全体最適の中での物流の在り方とは ―小野塚氏インタビュー②

物流2024年問題の到達点を、ローランドベルガーの小野塚氏に聞くシリーズの第二弾は、「輸送」の到達点についてだ。

第一弾「物流2024年問題」を越えた物流の現在地と展望 ―小野塚氏インタビュー①

各企業が限定領域での完全自動運転トラック実現を目指す

小泉: 続いて、トラックの進化について伺いたいと思います。

2000年頃に、高速道路において、自動走行システムを活用したトラックの縦列走行が検討されていましたが、現在はどのような状況になっているのでしょうか。

小野塚: 隊列走行は運用上のハードルが高いため、実現するのは難しいと思います。

高速道路のひとつの車線を、複数のトラックが隊列して一定速度で走るとなると、追い越し車線を走られては追い越すことができず、走行車線を走られるとインターチェンジの出口が塞がれてしまうなどの問題があります。

小泉: では、トラックに限らず自動運転の車が量産されるようになり、トラックにも搭載される未来までは実現が難しそうだということですかね。

小野塚: そうですね。ただ、私はそうした未来が来るのがそこまで遠い未来ではないと思っています。

三井物産などが出資して設立されたT2では、2026年までにレベル4(※)対応の自動運転トラックサービスを実現するという事業計画を発表しており、いすゞ自動車も2027年度までにレベル4の自動運転ソリューションの事業化を目指すと発表しています。

※自動運転レベル4:特定の条件下において、自動運転システムが車の全ての運転タスクを担う完全自動運転の機能

こうした状況を踏まえると、あと10年ほどで社会に浸透していてもおかしくないなと感じます。

あとは、どこまでの天候に対応するかという点がポイントになるでしょう。

晴れや一般的な雨であれば、現時点でも問題なく走ることができると思いますが、土砂降りや雪など、全ての条件に対応するとなると、さらなる研究開発が必要になります。

そして、この研究開発費をどのように価格に落とし込むかといった点も、難しい問題の一つです。

もちろん自動運転ですので、24時間高速道路を走り続け、生産数も増えて量産効果が働けば、どこかの段階で利益を生み出すタイミングは来ます。その時点に至るまでに、誰がどこまで負担するのかなどを取り決める必要があると思います。

これらを乗り越えられれば、近い将来、新東名を走行中のトラックをよく見ると、シートに座った保安員が寝ているという未来が訪れるかもしれません(笑)

小泉: そもそも長距離輸送に関しては、途中で中継したほうがいいという議論があるので、高速道路は自動運転トラックが運行し、その前後だけ人が運転するトラックに繋いでいけば、効率的な物流が実現できるイメージが湧きました。

小野塚: 中継輸送は効率化の面だけでなく、働き方改革の側面からも注目されています。

例えば、福岡から東京まで荷物を運ぶ際に、一人のドライバーで運ぼうとすると、一人当たりの労働時間が長くなってしまいます。

同じ距離でも複数のドライバーが交代しながら走行することで、適切な休憩時間がとれ、その日のうちに家に帰ることができるといったメリットがあります。

全てが自動運転になれば、こうした中継輸送も必要なくなるかもしれませんが、高速道路専用だとしても、全てのトラックがあるタイミングで一気に自動運転トラックに入れ替えられるわけではありません。

そこで、まずは特定のエリアで自動運転トラックが走り、その前後は比較的近くに住んでいるドライバーが荷物を引き継ぐなど、デジタルと人がうまく協働することで、毎日家に帰れるドライバーが増えるという未来は実現可能だと思っています。

導入のしやすさから普及するバース予約システム

小泉: 次に、トラックが駐停車し、荷物を積み下ろしするためのスペースであるバースにおけるデジタル化の状況について教えてください。

小野塚: バースに関しては、バース予約システムが大分普及してきました。

これまでは、バースを予約せずに、順次トラックが物流センターに向かっていたため、バースが埋まっていることも多く、トラックは外で待つしかありませんでした。

この間ドライバーは待つしかなく、長時間労働につながってしまうほか、物流センターの外にトラックが列をなしていることで、近隣住民や施設などへの迷惑にもなっていました。

