製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ —シーメンス 島田氏インタビュー 第三回

シーメンス株式会社 デジタルファクトリー事業本部 プロセス&ドライブ事業本部 専務執行役員 事業本部長 島田太郎氏へのインタビュー最終回。

【シーメンスインタビュー 一覧】
第一回:インダストリー4.0の本場ドイツのスマートファクトリー、その本質は何なのか? 設計終了後5分で製造が始められる秘密
第二回:ここまでできる、シーメンスが考える製造業のIoT —シーメンス 島田氏インタビュー
第三回:製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ

他社では1億かかる工場のIoT化が、シーメンスではIoTプラットフォーム MindSphereを使うことで数千円から可能

もう一度、IoTについて少し詳細に話したいのですが、汎用技術が専用技術をカバーしていくと、様々な業界を超えると思っています。

風力、電力、電車、それから、ビルディングテクノロジー、スマートグリット、ヘルスケアなど、全てに対応できるようなプラットフォームを用意していかないといけません。

製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ —シーメンス 島田氏インタビュー 第三回

 
-最終的にはそうですね。

例えば、工場でIoTをやると言ったら、「工場は特別だから、まずEthernet化しなければいけない」という話や、自動車業界でも同様に、車は特別だからController Area Network (CAN)が…などという話が必ず出てきます。

このことは、アメリカのソフトウェア会社の感覚からすると「何やっているのかな?IT感覚だと全部同じじゃないの?ドライバー入れれば済むんじゃないの?」という発想になります。

シーメンスはそれを大変恐れていまして、そういうことになってはいけないと思っています。そこには多くのノウハウが存在していますので、そのノウハウとITを組み合わせたものを提供すべきだと考えています。

そこで、シーメンスはSAP HANAの技術に基づいたオープンなクラウドプラットフォーム、「MindSphere(マインドスフィア)」を提供しています。

特徴は、工場からデータをどんなものでも集めてくることができる足回りです。ネットワーク、セキュリティも込みで、工場内のデータを集めてクラウドまで上げる仕組みを用意しています。

今後極めるのはクラウド上でのアプリなのですが、App Storeのようなイメージで、勝手に作って、買ったり売ったりできるような環境を用意しています。

今稼働している工場を変更することは、皆さん嫌がりますので、外付けでデータ収集ボックスのようなものを置いて、ロギングしたり集めたりできます。そこから先は、OPC UA のようなものを使ったセキュリティを加味したPlant Data Cockpitという形で、すぐデータを見ることができるようになっています。繋いでデータを見て取りにいくところまでは、非常に簡単にあっという間にできます。ウェブの環境でクラウドプラットフォームにログインできます。

製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ —シーメンス 島田氏インタビュー 第三回

シーメンスは、実は工場内のネットワークで世界最大メーカーです。ネットワーク系のいろんな製品を持っていまして、例えばシーメンスのリモートコネクト『SINEMA RC』ですと、SIMカードを入れればそのまま外で繋いでモニタリングを始められます。MindSphereでは、データ点数とデータのサイクルタイムで、量によって課金する仕組みも検討しています。

 
-ちょこっとやる分には安いということですね。

そうです。1,000~2,000円から始められますので、非常に中小企業に向きです。ある大企業が行った「どう考えても最初に動かすまでに半年必要で1億はかかる」という見積もりが、シーメンスですとあっという間に繋いで数千円です。

 

シーメンスのIoT事例

スペインだと電車が遅れることがよくあるのですが、スペインのRenfeという高速鉄道とシーメンスが「15分以上遅れたら乗客に払い戻しをする」という契約をしました。その後、定時運航率99.9%達成することができ、60%の乗客が飛行機から列車に乗り換えるという結果が出ました。

製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ —シーメンス 島田氏インタビュー 第三回

これは、ものすごいことです。おそらく世界中で電車が遅れないのは日本だけだと思うのですが、その価値がIoTで解消されてしまっているのです。電車が遅れないのは日本にしかない価値だったのが、もうスペイン人でも簡単に安くできるようになったのです。

 
-もうわざわざ高い日本製品を買う必要はない、ということになります。

これがIoTの恐ろしさで、ビジネスモデルの一つだと思うのです。ある一定の規模の会社だったら、他社のいろんなイノベーションを幅広く使うことができますよね。日本の素晴らしい中小企業が外へ出ていくチャンスになると思います。

