現在、公衆網としてインフラ整備が進む5Gの技術を用い、建物や土地など限定した範囲で自営通信サービスを提供するローカル5Gが注目されている。ローカル5Gでは、準ミリ波帯である28GHz帯(28.2-28.3GHz)が屋外利用の周波数帯として制度化されているが、使用する周波数が高いためサービス提供可能なエリア(セルサイズ)が小さくなり、コスト的にも物理的にも面的な展開が難しいという問題があった。
特に、列車や自動車などの移動車両にエリア限定で情報配信をするようなサービスでは、スポット的に配置された自営スポットセル(※1)への接続遅延が発生すると、移動車両がサービスの提供を受ける前に自営スポットセルを通過してしまうことがあり、自営スポットセルへの高速接続技術の実現が強く求められていた。
そこで、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT)と東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)、公益財団法人鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研)は、全国通信事業者が提供する公衆網に接続された列車や自動車上の端末などが、自営網事業者(※1)が設置する自営スポットセルの圏内に移動した際に公衆網から自営網へのスムーズな無線ネットワークの切替えを可能とする基盤技術の実証実験を2019年12月4日~2020年2月6日に実施し、成功した。
同技術はNICTが開発したもので、自営網事業者と公衆網事業者間で加入者情報を共有する必要がなく、公衆網などの一般的なネットワーク回線を経由して自営網に事前に一度アクセスしておくことで、接続切替えに要する時間を短縮できる。また、自営網と公衆網の事業者間で利用者の加入者情報を共有することなく、公衆網と鉄道用などの自営網の間でスムーズな接続切替えを実現する。
同実証実験は、NICT構内、鉄道総研所内試験線での予備実験を経て、栃木県のJR東日本 烏山線の宝積寺駅から下野花岡駅間で実施した。烏山線の沿線に、NICTが開発した親局となるベースバンド装置(BBU)1台と無線信号の送受信処理を行う無線機(RRH)3台を設置し、総長3kmの範囲がサービスエリアとなる自営のリニアスポットセルを仮設した。
これら3台のRRHと、烏山線を走行するACCUM(蓄電池駆動電車)の営業車両内に設置した端末との間で通信を行い、公衆網と自営網の接続切替えの実証を行った。その結果、従来は4分以上掛かっていた公衆網から自営網への接続切替時間が、平均5秒以下、最大でも10秒程度に短縮できることを実証した。
さらに、地上に設置した複数のカメラ映像を同時に車上に伝送する動画伝送実験も実施した。その結果、公衆網利用時には約800ミリ秒だった往復遅延時間(ラウンドトリップタイム)が、自営網に接続を切り替えた後は約100ミリ秒とおよそ8分の1に短縮され、動画の品質が改善できることを確認した。
地理院地図(国土地理院)を利用
※1 自営スポットセル:自営網事業者が設置する特定エリアに限定したセルのこと。
※2 自営網事業者:全国通信事業者とは異なり、オフィス、駅、商業施設などにおいて独自に基地局を設置して専用の通信サービスを提供する事業者のこと。このような施設の管理者が自営網事業者となり、独自に自営網を設置するような場合もあれば、ローカル5Gを専門に扱う事業者が自営網事業者として、このような施設の自営網を設置・運用する場合もある。
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