そこで、バース予約システムを活用して事前にバースを予約しておき、予約した時間にトラックが向かうことで、待ち時間を減少させるという取り組みが進んでいます。

小泉: 私の感覚としても、バース予約システムは他のデジタル機器よりも導入されている印象があります。

小野塚: おっしゃる通りです。ロボットを導入する場合は初期投資が必要ですし、WMSは商品番号の登録などのカスタマイズが必要となり、手間がかかります。

一方バース予約システムは、電話で行える予約をシステム化するだけで実現できるため、導入しやすいのが普及につながったのでしょう。

また、スマートフォンだけではなく、ガラケーにも対応しているため、ドライバーも使いやすい仕様となっています。

普及率で言うと、WMSより普及しているとは言えませんが、バース予約システムは10年ほど前に登場したシステムであることを加味すると、急速に広がっていると思います。

「敷地」や「ルール」が効率化のネックに

小泉: バースに関しては、予約する以外の自動化は進んでいないのでしょうか。

バースにトラックが到着した後も、荷下ろしや積荷といった作業がありますが、基本的には人手で行うか、フォークリフトを人が操作して作業しているイメージがあります。

小野塚: AGFを活用した実証実験は行われていますが、結局人がフォークリフトを操作して作業するよりも圧倒的に遅いという課題があります。

それでもAGFに任せることで、ドライバーが休めるかもしれませんが、例えばドライバーが行えば30分で終わる作業が、AGFでは3時間かかるという時間軸では、結局ドライバーの拘束時間が増えるだけなので、現実的ではありません。

そこで、スワップボディコンテナを活用するという取り組みは行われています。

スワップボディコンテナとは、トラックの車体と荷台部分が着脱できるトラックのことです。

荷物を積んでいる荷台を外して下ろし、新しい荷台をつけてすぐに出発すれば、ドライバーの待ち時間は発生しません。

この方法であれば、外された荷台の荷物を運ぶのに、AGFを活用することもできると思います。

小泉: スワップボディコンテナは、日本ではあまり普及していない印象があるのですが、なぜでしょうか。

小野塚: おっしゃる通り、ヨーロッパではスワップボディコンテナが普及していますが、日本ではあまり普及していません。

全体最適の中での物流の在り方とは ―小野塚氏インタビュー②
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

スワップボディコンテナを着脱するには、おおよそ30メートルの長さが必要なのですが、それだけの敷地がある物流センターは、日本では限られています。

ヨーロッパの物流センターは敷地が広く、スワップボディコンテナの着脱や保管ができるため、普及しているという背景があります。

また、ドイツのハンブルグ港では、トラックの通行がデジタル化されており、港のバースに多くのトラックが来る時間帯には信号を制御して渋滞が起きないようにするなど、フィジカルインターネットのような取り組みが進んでいます。

小泉: トラック運行の管理は日本においても実現できそうな気がしますが、なぜ進んでいないのでしょうか。

小野塚: 東京の港の場合は、船もバースも、複数社で管理しているケースが多いため、実現が難しいのでしょう。

関わっている企業をシステムで繋ぎ、共通のルールを作れば実現可能だとは思いますが、取りまとめていくには時間がかかると思います。

再配達低減のために考えられる施策

小泉: 最後に、誰しもが身近なテーマである、ラストワンマイルの課題について教えてください。

小野塚: ラストワンマイルの物量は、物流全体の総物量の1〜2%という前提があるものの、ドライバーはラストワンマイルにおいても不足していますので、再配達が問題になっています。

そこで政府は、宅配の再配達率半減へ向け、再配達削減に協力した消費者へポイント還元する実証事業を実施するなど、有効な取り組みを行なっていますが、これには課題もあります。

場所にもよりますが、現在再配達率は10〜15%です。これを5%にまで引き下げたからといって、単純に15%と比べて3分の1労力が減るわけではないのです。

再配達が0にならない限り、再配達が15件であろうと5件であろうと労力があまり変わらないのが再配達の課題です。

そのため、再配達に関しては、0になるような画期的な仕組みが必要だと思います。

例えば、従来の配送業社か置き配専用の配送業社を選択することができ、置き配専用の場合は配送料が安いといったサービスモデルが考えられます。

これまでにも、牛乳や新聞など、置き配が当たり前のサービスもあるので、そうした事業者が置き配事業者を担ってくれれば、すぐにでも実現可能なのではと思っています。

小泉: ただ、最近ではオートロックのマンションも増えているので、置き配は少し敷居が高いのではないかと感じます。

小野塚: おっしゃる通りです。都会の集合住宅は宅配ボックスが設置されていたとしても、朝の時点ですでに満杯になっているところも多いといいます。

マンションによっては、一度オートロックを開けてもらってモノを届けても、別の部屋に届ける際には、もう一度オートロックの扉まで戻らなければならないというルールが設けられているケースもあります。

