IoT時代の製造業のあるべき姿 -シスココンサルティングサービス 八子氏インタビュー

シスココンサルティングサービスの八子氏へのインタビューの最終回は、IoT時代の製造業のあるべき姿について伺った。

 

第一回:「IoTを支える仕組みのこれから -シスココンサルティングサービス 八子氏インタビュー」
第二回:IoTは、何故「すべてがつながっていないといけない」というのか? -シスココンサルティングサービス 八子氏インタビュー

 

八子氏 現状を見てみると、IT業界の方たちと、OT(Operational Technology;現場技術)の方たちの距離感が非常に大きいと思います。例えば、「冷蔵庫なら、野菜室で腐りかけているものを教えて欲しい」という課題があるとします。要するに『困っている』ことです。

ITで実現するなら、「野菜庫の4隅に臭気センサーをつけて、臭気センサーに近いものが腐ると冷蔵庫が教えてくれる」となるはずですが、そういったアイデアは出てこずに、「野菜の在庫を把握するとか、冷蔵庫の中にカメラを付ける」というような、『困っていないこと』を技術でできることから発想するITのアイデアになりがちです。

普段から自分が困っていることに対して、ITでも考えるということが重要だと思います。製造業で言うと、工場の現場にいっても、ITの方たちはオペレーションが全然わからないので、なかなかIoT化するというところまでいかないし、現場の方々からすると、「俺たちの職がなくなるから自動化なんてやってくれるな」という話にもなります。

 

-その話はIoT界隈の方たちと話しているとよく出てくる話です。高度成長期の頃はハードウェアが脚光を浴びていましたが、最近ではソフトウェアが脚光浴びていて、お互い別世界という感じで、実はハードウェアの人たちは電気工学をやっているわけだし、ソフトウェアの人たちも広い意味では電気工学をやっているわけなので、実はあまり変わらないことやっています。一緒にやってくれれば双方近づくのに、「わからない」と遠ざけるから、IoTになかなかならないのです。

これは大きな問題だと考えています。今日本は景気が悪いじゃないですか。工場も中国などにあって、日本の工場は手が空いていると思うので、ここで御社のようなネットワークに詳しい会社とソフトウェアを作る会社と、日本の工場が一緒になってIoTをきちんと作っていくと、構造的に美しいIoT環境ができると思います。

ソフトウエアの人と、ハードウエアの人たちがもっと緊密に組めば可能性はありますね。エンベディッド開発の方々にとっては至って当たり前の話ではあるのですが。

日本の場合には専門性を持っていた方たちが専門の職につくという風土がないにも関わらず、手に職をつけている方たちは自分の領域を出ないという傾向があるので、例えば、もの作りをわかっている方がちょっとしたITの経験を元に何か作れるはずなのにやっていない。IT側ももっとモノづくり側に出て行けばいいのに、ハードウエアの分野も勉強しないといけないのか・・・と遠い目で見ている。

 

シスコシステムズ シスココンサルティングサービス シニアパートナー八子知礼さん

 

-90年代、2000年代はERPやSFAだったりとか、人が働く部分をITによって効率化していきましょう、高付加価値化していきましょう、という動きが多かった。それに対して工場の部分は工場のオートメーション化ということで独立してやってきました。サプライチェーンマネジメントの考え方が入って、はじめて工場と経営を繋ぎましょうという概念が出てきて、様々なサプライチェーンに関するプロダクトを作ってる企業がありますが、これは所詮は工場をコントロールしているマネジメント部門と経営を繋いでいるだけなのですよね。

つまり、まだ工場の現場レベルとはまだ繋がっていないということですよね。例えば、自動車屋さんに行って、「この赤のクルマがいいな」と選ぶと、一週間すると赤になったクルマがやってくるみたいなシーンが描かれたりしていますが、実はそこまではまだできていなくて、工場長にまでは情報が届くのですが、工場の機械までには情報は届いていない。これが、IoTになると、工場の末端の色を塗るシステムまで情報が届き、「このクルマは赤に塗るんだ」と機械が自分で判断して塗る。生産工程のメンテナンスが必要なのだけど、今実施すると稼働率が低下して納期が間に合わない、それをコストと納期と呼称してラインが止まらないためのベストバランスを自動判断してメンテナンスを自動的に実施する。そうならない限りはIoTにならない。が、まだここまで行っていない企業が多いのが現状です。

そのためには、やっぱりユーザーが何を求めているのかということを、マネジメントが理解していないと、情報システム部門が理解していないと、実現は難しいです。例えば、「俺専用のこんなクルマを作りたい、カタログには今回のクルマは4色とあるけど、前のバージョンのカタログにはあと1色あった、あの色が欲しい」、ということには到底応えきれていないのが現状ですよね。もちろんコスト的な制約もありますが、IoTでスマートに自動的にますます現場レベルまでそれが出来る様になってくれば、より実現されやすくなるでしょう。自動車業界はそれでも結構先進的に進んできた方です。

他業界の場合にも、フルカスタマイズする、ニーズに対してリアルタイムに追随するという可能性をみすみす落としています。例えば、今の設備稼働をほとんどリアルタイムで把握し、消費者のニーズをクラウドに取り込み、それをクラウドの上でマッチングをかけてあげる。人が客観的にそれを見ているのだけど、マッチングはある程度自動化されていて、それが確かかろう事が検証されれば、すぐにそれをどんどん流すというやり方に変えないと、たぶん何ら解決できないと思います。

そのあたりが、スキルレベルでITとOTが混ざるところ以外に、設備稼働情報のOTの領域と、マーケットからの需要を把握するITの領域、これをクラウド上で結び付けていく、こういう考え方が今後ビジネスモデルとして一番重要になってくると思いますし、UBERやAir B&Bなどの新興勢力の成功モデルはみんなこのモデルを実装しています。

