従来の基地局設備は、専用のハードウェアとソフトウェアが一体となっており、あらかじめ周波数などのリソースの割合や設置場所を決めて運用されていた。そのため、例えばあるエリアにおいてモバイルブロードバンド回線に多くのリソースを割り当てている中で「低遅延」サービスを展開したい場合、低遅延用のトラフィック処理が十分に行えないといった状況が生じるなど、利用者のニーズに合わせたネットワークを柔軟に提供することが困難といった課題があった。
このような課題に対し、例えば低遅延のような特定のサービスを利用したい顧客向けにネットワークを分割し、リソースを配分する技術「ネットワークスライシング」の導入により、顧客の利用用途に合わせたサービスを提供することが可能になる。このネットワークスライシングの導入を柔軟に行うためには、基地局を汎用ハードウェアで構築し、その汎用ハードウェア上でさまざまなソフトウェアを動作させる仮想化技術への適用が必要となる。
KDDI株式会社と日本電気株式会社、ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社、富士通株式会社は共同で、5Gネットワークの高度化に向けて、顧客のニーズに沿ったネットワークを提供可能とするための要素技術の一つである基地局仮想化およびO-RAN Alliance(※1)準拠のマルチベンダー接続性に関する実証実験を2020年3月から9月まで実施する。同実証実験の内容は以下の通り。
- 基地局仮想化の実用性の検証
- O-RAN準拠のマルチベンダー接続性の検証
5G基地局を構成する装置のうち、データ処理部であるCU(Central Unit)(※2)および無線信号処理部であるDU(Distributed Unit)(※3)に仮想化技術を適用し、仮想化された基地局の実用性を検証する。
これまで基地局を構成する装置同士を接続するための仕様はベンダーごとに異なり、複数ベンダーの装置を組み合わせて基地局を構成した場合、動作しないなどの問題が生じるため、一般的には同じベンダーの基地局装置同士が接続されていた。
同実証実験においては、O-RAN Allianceで規定されるオープンなインターフェースを活用し、DUと無線装置であるRU(Radio Unit)(※4)間の基地局のフロントホール(※5)において、さまざまなベンダーの機器同士の相互接続を検証する。
KDDIは、同実証実験で培った技術を基に、将来的に導入を行う5Gのスタンドアローン構成(※6)において、ネットワークの柔軟性をさらに高めて通信ネットワーク全体でのネットワークスライシングへの対応を目指す。これにより、例えば4K/8Kといった映像の高速データ伝送や産業機械の遠隔操作、交通分野における自動運転など、さまざまな分野で「超高速」「多数同時接続」「低遅延」といった5Gの特長を生かしたネットワークの提供が可能としている。
※1 O-RAN Alliance:Open Radio Access Network Allianceの略称であり、5Gをはじめとする次世代の無線アクセスネットワークをよりオープンでインテリジェントにすることを目的に活動している業界団体。
※2 CU:基地局において、主にデータ処理をおこなうノード。
※3 DU:基地局において、主に無線信号処理をおこなうノード。
※4 RU:基地局において、送受信されるデジタル信号の無線周波数変換や電力の増幅を担うノード。
※5 フロントホール:基地局における、無線信号処理部と無線装置間のインターフェース。
※6 スタンドアローン構成:5G基地局に5G専用に開発したコアネットワーク設備を組み合わせるシステム。
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