瀬戸内海の海上ライドシェア開発から新たなるMaaSの取り組みへ ―ピージーシステム 佃浩行氏インタビュー

広島県では、様々な産業・地域課題の解決をテーマに、技術やノウハウを保有する県内外の企業や人材を呼び込み、試行錯誤できるオープンな実証実験の場として、2018年より「ひろしまサンドボックス」という取り組みを行っている。

このひろしまサンドボックスのプロジェクトのひとつに、「海上」をテーマに行われた実証実験がある。

瀬戸内海では、海難事故が多く起きていることや、人口減少による定期航路の廃止、プレジャーボート稼働率の低さなどの課題があった。

そこで、海上タクシーやプレジャーボートなどの船舶を共有する海上のライドシェアを活用した観光事業や、海上構造物や船の位置データと海域の安全情報などを連携させることで安全航行を実現する、といったことを目的に、「海の共創基盤〜せとうちマリンプロムナード〜」という事業が、ひろしまサンドボックスで立ち上がった。

本稿では、この事業の代表者である株式会社ピージーシステム 広島本社 イノベーション事業部 部長 佃浩行氏に、サンドボックスで行った事業の具体的な内容や、そこから見えた課題、そしてその後発展的に行われている取り組みについてお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉 耕二)

様々な試行錯誤から見えてきた課題

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まずは、ひろしまサンドボックスに参加した理由について教えてください。

ピージーシステム 佃浩行氏(以下、佃): 当社はもともとシステムインテグレーターとして、受託開発やパッケージの販売を行ってきたのですが、我々が主体となって事業を行い、会社のプレゼンスをあげられればと思い、ひろしまサンドボックスに応募しました。

私は前職で富士通にいたこともあり、富士通九州ネットワークテクノロジーズに声をかけ、その他にもせとうち観光推進機構、Intheoryに協力していただき、共にコンソーシアムを構成して企画を考えました。

当初は海上観光と安全航行支援の企画を考えていました。審査では、その中の構想のひとつである「海上のライドシェア」に注目していただいたので、そこからは海上のライドシェアを中心に、観光と組み合わせて構想していきました。

例えば、海上のライドシェアが実現して船に乗って移動しても、その先の交通手段がないということで、タクシーを乗り放題にする、といったことや、観光に関しても支援できるように、おすすめスポットのレコメンドを行う観光AIアプリの構築などを行いました。

また、海上タクシーが安全に航行できるように、海洋クラウドを活用したアプリ開発などを行いました。

小泉: 仕組みは実際にサンドボックス内で作られたのでしょうか。

: はい。他会社が作っている観光用のMaaSアプリに、海上タクシーのルートとタクシーのルートを入れ込み、我々が作った予約システムと連携して、一括予約できるように構築しました。

瀬戸内海の海上ライドシェア開発から新たなるMaaSの取り組みへ ―ピージーシステム 佃浩行氏インタビュー
株式会社ピージーシステム 広島本社 イノベーション事業部 部長 佃浩行氏。富士通グループに長年勤め、2015年にピージーシステムに転職。

また、おすすめスポットのレコメンドを行うのに、広島県内の観光スポットのデータ化を行い、レコメンドエンジンを開発しました。

安全航行支援に関しては、海上構造物や地形、気象、定期航路などのデータを統合し、船舶の航行状況などのリアルタイムのデータも集約した海洋クラウドを構築しました。

小泉: こうした仕組みは実際に運用したのでしょうか。

: コロナの影響でなかなか難しかったのですが、広島市立大学の教授や学生、関係者などに協力を得て、アプリを活用して宮島から江田島まで海上タクシーで向かい、江田島ではタクシーの乗り放題を活用して観光をしてもらう、という実証実験を行いました。

反応は非常に良く、特にタクシーの乗り放題の評判が良かったです。江田島には観光で使える公共交通機関が殆どなく、レンタカーを借りるかタクシーを使うしか選択肢がないため、こうしたサービスがあると便利だと好評でした。

