「物流2024年問題」を越えた物流の現在地と展望 ―小野塚氏インタビュー①

昨年は「物流2024年問題」の年だった。

4月にドライバーの拘束時間や運転時間などの規制が強化されたほか、時間外労働の上限規制も適用された。こうした要因により、輸送能力が1割から3割不足すると、2024年以前より危惧されていた。

そこで、各企業は物流の効率化へ向け取り組み、日本政府の各省庁も実証実験や補助金の交付などを通じて問題の解決へと働きかけてきたわけだが、2025年を迎えた今、その成果を含めた実情はどうなっているのだろうか。

物流業界の現在位置とこれからの展開を紐解くべく、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏に、過去の潮流を踏まえた現状や課題、展望についてお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表小泉耕二)

「物流2024年問題」をきっかけに注目を集めた物流業界

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 昨年は、ドライバーの労働環境が見直され、物流コストを引き上げなければモノが運べなくなると危惧されていた「物流2024年問題」の年でしたが、実際に物流コストは上がったのでしょうか。

ローランド・ベルガー 小野塚征志氏(以下、小野塚): トラック1台がモノを運ぶ運賃そのものは、2000年を100とすると、現在は120ほどまで上がっています。

2000年から2014年頃までは95あたりまで下がっているので、ボトムから考えると3割近く上がっているという状況です。

その原因としては、人手不足や燃料費の高騰に加え、トラック自体の値段も上がってきていることが挙げられます。

また、積載率に関しては、4割弱をキープしている状況です。

各企業は、積載率を上げる取り組みや、ドライバーの荷待ち時間を減らす取り組みなどでコストを抑制しようとしていますが、物流費が上がっていることは確かです。

小泉: そうした状況の中、小野塚さんは昨年の11月27日に「ロジスティクスがわかる」という新刊を発行されましたが、どのような経緯でこの本を執筆されたのでしょうか。

小野塚: 「物流2024年問題」が起きた結果、メディアでは物流の問題がフォーカスされ、企業では新たに物流部門を強化したり、人材を新たに配属したりといった流れが生まれました。

また、最近では、多くのファンドが物流会社を対象にM&Aを進めていますが、担当者が物流業界の専門家ではないケースや、ロボットメーカが物流センター向けに展開したいが、そもそもどこに交渉すればよいのかわからないというケースもあります。

つまり、良くも悪くも「物流」が注目を集め、門外漢から物流に関わる人が増えてきているのです。

そうした方々へ向け、入門書として「ロジスティクスがわかる」を執筆しました。全く物流に関する経験や知識がない方でも読み進められる内容にしています。

小泉: たしかに「ロジスティクスがわかる」では、基本的な言葉の説明や物流の全体像がわかる内容になっていますよね。一方、物流の未来や戦略まで語られていて、初心者から経営層などの上級者にも参考になる本だと感じました。

小野塚さんはこれまでにも、2019年に「ロジスティクス4.0」を出版し、2020年に「サプライウェブ」を出版されていますが、内容としては「ロジスティクスがわかる」が一番やさしいですよね。

読み進める順番としては、入門書である「ロジスティクスがわかる」から始まり、サプライチェーンの中でロジスティクスを語っている「ロジスティクス4.0」へと繋がる。そして、調達や生産、販売にまで話が広がっている「サプライウェブ」という流れだと思うのですが、なぜ今の順番で出版されたのでしょうか。

「物流2024年問題」を越えた物流の現在地と展望 ―小野塚氏インタビュー
ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

小野塚: はじめに出版した「ロジスティクス4.0」は2019年で、新型コロナウィルスのパンデミックが始まる前でした。

その頃はまだ普通にモノが運べていましたし、今ほど物流が注目を集めていませんでした。

一方物流業界の中では、2017年頃から倉庫で活躍するロボットや、データを取得して配送管理を画面で行うサービスなどが増えており、物流業界に携わる人は展示会などでそれらのソリューションに触れていたという時代でした。

そのため、物流業界に携わる人に向けて、物流の現在の状況や未来を紹介したいという想いで出版しました。

その後出版した「サプライウェブ」は2020年で、パンデミックの最中でした。

当時は、これまでの需給のバランスが崩れる中、「物流」という特定の領域だけで語るのは不自然だと感じました。そこで、サプライチェーン全体の取引をネットワーク化し、ウェブ化していく必要があるという未来の話を書いています。

