IoTは、何故「すべてがつながっていないといけない」というのか? -シスココンサルティングサービス 八子氏インタビュー

シスココンサルティングサービスの八子氏へのインタビューの第二回は、AI(人工知能)の話から、なぜIoTは徹底的につながっていないといけないのか?という点についてだ。

IoTは単にモノがインターネットにつながって、スマートフォンで操作ができたり・・・ということばかりではない。

社会がIoT化されていく中で、自社のビジネスがどうあるべきかということを考えるうえで、モノがどうネットワーキングされ、賢くふるまうのか?ということを知るのは重要だといえる。

 

第一回:「IoTを支える仕組みのこれから -シスココンサルティングサービス 八子氏インタビュー」

 

-八子さんが、IoTに関して、個人的に特にここに注目しているという分野はありますか?

昔から言われている事ですが、IoTによって、加えて大量データを人工知能などでインテリジェントに処理することで自動化やスマート化が進み、「機械すなわちコンピュータが人間に取って代わるのではないか」ということが近年よく言われる様になってきました。

すなわち、コンピューターサイエンスが人間を超えられるのかどうか、という点です。現在、コンピュータが人間の能力を超えるのは2045年だと言われていますが、人間と同じようなものを作れば、例えば、不老不死というようなテーマの答えも出ると思いますし、戦争をするかしないかという問題、人はどこから来てどこへ行くのかというものもわかってくるのではないか?と個人的には思います。

例えば戦争については、人間ではなくロボットが戦場へ行き、ロボット同士でシミュレーションをして人は誰も死なない、ということが起こるでしょうし、人はどこから来てどこへ行くのか、という話はどこからきたかというのがメカニズムとして解明されれば、それをロボットに組み込むことによって、もう人間とほとんどと同じものができるようにすることも理論的には可能です。そのロボットに自分の数十年生きた結果を移植すれば、ロボットは「自分」として今後ずっと生き続けることが、これも理論的には可能です。

でも、「人間を作りたい、でも超えていいのか」。このテーマについてはこれから20年ぐらいのタイミングの中では我々のようなITに従事する人や、崇高なコンピューターサイエンスに従事する人たちは、ずっと苦悩し続けるのだと思います。よりよい社会を目指すことやロボットについて考え続けるわけなのですが、すごいものを作った瞬間に「もしかしたら、私はこのロボットに殺されるかもしれない」という考えもつきまとってしまうのではないかと思います。

-先日、脳科学者の中野信子さんの講演を聞いたのですが、「ロボットは人間を超えるか超えないかという議論はよくあるけれど、ロボットからすると人間を殺すメリットはないのではないか」、とおっしゃっていました。ロボットはどこまでも合理的に考えるはずだから、自分を生み出した人間をわざわざ破壊する理由がないのではないかということです

それは人間サイドからすると、そうかもしれないですね。コンピューターサイエンスでいうと、人間の感情も移植しようとしますから、嫉妬、妬み、支配されることに対する抵抗、これを移植した瞬間に、彼らは「どうして、計算能力の低い人間に支配されなければいけないのか」と思うはずです。

 

IoTを支える仕組みのこれから(2/3) -シスココンサルティングサービス 八子氏インタビュー
左:シスコシステムズ シスココンサルティングサービス シニアパートナー八子知礼さん/右:IoTNEWS代表 小泉耕二


-例えば、そういう嫉妬や妬みなどの感情を移植しない、という事はできるのでしょうか。

移植しないとしても、AI(人工知能)に対して学習させるという時に、例えば映像を見せるとすると、その映像の中で起こっている感情を理解しようとします。それをAIはクラウド上などで学習しますが、例えば先ほどの嫉妬や妬み以外にも、愛や恐怖なども合わせて学習していくと、どうしても人に近くなっていきます。

そうすると、人間があえて嫉妬や妬みという感情のインプットを与えなくても、AIが色々なものから類推し、様々な感情を学習していくので、意味として解釈しようとした瞬間に、いずれ理解してしまう時がくると思います。

 


-ロボットやコンピュータが“考えて”いくわけですね。

コントロール下におかれている予測可能なコンピューティングアタックなら回避出来うる可能性が高いので良いのですが、現在のようなすさまじいコンピューティングパワーで実時間ではあり得ないほどのシミュレーションを繰り返すと予測不可能な事は起こりえます。

例えば自分は大学院の時に数万世代の遺伝的学習を行う人工知能のシミュレーションを研究テーマとしていましたが、数万世代も経ていくと、突然変異は何回か起きるのです。そして当初想定しなかった様な進化を辿ります。もちろん当時はプログラムしているのである程度は予測可能ではありますし、数万世代のシミュレーションを行うために1週間ワークステーション10台を回し続けるなんてことをしてました。

今、そのような自律学習が可能な人工知能だと、それがものの数分や数時間、もっと大量のパラメータに大容量のデータを元にシミュレーションが出来ると思いますので、突然変異はどんどん起こりえて、それはもう人間には抑制できないと思います。

