ファッション業界、音楽業界において、AIはヒットを生み出せるか

以前、IoTNEWS内で「ビューティテック」について取り上げた。そのなかで、Amazonが膨大な購買データから「ほどよくヒットしそうな化粧品」を製造し海外で展開していることを紹介した。

[参考記事]ビューティテック事例3選 ~ロレアル、Amazon、資生堂

さて、今回はそういった過去の大量データを分析すればAIはヒット商品をうみだせるのか?という点において2つの業界から考えてみたい。

アパレル業界の場合

さて、アパレル業界においてはテクノロジーの取り込みによって需要、流行予測まで行っているようだ。

実際に、販売需要を見極めるために過去の売上データをAIで分析したところ、利益率が10%近く改善したという例もある。需要予測という面においてはAIが活躍しそうだ。

さて、激しく流行が入れ替わるアパレル業界において、流行の予測は可能だろうか。ファッション業界には、「トレンドサイクル」という一定の流行が再びやってくるという考えがある。そのサイクルを、過去の流行データから推測することはできないか、という点においてAIの活用が期待されている。

しかし、実際はそう簡単にはいかないようだ。株式会社ニューロープ 代表取締役 酒井聡氏によると、流行は、その当時の様々な外的要因からできていることも多いそうだ。

20年ごとに流行が繰り返されるという指摘もあるようだが、単純に5サイクル分としても100年分のデータが必要となってくる。そのデータも人の手で作っていく、流行データを探し出す、といった点においても相当な労力を要する。ただ、そもそもデータ量、5サイクル分程度では不足しているという。

さらに、最も重要な「トレンド」という定義を見定めることが難しいところに課題があった。特に、突発的に流行する要素、例えば、原宿では少し前に「きゃりーぱみゅぱみゅ」ファッションが流行ったが、きゃりーぱみゅぱみゅの出現とそれによるファッション文化への影響を数値化することは果たしてできただろうか。

以前、同じくIoTNEWS内で投資に使われるAIについて取り上げることがあった。

ここでもAIのデメリットとして、突発的な変化に対応できないことを指摘していたが、アパレル業界でもそれは同じだ。そして、その不確実で突発的な要素がアパレル業界には多々ある。きゃりーぱみゅぱみゅが原宿を代表するファッションの一部となったのも、その突発的な要素のひとつだった。

そう考えれば、ファッションの予測においては、データ不足、突発的な変化要素が多い業界で、流行を読むという点においてはAI活用が難しい。必ず、来年の4月にはこのファッションがヒットするので、大量に仕入れようといった活用法には向いていない。

一方で、リテールテック分野、特に来客予想や需要予測、またデジタル広告活用といったアドテック分野においては、多くのスタートアップが参入を果たしており、AIの活用は進んでいる。来客数、販売数、といった定義が明確であるものは活用が進んでいるようだ。

音楽業界の場合

AIを活用して、作曲をおこなう研究が日本でも進められている。音楽業界におけるAIの活用は、ヒット曲を作曲できるかという視点になるのかもしれない。

では、過去のヒットソング集など、比較的データも残っているため、ファッション業界と違いヒット曲への分析が進んでいるのかと思えば、案外そうでもない。産業技術総合研究所 主任研究員 深山覚氏によれば、AIによる作曲アプリケーションは、既に世の中に多く出回っているものの「ヒット曲を生み出す」のは、ファッション業界と同じく外的要因によるところが大きいという。

ヒット曲と呼ばれる曲は、なぜヒット曲となったのかを分析していくと例えば、歌手が人気であることがあげられる。

番組企画のコラボレーション等で生まれたユニットであったり、昔はさほど多くなかったものの、現在では多くの声優が曲をリリースしていることも無視できない。年末の紅白歌合戦では、水樹奈々、過去に進撃の巨人のテーマソングを歌ったSound Horizon、そして今年初出場するLiSAもアニメ界では多くのファンから支持されている。

一方で、ヒット曲に多い定型メロディーがあることは指摘されている。しかし、そういった定型的なヒット要素を多く盛り込んでも、ヒットの決め手にはならず、ごく平凡的な曲しかできない。何がヒットする要素か、という部分はファッション業界と同じく「突発的要素」であり、それは予測が難しいことからも、AIがヒット曲を生み出すのは難しいとわかる。

データ量と定義がAIの活用幅を大きく左右する

2つの例を見ていて、共通しているのはデータとヒットにおける定義だと考えられる。

どれほどのデータを収集できたか、何をもってヒットしたと判定するかはAI活用現場においても同様の課題と言える。誤りデータ、正しいデータを学習させる側が認識できていなければ、学習を進めることはできない。

となると、短期的な販売数など定まった数値予測はできても、来年春に流行る女性ファッション予測という曖昧なものは現状難しい。AIが活用できるシーン、活用できないシーンを見極めることは今後増えていきそうだ。

 

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