小泉: 時代の流れに合わせて出版されていたのですね。

これから本を読む方は、「ロジスティクスがわかる」を読んだ後に、「ロジスティクス4.0」「サプライウェブ」と読み進めると、さらに理解が深まりそうですね。

人とロボットが協働しながら進化する物流倉庫

ところで、「ロジスティクス4.0」を出版された2019年頃というと、Amazonの自動倉庫が注目を集めた時代ですよね。

この倉庫では、人も働いていますが、無人で荷物を運ぶ搬送ロボットである「AGV」や「AMR」が協働することによって、これまで人が行なっていたピッキングなどの作業を効率化しています。

当時はこうした映像を見て、物流倉庫の在り方を考える人も多かったと思います。

小野塚: そうですね。自動倉庫自体は1970年代頃から存在していますが、何百万という種類の商品を取り扱うAmazonが設立した自動倉庫ということで、大変注目を集めました。

Amazonに限らずですが、ECの場合は種類が非常に多いことに加え、数年という短い単位で商品内容が変わるため、メーカと比較すると、自動倉庫を導入するのは難易度が高いのです。

そこでAmazonの自動倉庫では、棚ごとロボットが持ち上げて人がいるところまで持っていくという斬新なアイディアで倉庫内の業務を効率化していて、インパクトがあったのだと思います。

「物流2024年問題」を越えた物流の現在地と展望 ―小野塚氏インタビュー
Amazonの自動倉庫で動いているAGV。棚を持ち上げて倉庫内を走行している。(出典:Inside Amazon)

小泉: Amazonの例以外にも、倉庫に関して、ここ10年ほどの間で変化はありましたか。

例えばオフィスであれば、ネットワークを使う仕事が増えたため、床下にLANケーブルなどの配線を収納して床上に取り出せるようにする、フリーアクセスフロアが登場しています。

倉庫においても、時代の流れとともに新しい仕様になっているのでしょうか。

小野塚: 2000年11月に「投資信託及び投資法人に関する法律」(以下、投信法)が施行されてからは、画期的に変わっています。

投信法により、投資信託の運用対象に不動産等が加わり、リートが解禁されました。

リートが解禁される以前は、倉庫の所有者と運用者は同じでしたが、リートにより投資者から資金を集めることができるようになり、デベロッパーが標準化された物流センターを建て、複数の利用者が倉庫を借りるという構造が増えています。

小泉: デベロッパーが建てる物流センターは標準化されているということですが、具体的に何が標準化されているのでしょうか。

小野塚: 建てた後、数十年運用することを前提に、建物の高さやバースの幅など、躯体自体が標準的な作りになっています。

また、トラックが上層階にも行けるような作りになっていることや、電源設備が整っていることなどが挙げられます。

小泉: ネットワークやロボットなどのデジタル機器がはじめから搭載されている物流センターはないのでしょうか。

小野塚: 基本的に物流センターは建物の中を貸しているので、デジタル機器などの導入は、各利用者の判断で導入してもらいます。

ネットワークに関しては、整えている物流センターもありますが、多くの場合、各利用者が用意する仕様です。

ただ、物流センターを借りて、荷主の代わりに物流業務を行うサードパーティロジスティクス(以下、3PL)事業者が、主にEC事業者向けに、倉庫にデジタル機器を導入・提供しているケースはあります。

小泉: では、デジタルという側面で見ると、3PL事業者が提供している倉庫が最新のものになるのですね。

小野塚: ECにおいてはそうです。

小泉: では、メーカの倉庫や、飲料のみを扱っている倉庫など、大規模な従来型の倉庫の自動化は進んでいるのでしょうか。

小野塚: メーカの場合、商品の種類がECに比べると少ないので、自動倉庫も導入しやすく、以前から自動化は進んでいました。

メーカの倉庫から運ばれる卸の倉庫においては、複数のメーカの商品が運ばれてくるため、積み替えを行うロボットを活用したり、これまで人が台車で運んでいたところを自動コンベアで運んだりといった設備を導入しているケースも出始めている状況です。

小泉: では、卸の倉庫からコンビニのような小売店に、多品種少量な商品を運ぶ際はどうでしょうか。

飲料メーカの倉庫から卸に商品を運ぶ際には、箱の規格も決まっているケースを何十ケースという単位で運ぶと思いますが、小さなトラックでマヨネーズを1本単位で運ぶような場合の自動化は進んでいるのでしょうか。

小野塚: 現時点においても、一つの箱の中に入っている数十個の商品の中から一つだけを取り出してくれるアームロボットは存在していますが、人が作業するよりも遅くてコストがかかるという問題があります。