この場合、手間と時間がかかっていますが、現状では追加の手数料を徴収することもできません。

日本の物流はユニバーサルサービス(全国均質サービス)で、近隣住宅のない田舎の一軒家でも、非効率な集合住宅でも同じ値段で届けてくれますが、再配達を含め局所的に起きている非効率さをどう解消するかは大きなテーマです。

小泉: デジタルで仕組みを作る以前に、制度やルールの問題が大きいということですね。

小野塚: そうですね。これまでは、何度再配達をしても企業努力で同じ料金で荷物を運んでくれていました。

しかし今後は、非効率なケースにおいては別途手数料を徴収したり、置き配や宅配ボックスにはポイント還元などのインセンティブを支払ったりという仕組みを構築しなければ、非効率さは解消されないのではないかと思います。

物流が経営課題になることで生まれる新たな打ち手

小泉: 本日は、倉庫やトラック、ラストワンマイルなど、各領域における現状についてお話しいただきましたが、最後に全体感のお話も伺えればと思います。

今年は、まさに「物流2024年問題」の年だったわけですが、この1年間で世の中はどれだけ変わったのでしょうか。

小野塚: 今年は「物流2024年問題」をきっかけに、物流が大きな注目を集めて経営課題となり、これまでにない打ち手が始動し始めた変化の年だと思います。

例えば、工場を消費地の近くに建てることで長距離輸送を減らす「地産地消」の取り組みや、競合の垣根を越えて物流会社を設立するなど、これまででは考えられなかったような打ち手が打たれようとしています。

これまでにも、個々の企業同士で共同配送する取り組みはありましたが、複数の企業が共に物流会社やコンソーシアムを形成するという、これまででは極めてレアなケースであった取り組みがたくさん始まっています。

地産地消の取り組みにしても、工場の場所を物流部門の人だけで決定することはできません。

つまり、「局所的なコスト削減や意思決定を行っていてはモノが運べない」という限界のところにきて、全体最適を考えた取り組みが始まり出したのです。

冒頭で「サプライウェブ」では未来の話を書いていると申し上げましたが、それを実現していく時代が来たのだと感じています。

全体最適の中での物流の在り方とは ―小野塚氏インタビュー②
ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

小泉: 「物流」という領域だけで解決しようとするから、投資しづらくコストも下がりにくいですが、ビジネス全体として見れば色々な解決策がありますよね。

さらには、1社の話ではなく、複数社がネットワーク化して解決していく方法もある。

「サプライウェブ」の中でも書かれていましたが、「協力できるところ、したほうが良いところは協力する」というシンプルな解に辿り着くことで、結果的に物流の改善につながっていくと感じました。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

無料メルマガ会員に登録しませんか?

膨大な記事を効率よくチェック!

IoTNEWSは、毎日10-20本の新着ニュースを公開しております。 また、デジタル社会に必要な視点を養う、DIGITIDEという特集コンテンツも毎日投稿しております。

そこで、週一回配信される、無料のメールマガジン会員になっていただくと、記事一覧やオリジナルコンテンツの情報が取得可能となります。

  • DXに関する最新ニュース
  • 曜日代わりのデジタル社会の潮流を知る『DIGITIDE』
  • 実践を重要視する方に聞く、インタビュー記事
  • 業務改革に必要なDX手法などDXノウハウ

など、多岐にわたるテーマが配信されております。

また、無料メルマガ会員になると、会員限定のコンテンツも読むことができます。

無料メールから、気になるテーマの記事だけをピックアップして読んでいただけます。 ぜひ、無料のメールマガジンを購読して、貴社の取り組みに役立ててください。

無料メルマガ会員登録