 

-スピード感も早く、つまりバグが引き起こす進化ですね。

コンピューターサイエンスにおいては、コンピューターネットワークで作られているクラウドやIoTに代表される分散型の処理環境を一つの「系」としてとらえた時に、それ全体が人間化していくことになると昔から考えていました。

例えば典型的な例として、自分がクラウドだけでなく、前回述べたローカルでも処理するフォグコンピューティングの機能が必要だと考えるゆえんは、クラウドを脳と捉えた時に、人間の「反射」に相当する脳を介在しないクイックな自動処理が現在のローカルデバイスとクラウドの間には存在しないからです。よって、かならずフォグに相当する機能は必要になると考えています。

 

-すでに今でもETCがついているクルマも多いですし、GPSもあって、高速道路の随所にはオービスがついています。これらが揃って、「なぜ高速道路の交通違反は取り締まれないのか」と思っている方も多いと思います。こういうところになかなか踏み込まないのは、そこは人としての倫理観が働いているのか、それをやると検挙率が増えて単純に困るのかわかりませんが、やろうと思えばできることも今はやっていない、という判断がなされているわけですよね。

これが、IoTが進んでいく中で、もしかしたら、やろうという判断になりスイッチが押されると、機械が取り締まりを行っていくという世界も生まれるでしょうし、悩みや苦しみなどの感情がきちんと理解できていれば、例えば交通違反はしているんだけど、妊婦さんが乗っていることをカメラがとらえてこっそり見逃す、などの判断が入ったりするような世界があってもおかしくないのではないかということでしょうか。

自律分散で動いている中では、しっかりしたルールに則った基準が決まっているわけではなくて、「ゆらぎ」があって、ある時はこっち、ある時はそっちというのが実装されてくる可能性があります。そうすると、人間的に情報を処理することが今以上に実現しやすくなると思います。

ゆらぎをやっていこうとすると、もっともっと分散処理の中で、「彼はこう言ったけど、彼女はこう言った」というのが網で繋がっていて、ある程度の多数決で決まる様な処理のあり方が考えられます。完全な多数決ではなくて、重みづけなどもあるでしょうけど、考えた時に結論はこうだ、と言っていけるような、どこかひとつだけで、中央集約型で決まるというわけではなくて、分散した環境の中で決まって行くというビジネスモデルがより一層重要になってくるのではないかなと思います。

よくエッジ側での分散処理も必要というと、「八子さんが言っていることはクラウドをなくした方がいいということですか?」「クラウドが終わってしまうということですか?」と聞かれるのですが、そんなことはなくて、マルチレイヤーで処理する環境があって、レイヤーが下がってくれば下がってくるほど処理ノードの数がどんどん多くなって、それぞれの処理ノードのパフォーマンスは小さくなっていくけれども、ノードの数でそれをカバーするという、そんなモデルになっていくと説明しています。すなわち、クラウドはクラウドの貴重なリソースを使う処理を、それぞれのレイヤーではそれぞれのレイヤーが得意な処理を、エッジ側でも処理できる簡単な事やリアルタイムはクラウドに負荷をかけずにしょりするという系全体での考え方のことを言っています。

 

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-どんどん分散した頭脳が世界に散らばっていくというわけですね。それぞれが独立して判断できることもあるかもしれないし、判断できないこともあるかもしれないから、判断できないことは会社組織のように、部長に報告するみたいなことがおきて、話し合って、「それはだめだよ」「それはいいよ」などが決定されていく社会になるというわけですね。

そうですね。隣に相談しても忙しいとなると別のノードに相談する、もしくは権限がないのでエスカレーションパスをあげるなど、それは今のネットワークの構成の中でもポリシー制御はそうなっていますから、よくできているなと思います。

 

-そもそもインターネットのホップの仕組みがそうなっていますね。途中でDNS切れてもなんとかなるという作り方をしています

そうなんです。ネットワークに繋がったコンピュータのあり方、系全体が人間の神経系とよく似ているんです。

-インターネットがはじまってからそういう世の中ですよね。そのあとのグリッドコンピューティングなど、様々な分散環境を構築しましょうという考え方も一般的になってきました。様々なクラウドサービスがこうあって、それぞれが小さい世界同士が繋がって、それぞれが対話しながらジャッジしていくというのは、今まさにやろうとしていることですよね。

まさにそうですね。クラウド同士の連携を考えておられる事業者も多くなってきているところからすると、1企業がクラウドを利用するというこの1対1の関係で見ているときはオンプレミスとクラウド間のハイブリッドクラウドなのですが、複数のクラウド上で動くアプリケーションをいくつも活用する場合、そのクラウドを使っている会社同士がEDIなどで取引しようとした場合は、直接双方が共通に利用しているクラウドの上でやりとりすればいいと思います。