先ほどのAmazonの例もそうですが、「運ぶ」という作業は比較的自動化しやすい領域です。

実際、Amazonの物流センターにおいても、必要な商品が格納されている棚ごとロボットが人のところまで運びますが、最終的に商品を取って梱包するのは人です。

「物流2024年問題」を越えた物流の現在地と展望 ―小野塚氏インタビュー
AGVが必要な棚を人のところまで運んでいる様子(出典:Inside Amazon)

こうした、現時点では人が行なっているケースが多い細かな作業は、今後のイノベーションによって解決されていくのではと期待しています。

小泉: 逆に言えば、現時点で人が行っている作業が今後も残っていく可能性もあるということですか。

小野塚: おっしゃる通りです。よく、「今後ロボット化が進む一方なのかどうか」という議論がありますが、ローランド・ベルガーでは、ヨーロッパの物流センターや倉庫で働いている人の4〜5割が2030年時点でロボット化されるだろうと予測しています。

逆にいうと、2030年時点においても、半分以上はまだ人が作業をしていると予測しているのです。

そのため、ロボットが得意なことと、人が得意なことを見極めながら、協働する期間が長く続くと考えています。

経済合理性がデジタル導入のハードルに

小泉: 倉庫の中で、物理的なものが動くケースでの現状はよくわかったのですが、倉庫を管理するシステムである「ウェアハウスマネジメントシステム」(以下、WMS)の潮流も教えてください。

小野塚: WMSも1970年代ごろから存在しているシステムですが、元々は、倉庫を運用している企業が利用者から荷物を預かって保管料を請求する際に、情報を管理するための管理台帳として活用されていました。

今では、商品情報と賞味期限を紐つけたり、保管している位置情報と紐つけたりと、管理台帳から発展した使われ方をしています。

また、WMSを基盤として、「ウェアハウスコントロールシステム」(以下、WCS)や、「ウェアハウスエグゼキューションシステム」(以下、WES)も登場しています。

WCSは、ロボットを動かすためのコントロールユニットの役割を果たし、WCSとWMSを繋ぐためにWESが活用されるという構成です。

こうした新しいシステムも登場しています。

小泉: こうしたシステムは実際にどれくらい導入されているものなのでしょうか。

小野塚: WMSが導入されている割合の統計的なデータは存在しないのですが、いくつかのソースをもとにした認識で申し上げると、大体2〜3割だと思います。

倉庫と言っても規模や取り扱っているものによって、WMSを入れる必要のないケースもあるため、100%導入する必要があるかどうかは議論が必要ですが、現状としては半分以上が導入していないという状況です。

WMSを導入した上で、ロボットなどを導入して自動化を進めているケースはさらに少なく、数%というのが実態です。

小泉: 導入していない倉庫の方が多いのですね。そうなると、このままデジタル化しなくても良いのではと考える方もいるのではないでしょうか。

小野塚: スマートフォンが登場する前は、要件があれば電話で話せば良いし、電話がタッチパネルではないことを不便だと感じることもなかったと思います。

しかし今では、ほとんどのビジネスマンがスマートフォンを持っています。

倉庫においても、規模や特徴に応じて、それぞれに必要なテクノロジーが今後は浸透していくと思っています。

すでに台車やフォークリフトを活用している倉庫は多く、そこから発展したAGVやAGF(無人搬送フォークリフト)は存在しています。

ただ、存在しているのになかなか浸透しない大きな理由の一つは、経済合理性です。

先ほど、ロボットが得意なことと人が得意なことを見極める必要があるというお話をしましたが、ロボットは、人が作業するよりもスピードが遅くてコストが高くつくケースが現時点ではまだ多いのです。

しかし、もしかしたら、15年経てば人よりも早く安く作業できるロボットが登場しているかもしれません。

また、ロボットやデジタル機器をアズ・ア・サービスとして提供している事業者も登場しており、導入のハードルを下げる工夫もなされています。

小泉: アズ・ア・サービスは、リースとは何が違うのでしょうか。

小野塚: リースの場合は、数年単位での契約が一般的ですが、アズ・ア・サービスの場合は、数ヶ月からお試しできるものや、出荷量に応じた従量課金制の料金体系で提供している事業者もいます。

こうしてロボットやデジタル機器を導入するハードルは下がっているものの、出荷量の多い大規模な施設のほうが経済合理性を成立させやすいというのも事実です。

そのため、まずは大規模な施設から導入がはじまり、順次浸透していくのではないかと考えています。

第二弾「全体最適の中での物流の在り方とは ―小野塚氏インタビュー②」へ続く

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