル自体の推論能力だけなく、開発プロセスを巡る「正しいコンテキスト(背景情報)の取得」にある。

AIエージェントは目的のコードやエラーの発生原因がどこにあるか分からず、何十もの関連ファイルを順番に読み込んでは捨てるという「宝探し」のような非効率な探索を繰り返す傾向にあり、その一巡ごとに膨大なトークンを消費し、応答速度の低下やハルシネーションを誘発していた。

こうした開発プロセスの課題に対し、GitLabは、同社が2026年6月10日に開催した「GitLab Transcend」カンファレンスにおいて、AIエージェントが瞬時に正しいコンテキストを把握できる新しいインフラ層「GitLab Orbit(ギットラボ・オービット)」を発表した。

「GitLab Orbit」は、ソフトウェア開発ライフサイクル全体のデータを統合してインデックス化する、AIエージェントのための新しいコンテキスト層だ。

ソースコードやissue(作業チケット)、マージリクエスト、CIパイプライン、デプロイ履歴、セキュリティ脆弱性、およびコードの所有権にいたるデータを単一の生きたグラフデータベースとして集約し、AIエージェントや開発者が同様に自然言語などを介して一元的に問い合わせを行える環境を提供する。

これにより、AIが余計なデータを読み込むことなく、正確かつ瞬時にピンポイントなコンテキストへアクセスできる環境を実現した。

従来の開発環境では、例えば「重大な脆弱性を持つ特定のライブラリに依存している本番サービスはどれで、それを誰が保守しているのか」といった実務的な疑問を解決するために、複数の異なるAPIを叩いて手作業で情報を繋ぎ合わせる必要があった。

しかし、「GitLab Orbit」では ClickHouseと呼ばれる高速な列指向データベースに、全てのライフサイクルデータをCDCパイプラインでほぼリアルタイムに集約しており、これらが同じスキーマで結ばれているため、シンプルなクエリ1回を投げるだけで構造化された正確な答えを引き出すことができる。

同社の社内テストの実証結果によると、Orbitに接続されたAIエージェントは、リポジトリ内のファイルを自力で読み漁る同じエージェントと比較して、応答速度が最大11倍高速化し、消費トークン数を最大4.5倍削減することに成功した。

さらに、ビジネスの信頼性において極めて重要なのが、でっち上げのファイルパスや間違った依存関係を出力するハルシネーション(AIの嘘)を最大45倍(45分の1)に削減した点にある。

英国の保険比較サービスであるCompare the Marketが実施した自動コードレビューに関するA/Bテストにおいても、従来のセマンティック検索では自動コメントの正解率が58%だったのに対し、「GitLab Orbit」のグラフを用いたシステムでは70%に達し、実務における高い精度と優位性が証明されているとのことだ。

なお、「GitLab Orbit」は、Anthropic社が提唱するAIと外部ツールの接続標準プロトコル「Model Context Protocol(MCP)」を標準でサポートしている。

これにより、開発者はAnthropicのAIを活用したコーディングアシスタント「Claude Code」や、その他の外部エージェントに対して簡単な設定コマンドを1行実行することで、すぐにGitLab上のコンテキストグラフを外部から安全に活用させることが可能になる。

加えて、急ごしらえのAI連携ツールが陥りやすいセキュリティ上の脆弱性に対しても、「GitLab Orbit」は最初から堅牢な設計を採っている。

グラフへのアクセス認可プロセスは、個々の開発者が元々保持しているGitLab上の既存のアクセス権限(名前空間の制限)をそのまま正確に反映する仕組みとなっている。

つまり、開発者に代わってグラフに問い合わせるAIエージェントは、その開発者自身が元来見ることの許されている範囲の情報しか取得できないため、意図しない社内データの漏洩や権限外アクセスを完全に防止できる仕組みである。

現在、ライフサイクル全体を可視化するフル機能版である「Orbit Remote」は、GitLab.comのPremiumおよびUltimateプランを契約している顧客向けにバージョン19.1以降でパブリックベータとして提供されており、セルフマネージド(オンプレミス)版は存在しない。

そのため、データ主権の観点などから自社サーバやクローズドな環境でGitLabを構築しているエンタープライズや小規模な無料プランのチームは、現時点ではソースコードのみを対象としたPCローカル動作版の「Orbit Local」を試すにとどまる。

また、グラフ上には開発担当者の氏名といった個人情報も含まれるため、外部の外部AIベンダーへデータを送信するにあたっては、個人情報保護法に基づいた法的根拠の評価やプライバシーチェックも同時に計画へ組み込むことが推奨されている。

GitLabは、現在のパブリックベータ版における運用を通じてユーザーからの実務的なフィードバックを収集し、本番運用への正式展開に向けて、さらなる言語パーサーの拡張やリアルタイム性の高度化といった機能追加を進めていく方針だ。