一方、実際に運用してみると多くの課題が見えてきました。

まずは船を活用した事業を行う際には、船の業務経験が5年以上なければ許可が下りないという制約です。

ここに関してはマリーナの協力もあり、乗り越えられそうだったのですが、一番大きな課題だったのはコストの問題です。

船のガソリン代はとても高く、宮島から江田島間を1時間〜1時間半程度運航すると、ガソリン代だけで1万円はかかってしまいます。

例えば1人3、4千円で提供するとなると、船長さんの人件費などもあるので、少なくなくとも1度に10人は乗船しなければ運用できません。

そうなると当初構想していた、Uberのように気軽に利用できるライドシェアとして活用するのは難しいと考えました。

また、タクシーに関しても、規制とコストの課題がありました。

乗り放題という仕組みを実用化しようと思うと、江田島のタクシー会社が乗り合いの許可を取るなどの申請をしなければなりません。

江田島のタクシー会社はほとんどが家族経営の小規模な会社なので、そこまでして実用化する、ということにはなりませんでした。

さらに、今回は実証ということで、我々が費用を持ちましたが、コスト的にも単独のタクシー乗り放題だと、赤字になってしまいます。

こうした課題があり、結果的にはサンドボックスが終了した後に断念せざるをえませんでした。

「つなげることの価値」を生み出す構想

瀬戸内海の海上ライドシェア開発から新たなるMaaSの取り組みへ ―ピージーシステム 佃浩行氏インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

小泉: 広島はたくさんの島があるので、それを海上移動という選択肢を交えながら観光ができる発想はとても面白いのに、もったいないですね。

: そうですね。集客規模や金額などを想定することが出来れば良かったのですが、コロナで観光客がおらず、お店も閉まっているという状況だったので、ビジネスとして考える段階にはいけなかったということもあります。

構想としては、「3泊4日の広島〜江田島〜尾道プラン」というような、期間と周遊箇所をある程度決め、固定金額のダイナミックパッケージにし、その中でホテルや交通手段を選べるというプランにすれば、旅行業の免許が必要などの別の課題もありますが、コストの課題はクリアできるのでは、と考えています。

広島の観光スポットは小規模な場所も多いですが、つなげることで価値が生まれます。

小泉: 確かに飛び地になっているので、個人で周遊するのはなかなかハードルが高いですが、そうしたプランがあれば是非活用してみたいと思いました。コロナが落ち着いてまた検証していただけるのを期待しています。

デジタルデバイドをなくす新たな取り組み

小泉: こうしたサンドボックスで行った様々な取り組みから、発展して今行っている事業があれば教えてください。

: これから似島で実証をスタートさせようとしている、グリーンスローモビリティを推進するオンデマンド交通の取り組みを、総合建設コンサルタントの福建調査設計と広島市と共に行っています。

具体的には、島民や観光客の移動手段として、グリーンスローモビリティを活用してもらおうというものなのですが、スマホが使えない方でも利用できる仕組みを構築しています。

瀬戸内海の海上ライドシェア開発から新たなるMaaSの取り組みへ ―ピージーシステム 佃浩行氏インタビュー
時速20km未満で行動を走ることができる電動車であるグリーンスローモビリティ。

似島だけでなく、離島では高齢化が進んでいるので、スマホを持っていない方や、使えない方でも利用できるように、ボタンを押すだけで予約ができるシステムになっています。

仕組みとしては、富士通のオンデマンド交通サービスという、運行を管理するシステムと、我々が作っている簡単予約システムをAPI連携させています。

本来の回線はLoRaWANなのですが、似島でのサポート状況が不明なため、ゲートウェイにて3Gに変換しています。

利用者がボタンを押すと、クラウドに空いているかどうかを確認し、その結果がタブレットに文字と音声でPUSH通知されます。

瀬戸内海の海上ライドシェア開発から新たなるMaaSの取り組みへ ―ピージーシステム 佃浩行氏インタビュー
ボタンを押して予約が完了すると、タブレットに到着予定時刻が表示される。

小泉: 高齢化の問題は深刻で、こうした分かりやすい仕組みはその他の場所でも活用できそうですね。

: 実際にこの取り組みから発展して、AIオンデマンドバスというシステムを埼玉に導入しようとしています。これはボタンではなく、タブレットとNFCリーダーを活用した仕組みです。

バス停にNFCリーダーを設置し、そこに利用者がタグをかざすと、識別して予約することができます。バスにもNFCリーダーが設置されており、タグをかざすことで本人確認と、決済を行います。

更に、NFCの代わりに手のひら静脈認証やマイナンバーカードによる識別や、マイナポイントとの連携による決済等も検討しています。

小泉: サンドボックスで得た経験やノウハウ、つながりが、新しい取り組みにつながっているのですね。これからはどのような展開を行っていきたいとお考えですか。

: まずはオンデマンド交通に注力し、全国に展開していきたいと思っています。どんな方でも利用できるよう、デジタルデバイドをなくすシステムを構築し、将来的には海とつなげた移動を実現していきたいです。

小泉: 今後の展開も楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。