 

-サプライチェーンマネジメントの概念を若いころに学んだ時は、きっとそういうことができるのだろうと思っていたのですが、実態は全くそういうことはやっていないことに驚きます。

あくまでも入ってきたものを順番にまわします、というところが現状ではないでしょうか。ある程度予測モデルや推奨生産案は自動化されているといっても、結局人が需要予測を意思入れして決めていて生産や流通現場において受発注をプランニングするという話のレベルです。これが今はクラウド上でマッチングできるはずなので、できるだけそこの判断については人を介さない、というふうなやり方が望ましいと思います。

 

IoTNEWS代表 小泉耕二
IoTNEWS代表 小泉耕二

 

-今は、資材調達予測システムになっていますよね、これだと調達コストを下げましょうということにしかなってないので、そこを自動需要予測できれば変わっていくだろうし、それによってユーザーを取り込み、サポートされる仕組みになっていけば良いのだと思います

この工場における、「IoTの系」が完成するときには、設備メーカーも入ってくる必要があるし、当然取引先もあるわけですけど、そことの間で「データを共有していく」という文化が必要だと思います。データを共有する文化を醸成しないと、日本の場合にはあまりにも閉鎖的で、何も生産データ全てを共有しようという話をしているわけでも、作っているものの詳細データを横流しするわけでもないのに、データの共有自体を神経質に捉えてしまいがちです。

繋げていくとこんなにいいことがある、とわかっているにも関わらず。これをやっていると系全体が繋がらないので、海外での取り組み状況からみていると日本での考え方、やり方が進んできたはずだったのに、携帯電話業界がこの10年で改善に海外に後れを取ってしまった様に、確実に遅れると思います。

よく最近申し上げているのは、D2Dという概念が極めて重要ですよ、ということです。M2Mでマシンだけが繋がるだけではなくて、データとデータが繋がっていく、見えていないデータ、繋がっていないデータを繋ぐということは、片一方の会社が別の会社に対して、開示をする、開示するからには解禁すればいい、機密情報についてはフィルタリングをかけて出さなければいい話なので、そういったことを文化としてやっていかないと、国際競争には勝てないと思います。

 

-「全てシェアの時代」ですよね、企業が違うからといって情報を取り合うのはやめよう、みたいな。そうなってくると顧客の数というのは決まっているので、個客が欲しいというものをどう満たしていくか、どう効率化していくか、というところが最適化されていくと思います。

悩ましいのは、「どんどんモジュール化しましょう」という話をよくするのですが、自動車業界や家電業界と話をしていると、「じゃあシスコシステムズがいうようにどんどんモジュール化したら、私たちはどこを差別化としていけばいいのか」と質問されます。

しかし、そういう場合は今よりレイヤーの高いところに行かざるを得なくて、「クルマだと乗り心地」、「家電だと使い勝手」、「冷蔵庫だとドアを開ける時にドアのノブが動かないのか、少し奥に押して開くタイプなのか」、そういった「素材は変わらないけども操作感は変わります」といったレイヤーです。本来、日本企業は繊細に設計できるはずなので、そこで競って行かざるを得ないのではないだろうか、と個人的には思います。

 

-IoTで日本が変わっていってほしいと思います。

モノがインターネットに繋がるというのは、オープンに繋がっていかないといけないわけですよね。そこから集まってきたデータもオープンにつなげていく訳ですが、最終的には今ボトルネックになっているのは、人がオープンではない、意外と繋がりにくいということです。オープンな人はSNSなどを使ってどんどん人と繋がっていって、そこの下にある様々なリソースを使うことによって、3Dプリンターで新しいビジネスを立ち上げるというようなことをあっという間にやってしまう方もいます。

マインドをオープンにする、色々な人とオープンに繋がっていく、ということにおいては、自分のノウハウを出し、相手からもノウハウももらいます。時間が限られる中で自分だけのアイデアやリソースで実現出来ないことをスピーディに繋がっていくことで競争を加速させればいいじゃないか、という発想が文化として根付いた方がよりIoTの世界観、クラウド連携の世界観、というのが発展するのではないかなと思います。

そういう意味で、シスコシステムズは、オープンに繋がることを重視してきています。我々も他社と提携をするときもそうですし、ワークスタイルもそうですし、どんどんオープンコラボレーションするというのが促進されています。

いつでもどこでも誰とでもつながっていく。ビジネスモデルそのものが「繋ぐ」ということにこだわっているので、繋がるからには、お互いが手を握れるようにオープンなマインド、オープンなインターフェイス、オープンな仕様、オープンな標準でなければいけないと信じています。

シスコシステムズの考え方が全て是というわけではないですが、重要なのは「すべてのものは繋がっていく」可能性があるということです。またその世界観においては、人もモノもデータもプロセスもみんながオープンに繋がっていく、そんな組織風土、技術規格、業務プロセス、ICTのあり方を1社だけでなくみんなで仕掛け、創出された価値で競争力を高めていく必要があると考えています。

 

-本日はありがとうございました。

 

なかなか簡単ではないことかもしれないが、すべてがつながることが前提のIoT社会においては、すべてのデータ、マインド、情報をオープンにしていく姿勢がまず必要ということだ。

サプライチェーンのプロセスを加速するものデータの共有から始まるだろうし、きたるべき、お客様一人一人へのオーダーメイドが当たり前になるような社会においては、これまで以上に多くのサプライヤーとのつながりを大事にしていく必要がでてくる。秘匿情報は公開しないにしても、企業間の付き合いの在り方から見直しをする必要があるのではないかという気づきがあった。

全三回を振り返ってみると、これからのIoT時代のモノづくりの在り方が見えるのではないだろうか。

八子氏へのインタビューは全3回です。

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