汎用品を使って、サービスを展開すればいいと思うのです。シーメンスはファシリテートするので、数千円払ってくださいと。

インダストリー4.0でドイツメーカーは、OPC UA(OPC Unified Architecture:OPC Classic 仕様の機能性全てを、拡張可能なフレームワークに統合した、プラットフォーム非依存のサービス指向アーキテクチャ)の方向にすごい勢いで取り組んでいます。我々の機器もすでに、ほとんどがOPC UAに対応している状態にあります。

PROFINET(産業用Ethernetの一種)はEthernetで工場のコントロールもできます。ちなみに、EtherCATとはちょっと違います。EtherCATはフィールド用に最適化されているので、Ethernetケーブルを使っているだけでプロトコルが違うので、互換性がないのですが、PROFINETはまったくそこを触っていないので、Ethernetとしても、まったく同じように使えます。だから、無線でセーフティが構築できるのはPROFINETだけだと考えています。

実際に使ってみれば、他との差は歴然です。必ずリアルタイムで一定秒数内に動かないといけないものに関しては、必ずそれを保証していて、もし遅れてもたいしたことないようにしています。Ethernetはだいたいの土管の大きさを決めて流れるものだけ流すという当時は新しかった考えでした。

今はこれを両立しているので、PROFINETを使ったら遅れたり止まったりしないですし、我々のPROFINETだったら、工場内の配線が3分の1になります。

お客様によると、「1本で全部できてしまうので、PROFINETがいい」とおっしゃっていただきます。工数的にも楽ですし、問題の点数が減るようなものですから。少配線というのは、ドイツではものすごく進んでいまして、2005年にドイツの自動車工業会でもPROFINETが採用されました。

この辺は日本でほとんど知られていませんが、ある意味危険な話です。ドイツも、まさか日本がやっていないと思っていないのです。だから、ドイツは何も言わないですし、日本の国内メーカーはそもそもEthernetに対応していないから、あまり言いたがらないのです。

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シーメンス株式会社 デジタルファクトリー事業本部 プロセス&ドライブ事業本部 専務執行役員 事業本部長 島田太郎氏

 
-工場には秘密がある、と。

お隣の中国は積極的にやっています。日本が「工場は特別だから」と言っている間に、どんどんノウハウを積んでいます。はっきり言って、IoT化の勢いはすごいです。

ドイツが考えたコンセプトなのですが、中国がどんどん進んできていて、ドイツがまた背中を押されるくらいです。日本は、「どうしよう、データ出せないよな。Ethernet対応大変だな」、というような状態です。

 
-作り変えなければいけないというのは実際ありますし、大変なのは大変です。

実際には大変ですよ。だから、1個ずつやっていかないといけないのですが、やらないとこれからボディブローのようにじわじわ効いてきます。

 
-IT産業で日本が負けていたと同じ感じだと思うのですが。悩んでいるうちに周りが進み過ぎて追いつかなくなっているだけですね。

その通りです。

 
-追いつくタイミングはあったし、みんな知っていたのです。十分、知識はあったわけで、悩んでいるうちに気づいたらすっかり世界から取り残されました。日本にはIT産業がなく、ドイツ製品と、アメリカ製品、中国製品しかありません。

本当にそう思います。このままいくと同じ事になってしまいます。もう一つは、OPC UAが非常に重要です。

OPCは、もともとマイクロソフトが作ったものなので、Officeのデータと繋ぐ際には、非常に相性がいいわけです。特に、OPC UAになってからは、DOSなどが取り払われているので、機器に依存せず、かつ、マイクロソフトのOSを通らずに繋げることができます。

しかも、このセキュリティに関する内容に関しては、非常に先見性があったようで、よく作られていますし、なかなかバージョンアップしないのがいいところです。

実は、シーメンスでは、パナソニックと一緒にこのOPC UA経由でラインをコントロールする、ラインインテグレーションの開発に取りくみ、パナソニックがこれをiLNBという名称で発売しました。

製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ —シーメンス 島田氏インタビュー 第三回

これまでパナソニックでは、他社設備の接続には追加PCが必要で、30社ほどのサプライヤーと繋がないといけなかったので昔は大変だったのですが、OPC UAで繋ぐことにより、3ヶ月でできました。この方式だと、データを集めるものに関しても、サプライヤーが出してもいいというものだけ設定することができます。

 
-それはサプライヤーさん自体が内容を変えてくれて、流せるデータ、流せないデータを識別してくれたということですか?

そうです。これがサプライヤーさんにも大変好評でした。

次ページは、インダストリー4.0時代のセキュリティと「標準化」とは?

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