三菱地所のコンパクトオフィス
山本:オフィスビルのスマート化の事例について、幾つかご紹介しましょう。
まず三菱地所様が取り組むコンパクトオフィスシリーズ「CIRCLES」についてです。

例えば、ラウンジの混雑状況をカメラセンサーで人型(ひとがた)をカウントしています。あくまで「人型」をカウントしているだけなので正確な人数を把握できるわけではありませんが、「ここが空いている」「やや混雑しているな」といった事は分かります。
―なぜ三菱地所はこのような取り組みを行っているのでしょうか。
山本:「会議室が満室なので共用部で打ち合わせしましょう、と行ってみると、そこも満席でした」といった無駄な往復時間を排除するため、事前に混雑状況を確認できるようにしたのです。

このスイッチを見てください。実はこのスイッチ、電池で動いていません。押した時の運動エネルギーで起電して電波を飛ばし、オンオフの状況を知らせているのです。また、トイレの個室にはこうした運動エネルギーで使用中が把握できる鍵を実装しています。無給電無線スイッチと言われる製品です。

この壁スイッチと同等製品を4年前、ドイツの携帯ショップ屋で「スマートハウスキット」としてスマホと人感センサーとセットで売っていました。4年前すでにドイツではこういったものが普通に売っていたのです。
こうした無給電無線スイッチをいれるメリットは、まず配線工事が必要ありません。のちのちレイアウト変更になった場合でも、工事のやり直しが発生しません。さらに電池切れの心配がありません。
―このような無給電無線型スイッチの導入が日本で遅れたのはなぜでしょうか。
山本:電波法の関係で、日本とヨーロッパで周波数帯が違うため、こうしたテクノロジーと製品の存在が知られていなかったためです。中国とヨーロッパは同じなので、そのまま輸入出来ますが、日本はローカライズしないといけません。しかし、そのローカライズできるベンダーが当時は育っていなかったのです。
内田洋行はこうしたスイッチを含めた各種デバイスを用いて、オフィス環境の利便性向上を図ってきました。さらにスマートフォンやタブレットでの操作にも対応してきました。
さらに同じ画面をビル管理会社も共有していますから、本社にいながら複数のビルが今どういう状況かが、全部遠隔で監視できるようになっています。これだけでも管理コストが下がるはずです。
内田洋行の統合監視ソリューション
山本:各ビル拠点側はエッジ・コンピューティングと呼ばれる自律分散型構成によって、拠点ごとに判断ロジックが組めるようになっていて、制御をかけるということが出来ます。そして一番大事なデータは一番安全なクラウド上で保管されているのです。
―つまりエッジ側である程度インテリジェンスを持って処理が行われ、データはクラウドで処理される、というエッジ・コンピューティングの世界が、オフィスビル管理の領域でも行われているということでしょうか。
山本:おっしゃる通りです。我々はそれらを構成するキーデバイスとして「インテリジェンス・コントローラー」の存在を重要視しています。
この「インテリジェンス・コントローラー」のインターフェースはオープン・プロトコルに対応しており、ヨーロッパでも日本でもおおむね5,6種類のプロトコルでカバーしています。基幹線はBACnet/IPそれからOPC、末端の所はLonworks、Modbus、KNXなどです。KNXは日本にはまだ浸透していませんが、ヨーロッパや中国の展示会に行くとKNXだらけです。
こうしたクラウド統合とエッジ・コンピューティングによるビルの監視制御を、従来の「中央監視」という言葉と分けて「統合監視」と表現しています。
今までは中央監視がビル毎に必要でした。しかし「統合監視」の場合はクラウドに統合していますから、1か所に入れておけば2棟目からのビルは中央監視が要りません。 これだけでも施主からすればメリットが大きいわけです。
LEDの色で知らせるCO2濃度
山本:続いてご紹介するのは、某メーカーでの設備連動制御です。
ここは多くの棟数を持つメーカーで、最初は5階建てのビルの1階だけ、温湿度・CO2センサーを複数実装しました。
―なぜ湿度とCO2の管理が大事なのでしょうか。
山本:まず湿度についてですが、温度の管理だけでは暑さをコントロールすることに限界があるためです。
例えばアメリカの西海岸は日本より温度が高い。けれども乾燥しているので全く暑く感じません。
しかし日本や東南アジアなどは湿度が高いので、べたつくような暑さを感じるわけです。オフィスの環境においても温度だけでなく湿度を上手くコントロールする必要があるのです。
さらに大事なのがCO2の管理です。
CO2濃度が高いということは、酸素濃度が相対的に低いということ。このメーカーのオフィスはフロア面積の割に人数が多かったので二酸化炭素濃度が必然的に上がります。すると集中力が途切れて、もっと濃度は上がれば眠気を誘発する環境になってしまいます。
ただし濃度を検知するだけならば、単なる「見える化」で終わってしまうので、VAVダクトの開閉率を自動で制御する仕組みを実装しました。
この弁を温度と湿度、CO2の関係で計算して、自動的に制御します。結果的にこのメーカーは3年かけて5階全てのフロアに拡張実装されました。
―こうした温度・湿度・CO2濃度の管理について、もともと内田洋行はノウハウを持っていたのでしょうか。
山本:いいえ。内田洋行は温度・湿度・CO2を管理するロジックについては、ノウハウを持っていませんでした。そこで、このメーカーの設備制御担当のノウハウをパラメーター化して、この中にセットすることで自動化することが出来ました。CO2濃度を適正に保つことが大事だと分かっている会社は、ここまでやるわけです。
ここで強調しておきたいのは「IoT=センサー」のように理解している方が結構いらっしゃいますが、それは完全に間違い、ということです。
通信モジュールを搭載した装置やデバイスの登場と短距離無線通信など通信技術の進化によっていろんなモノが繋がりますよというのがIoT。たまたま「センサーが配線を引かずとも飛ばすことが出来るようになりました」ということが最初に出てきたので、IoT=センサーのイメージが強かったのですが、大事な点は「つながる」という事です。
―ところで、この照明は何でしょうか。

山本:これはPhilipsのHueという間接照明に対し、CO2センサーから信号を送ってきて、「何ppmであれば何色に変化する」というテーブルをインテリジェンス・コントローラーにセットし、CO2の濃度によって段階的にLEDの色を変えるようにしたものです。

―なぜこのようなものが必要なのでしょうか。
山本:10人くらいの会議室で1時間しゃべり続けて会議を行うと、平気で1,500ppmくらいまでCO2濃度が上がり、会議室の環境は悪くなります。そのような会議は生産的ではありません。もちろん会議の中味が一番重要ですが、それと同じくらい環境も大事なのです。
しかし会議中に音によるアラートを発することや、パトランプを回すようなことは会議の流れを止めることになり当然出来ません。そこで某社は会議の流れを止めないように、“さりげなく”CO2濃度の変化を教えてくれる仕組みが欲しい」と我々にリクエストしたのです。
例えばCO2濃度が上がって色が変化した時に、「ちょっと休憩しましょう」「入口あけてくれますか」と言うだけで、環境を変えることができます。出来るだけ会議の流れを止めず、こういうものでさりげなく知らせてくれる。さらに一定のCO2濃度を超えると換気扇や送風機と連動させることも自動化できます。
次ページは、「単一ではなく統合化したソリューション提供を目指す」

1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。
