既存システムの運用・保守に割かれてしまう資金・人材 ーDXレポート

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、すなわち、新しいデジタル技術を導入して、新たなビジネスモデルを創出するためには、IT投資における「攻めのIT投資」を重点化する必要がある。

しかし、JUASの 「企業IT動向調査報告書 2017」によると、我が国企業のIT関連予算の80%は現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に割り当てられている。

さらに、冒頭の図の通り、ラン・ザ・ビジネス予算が90%以上を占める企業も40%を超えている。それにより、新たな付加価値を生み出すために必要なIT戦略に対して、資金・人材を十分に振り向けられていないという課題がある。

具体的な投資傾向については、一般社団法人電子情報技術産業協会の「2017年国内企業の「IT経営」に関する調査」(2018年1月)に示されている。この調査によると、我が国企業は米国企業に比べて、「業務効率化 / コスト削減」のための「守りのIT投資」に重点を置いている。

そのため、ITを活用した新たなビジネス・モデルの構築やサービスの開発を行うための「攻めのIT投資」が進んでおらず、バリューアップに向けた投資を進められていない実態が示されている。

レガシー化のために赤字案件を請け負うリスク

ベンダー企業が改修を請け負った際、ユーザ企業に自覚がないため、RFP(Request For Proposal、提案依頼書)に特に記載がない。そのため、改修を請け負ったベンダー企業側では、レガシー問題前提の見積もりはされず、開発を開始後にはじめて発覚する。

レガシー問題への対応作業は莫大で長期にわたり、大きな赤字案件になり、訴訟に発展する可能性もある。レガシー問題対応を実施できるベンダー企業は多くないことから、うま味のある案件にはなりにくい側面がある。

また、ユーザ企業のシステムが複数のベンダー企業により構築されている場合が多いた め、1つのベンダー企業がシステムの仕様の違いやデータを完全に取得できず、複数のベン ダー企業が関わるシステム全体を俯瞰することができないといった問題もある。

モダナイゼーションプロジェクトの起案の難しさ

ユーザ企業側にITシステムのブラックボックス化の認識があったとしても、レガシー問題に対する改修プロジェクトは自社経営陣の理解を得にくく、開始しにくい。

ほとんどの場合、現状の業務を大きく変更するわけではないので、システムの価値は高められるが、経営者から見て価値が見えにくい。将来的なリスクはあっても説明しにくい。現状は問題なく稼働しているため、誰も困っていない。結果として問題を先送りにしてしまう。
改修プロジェクトは比較的長期を要し、かつコストも安くはない。現状の仕様を完全に踏襲することは困難であり、結果的に従前より使い勝手が悪くなることも少なくない(例えば パッケージに置き換える場合)。

前述のとおり、レガシー問題は、技術的な側面からだけで生まれたものでないため、ユーザ側で対応を行ったとしても抜本的な解決にならず、「再レガシー化」の可能性がある。例えば、ハードウェア交換、ソフトウェアコンバージョンだけでは、ブラックボックス化は解消されない。

長期的な運用・保守費の高騰が「技術的負債」に

レガシーシステムの中には、短期的な観点でシステムを開発し、結果として、長期的に運用費や保守費が高騰している状態のものも多い。これは、本来不必要だった運用・保守費を支払い続けることを意味し、一種の負債ととらえることができる。

技術的負債を抱えているということは、将来にわたってDXの実行のために必要となる攻めのIT投資に資金・人材を振り向けることが困難となっていることも意味している。

こうした技術的負債は、経営上のリスクとして経営者が認識すべきものである。しかし、現時点において、将来運用・保守費が高騰することから生じるコストを負債ととらえる経営者が多くなく、したがって技術的負債を抱えていると認識している経営者は多くないものと考えられる。

ここで、短期的な観点でのシステム開発とは、リリース時点では最善の仕様、技術を採用しているが、期限やコスト制約の中で本来取り込むべき機能が取り込めていない、もしくはリリース当時は最新だった技術が時代とともに劣化し、新たな技術が出てきているにも関わらずそれを採用しないことで新たな技術の恩恵を受けられていない、といったことが考えられる。

(出典:経済産業省 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~)

INSIGHT

老朽化したレガシーシステムの問題は、ここで指摘されている通り深刻だ。
高度で複雑なシステムを作れば作るほど、その維持には手間とコストが掛かる。

ポイントは「Must have」と「Nice to have」を区別するところにある。
「Must have」とは、『この機能が無ければ使えない』という仕組みのこと。
「Nice to have」とは、『無くても良いがあると便利』という仕組みのことだ。

レガシー問題で顕在化するのは、この「Nice to have」が多すぎるシステムだ。
このようなシステムでは、ユーザーのこだわりや使い勝手を優先して、保守・運用の手間やコストを考えずに、IT部門が良かれと思って「Nice to have」を付けすぎている。

欧米企業では、バックオフィス系システムは使い勝手が悪くてもできるだけそのまま使う。
その理由は、手を加えずに使っているといつでも外部のベンダにアウトソーシング出来るからだ。既存システムの保守・運用よりも、次々とやってくる課題に対して新しいシステムで結果を出すことがIT部門のパフォーマンスなのだ。

IT部門の評価軸を変えるところから、DXの推進ははじまると言えるだろう。

(IoTNEWS製造領域エバンジェリスト 鍋野)

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