Aという会社がセールスフォースを使ってました、Bという会社もセールスフォースを使ってました、AとBがEコマース領域で在庫情報を共有化したいと考えました、そしたら全部セールスフォース上でやり取りしちゃいますよね、という発想です。それが複数のクラウド、複数の企業、全てに広がり、繋がっていっているわけです。
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-俯瞰して捉えた時に図で言う、小さい雲がいっぱいあるという状態は、すでにできてきているということですね。生態系というのは、わりと大きなものから小さなものまであって、ピラミッド型で制御するということではなく、それぞれ自立的に動いている生態系というものを、マッシュアップしながら、あるいはあるときは権限委譲しながら、大きな目でみていくと、全体があたかもひとつの世界観のようにみえていくということですね。

そうですね。よくいわれるのが、「コンバージェンス」という概念で、どんどん収斂(しゅうれん)されていく流れのことで、クラウド化が進むと言うことは、情報がクラウドにいったんどんどんコンバージェンスしていっているという状況です。

ところが、ダイバージェンスという逆の発想もあって、どんどん分散されていく流れのことですが、これはデバイスが進化するとかデバイスの台数が増えるとか、もしくはノードの数が増えていくIoTの世界観です。どんどん拡散・分散していくんですね。ここまでは言われてきている事ですが、クラウドがあって、IoTの世界観があって、今後起こりうるのは、我々が先ほどのところまで議論した話でこれは「エマージェンス」という概念なんですよね。

エマージェンスは、「創発(そうはつ)」と訳されるのですが、大きな力が小さなそれぞれのローカルのルールがあって、それぞれをコントロールしているのですが、ローカルの小さな塊は、それぞれが自立して動いている中で次第にものすごく大きなざわめきになっていって、あるときから、このローカル側がものすごく大きな力を持つようになって、中央の持っていったルールが崩れて新たなローカル発のルールが全体のルールになるということが起きるのです。

いったん、あたかもバラバラになるように、ローカルサイドでものすごく強大な力を持って、そこの中からあるひとつの大きな力を持ったところがまた大きなルールになっていくと、そういう動きが繰り返される、ということです。

-政治の動きと同じですね。

ある意味政治ですね。そのエマージェンスという考え方を理解することがIoTにおいては、大事になってきていると個人的には考えています。「次はこうなる」ということを読むには、エマージェンスの概念を理解した上で「真理はぐるぐる回っていくのだ」という発想になれれば、例えばコンピューティングモデルも「ローカル、センター、ローカル」といった流れができる。例えば、デバイスのサイズが大きくなって、また小さくなって、大きくなって・・・ということであるとか、企業の活動の中でも、中央集権型のガバナンスがいいのか、分散化のガバナンスがいいのかという話も結局繰り返しますから。

-振り子のようですね。

IoTは現状、デバイス側に寄ろうとしているところだと思います。クラウドにいったんあがった情報をデバイス側で処理しようとしていて、これがどこまでIoTが広がるかわからないので、なんともいえないですけど、これがあるところまでいったら、またクラウド側になるかもしれないし、今はクラウド側もインテリジェントになってきているから、今まではひとつの雲が多くのマシンを動かそうとしていたのだけど、雲同士のコラボレーションが起きたりだとか、さらにもう1レイヤー上の雲が出てきたりすることになりそうですね。

結局は、マルチレイヤーなのですよね。つい、スマートフォンなどのデバイスとクラウドとの関係だけを見がちなのですが、例えば、スマートフォンの先にBluetoothで多数のセンシングデバイスが繋がっている絵姿を想像すると、そこから下がIoTでいうデバイス群で、このスマートデバイスそのものが小さい”雲(クラウド)”になるということですね。

そのコンセプトも5年前からモバイルクラウドのコンセプトの中で言及してきました。もともとはモバイル機器で、クラウドを利用するということがモバイルクラウド1.0だったのですが、モバイルクラウド2.0の世界はスマートフォンなどのデバイス群そのものが小さなクラウドになって、さらに下のマイクロデバイスを支える存在になるというコンセプトなんです。

-Appleのスマートホームが近いかもしれないですね。スマートフォン自体が雲になって、さまざまな家庭における機器を制御するという考え方です。

もっともっと発想次第で色々なものを繋げていくことができるし、繋げていった方がスマートな社会になっていくということを、イメージできないと、そこで終わりだと思います。イメージできないと、そこにつけいる余地が残ってしまいますから、他社に攻め込まれていって、自社が強かったところでコロっとやられる、ということも起こりえます。そういった余地を作らないためには、「徹底的に繋がっていないもの・ことを繋いでいく」という発想が大事だと思います。

(第三回は、ソフトウェア業界とハードウェア業界についてお伺いします)

 

IoTの、もう一つの重要なキーワードとしてAI(人工知能)がある。IoTの社会では、「ヒト」の為に、「モノ」がある程度の判断まで下すようになるからだ。

そこから、様々なモノ同士や、モノを取りまとめる雲がつながっていくと、さらなる価値が生まれる。

この辺を理解することで、自社のIoTへの取り組みはどう取り組んでいくべきか?というヒントが得られるに違いない。

八子氏へのインタビューは全3回です。

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