5月30日から6月1日まで開催されているスマートファクトリーJapanにおいて、経済産業省 製造産業局長 多田 明弘氏は「大変革に直面する製造業と“Connected Industries”推進に向けた取組」と題して、製造業に対する4つの危機感とConnected Industriesの推進について語った。
この4つの危機感は、経済産業省と厚生労働省、文部化科学省の3省共同で作成し、5月29日に公開されたばかりの「2018年度版 ものづくり白書」にメッセージとして強く込められているという。
製造業の現状と人材確保の取組
製造業は、数字だけをみると売上高、営業利益ともに増加傾向で、さらには今後3年間の見通しも明るい。一方、様々な深刻な課題を抱えており、すぐに手を打たないと日本の製造業の競争力そのものが低下するなどの悪影響が出ると多田氏は指摘する。
モノづくり白書の調査におけるアンケートで「データの収集・利活用にかかる戦略・計画を主導する部門はどこの部門か」を聞いたところ、1年前は44.8%が「製造部門」が主導するとなっていたのに対して、2017年は22.3%に減り、55.1%が「経営者、経営戦略部門」が主導するという回答に大きく変わった。
さらに「データを収集してどんな利活用をやっているのか」を聞いていくと、実際にやっていることは「データ収集と見える化」中心で、2016年も2017年も変わっていなかったことが分かったようだ。
先のアンケートで、「データの収集と利活用は、経営戦略部門がやっていかなければいけない」という変化はしたものの、実際の取り組みについては1年前と2年前では変わっていないのが現状だ。それに対して多田氏は、「経営戦略部門の主導のデータ収集、利活用について一日も早く次のアクションに移ってほしいとい期待している。」と語る。
また、人材の確保についての意識もここ1~2年で大きく変わったことが紹介された。
「人材確保の状況と人材確保対策の取組」を聞くアンケートでは、人材確保の状況について「特に問題がない」が2016年に約20%だったのが2017年には6%に減り、逆に「大きな問題となっておりビジネスにも影響が出ている」が22.8%だったのが32.1%まで上がっており顕著な変化がでている。
さらに、「特に確保が課題となっている人材」を聞いていくと、2016年には約60%が「技能人材」であったのが2017年には約40%に減り、その分「デジタル人材」や「設計デザイン人材」の割合が増えてきているのが特徴だと解説した。
また、「人材確保対策において最も重視している取組」については、「自動機やロボットの導入による自動化・省力化」「IT・IoT・ビッグデータ等の活用などによる生産工程の合理化」の伸びが顕著であった。
さらには、「賃上げや福利厚生の充実化」「人事制度などの抜本的な見直し」も伸び率が高くなっており、働き方改革を推進し、若者を引き付けるためにはこういったところまで踏み込まないと採用がうまくいかないという課題にあたっていることがうかがえる。
デジタル人材の必要性
Connected Industriesを進めていくうえで大事な人材という意味の「デジタル人材」とは、ITをわかっていて、データサイエンティスト等含めて広く「デジタル人材」とくくり定義しているとのことだ。
この「デジタル人材の必要性等」のアンケートで、「デジタル人材の充足状況」についての問いには、全体の約75%は「質・量ともに充足できていない」と回答し、また「デジタル人材の業務上の必要性」については40%が「業務上不要」と答えている。
多田氏が特に着目しているのが、この「業務上不要」と答えた人に、さらに「デジタル人材を不要と考える理由」を訪ねたところ、「自分の業務に付加価値をもたらすとは思えない」「費用対効果が見込めない」という答えが80%弱をしめている点だ。
この結果を見て多田氏は「デジタル化、第4次産業革命、Connected Industriesの真の狙い、何がその裏側にある危機感なのかを、まだまだ浸透することができてないという自分たちの危機感につながるアンケート結果だった。」と述べた。
製造業に対する4つの危機感
①人材の量的不足に加え質的な抜本変化に対応できていないおそれ
ここでいう経産省としての問題認識は、「今、製造業務における負担集中により人材の量的不足として求めている人材は、5年後、10年後も本当に必要な人材なのか?」という事だという。
