アドベンチャーレースでの活用事例

小泉: 気になるのはユースケースです。
井田: 私たちが想定しているユースケースと市場で期待されているものは必ずしも一致しないと思っています。さきほどのELTRESの特徴から、私たちとしては高速移動などを想定してはいますが、現在、主に実証実験を行っているのはそういった用途ではなく、キャリアのネットワークが届かない場所です。
今年の6月に長野県で開催されたアドベンチャーレースの事例をご紹介しましょう。トレッキング、MTB、SUP、ラフティング、懸垂下降などを長野県白馬村の山奥で、3日間かけて行うイベントです。
こうした山奥では、キャリアのネットワークがつながりません。そこで、私たちとソラコムさん、NSW(日本システムウェア)さん、TREK TRACKさんなどと協力してGPSトラッキングのプロジェクトを行いました。参加者にトラッカーを持たせて、彼らがどこにいるのかを運営側が「見える化」する取り組みです。
ソニーからはLPWAのネットワークとトラッカーを提供しました。ソラコムさんには3G回線とネットワークを統合するプラットフォームをご提供いただきました。コースの全長は約250kmで、LPWAに関しては、4つの基地局と臨時で手配した移動受信局車2台でほぼ全域ををカバーしました(下図)。

小泉: 受信局はたった6つですか。少ないですね。
北園: 受信エリアはほぼシミュレーション通りでしたね。むしろ、それ以上につながりました。
井田: このしくみを使うと、選手が今どこにいて、どういう状況なのか(動いているのか、遭難しているのか)がわかり、とても運営がスムースになったと高評価でした。
このアドベンチャーレースはとても過酷な競技で、遭難する方も出てきます。でも、GPSを使えば「今このエリアを移動しているから大丈夫」ということがわかります。あるいは、動いていないことがわかれば、すぐに助けに行けます。メディアの方もこの位置情報を使って、先回りして写真を撮ることができました。
また、運営側には「スイーパー」という物資を拠点間ごとに運ぶ役割の方がいますが、彼らにもトラッカーを持っていただきました。すると、どの車両が今どこに向かっているかがすべて見えるので、運営の物資のやりとりもすごくスムースにいったということです。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。