多田氏は、「本当はもっと製造現場と違うところに人材を獲得していかなければならないが、それができていないという事実が、全て“人手不足”という言葉の中組み込まれて、その意味合いがかき消されていないか。“熟練労働者の退職を補充する人材が取れない”ということのほかに、もっと、深刻な問題としてデジタル人材の不足やシステム志向不足というのがある。」
また、「世の中にゲームチェンジャーが表れてくる中で、自社が、今後稼ぎどころをどうしていくのか、ビジネスモデルをどう考えていくのか、という取組みをしなければならない局面が来たとき、そこに向き合うために必要となる全体を見る力を備えた人材をしっかり育てることができているかということに、しっかりと向き合わなかればならない」と訴えた。
②従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになるおそれ
多田氏は「お客様である取引先の要求にしっかり答え、品質を高めるということで強みを発揮してきた日本の製造業は誇るべき点であるが、そのことが、仕事のやり方を考えていく、あたらしい稼ぎどころを探していくときに、場合によっては、変革の足かせになってしまう」という問題意識について述べた。
さらに、「本当の川下の消費者のニーズがどこにあるのかということに考えをおよばさずに、取引先の意向ばかりを気にしすぎているとこれが将来的に難しい問題に直面するのではないか。取引先のニーズに答えるだけでなく、自分の会社を変えたい、取引先を多角化しよう、自分たちの力点をここに置こうと考えたとしても、取引先の理解を得られるのだろうかということに考えを巡らせてしまって変革に歩めないという問題もあると思う。」と述べ、昨年にあった品質管理の問題を例に、直接的な取引先との関係だけが非常に重視されていて、最終製品としての考えが及んでいないことを指摘する。
③経済社会のデジタル化等の大変革期を経営者が認識できていない恐れ
製造業周辺では、第4次産業革命、ドイツのインダストリー4.0、Connected Industriesなどのキーワードが躍る。
多くの製造業者は2000年当時、ITベンダーからの多くの売込みに多額の投資したが、あまり業績には結びかなかったという経験から、昨今もITベンダーからの話は、1歩、2歩引いて話を聞くというのにとどまっている、さらには、現在は業績が順調であるため新しいメスを入れる必要性を感じられないという中小企業は多いという。
製造業は、古くはオイルショック、プラザ合意後の円高不況、バブルの崩壊、アジアの金融危機、リーマンショック、東日本大震災などさまざまな困難、苦境を乗りこえてきていると思うが、今回の迫り来る第4次産業革命による製造業が取り組むべきチャレンジというのはこれまでの危機とは質が違うということを、多田氏は強く訴える。
④非連続的な変革が必要であることを認識できていない恐れ
製造業においてサプライチェーンを考えたときに、取引相手全員が危機意識を持っているかというとそうではないのが現状、また会社の中でも、オープンイノベーションについて自前主義の脱却といってもなかなか会社から受け入れられないことが頻繁に起きているという。
ボトムアップ経営依存からの脱却も必要で、仕事のやり方やモノの売り方、またはサービスの在り方までが全く違う様々なライバルが、新規参入であったり既存企業からのスピンアウトであったりと表れてくる中、次の一手を現場からの提案を待つのでは、時間的にも間に合わないし、本当に必要なことを決められない可能性もある。
日本の製造業の実力からすると、経営者による正しいかじ取り、正しい選択と集中が進めば、
製造業がこれからの迫りくる危機を乗り越えていけると確信している一方、しっかりとした対応をしない場合、あるときに非常に厳しい局面になってしまうかもしれない危機感をもっていることを多田氏は強調した。
全てが、経営者の意識変革を求めたメッセージだ。
多田氏は、「もし経営者の中でこの深刻さ理解していないとしたら、今回のモノづくり白書を読んでほしい」と述べた。
関連リンク:
ものづくり白書2018年版
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1975年生まれ。株式会社アールジーン 取締役 / チーフコンサルタント。おサイフケータイの登場より数々のおサイフケータイのサービスの立ち上げに携わる。2005年に株式会社アールジーンを創業後は、AIを活用した医療関連サービス、BtoBtoC向け人工知能エンジン事業、事業会社のDXに関する事業立ち上げ支援やアドバイス、既存事業の業務プロセスを可視化、DXを支援するコンサルテーションを行っている。