今スタートアップが一番多いと言われている、サンフランシスコSOMA地区に拠点を置くbtrax社を訪問した。
CEOのブランドン・ヒルさんも日本から帰国されたばかりでお疲れのところを、快く取材に応じていただけました。


– 早速ですが、btraxのビジネスやサービスについて教えて下さい。
ブランドン・ヒルCEO(以下ブランドン):2004年サンフランシスコで創業しました。当時はウェブ制作会社としてスタートしていて、アメリカのクライアント向けに仕事をしてました。もともと日本育ちだったということもあって、アメリカ企業の日本サイトを作ったり、日本語にローカライズしたりするようなサービスやマーケティング支援を行っていました。

そこから、サンフランシスコに拠点があることもあり、スタートアップとの結びつきが強かったので、日本のスタートアップがサンフランシスコでプレゼンテーションできる、”Japan Night”というイベントを2010年にはじめて、日本に対しての認知度が上がったこともあり、日本企業のグローバル展開のお手伝いをするようになってきました。
その後、2013年に日本オフィスを立ち上げ、最近は、受託よりもデザインと、イノベーションプログラムと呼ばれる、日本からきたクライアントとbtarxのスタッフが一緒にサービスを作るという、コンサルティングサービスがメインになってきています。
サンフランシスコでは、いろんな企業が同じ場所で仕事をするコ・ワーキングという考え方が広まっているのですが、今年の秋には、日本とアメリカの企業が一緒に作業をするという場所を提供し、デザインやマーケティングのメンターをbtraxが実施するというサービスを立ち上げます。
– btraxでのIoTに関する取り組みはされていますか?
ブランドン:IoTは今年の初めから注目していて、情報の収集・ノウハウの蓄積・実際に作ってみる、ということにトライしていて、実際にクライアントに対してもコンサルティングサービスも提供しています。
– 実際に作ってみられたものはありますか?
ブランドン:あります。スマホで、ミラーボールが動くというデモがあります。
スマホやスマートウォッチに対して、操作をするか、声で認識させることでミラーボールを動かせて、回転速度も変えられるというデモンストレーションです。


志賀祐一さん(以下志賀):ラズベリーパイを使ってできています。
ラズベリーパイは、コンピュータと変わらないので拡張性があって、もともとウェブの開発者であった私でも使いやすいものとなってます。
ウェブ開発者に馴染みの深い、phtonやJavascriptでもコードが書けるのもポイントです。

– IoTのニーズが広がる中で、btraxとしての取り組みはありますか?
ブランドン:今多いのが、日本企業に対してのマーケットのリサーチと、日本のクライアントがIoTをつくるときに一緒につくるということです。
例えば、お風呂に入れるアヒルがあるじゃないですか、それを浮かべておくとお湯がたまるとスマホに通知するというものです。
IoTって話題にはなるのですが、実際にものを作ってみると乗り越えなければならないハードルが多く、簡単に製品化できないという課題があるのです。
志賀:ハッカソンにいったりIoTイベントに行ってつくってます。Yahoo! Japanのハッカソンで男湯と女湯がコミュニケーションをとるために、タオルをIoTにしてます。タオルを頭に乗せてお湯に浸かっていて、「出るぞー」って叫ぶ。聞いた方は頭を振ると信号がとび、「Yu!」というものです。
参考:週間アスキーの記事
あとは、3Dプリンターを使ってプロトタイプを作ってみたりしています。
サービスを考えるにも、技術レベルでできることがあまりにも多いので、いろいろ試してみています。
まずは、やってみないとわからないことも多いのです。
– 現在サンフランシスコやシリコンバレーでは、マシンエンジニアのニーズが高いと聞きました。
志賀:技術者を探しているという話は聞きますし、量産化するときに例えば落下試験なんかをするのですが、そういったことまでできるレベルの人というのは大抵大企業にいて、人材市場にいないのです。
なので、そういうニーズは高まっていると思います。
プロトタイプまでなら3Dプリンターで作れるのですが、量産となるとなかなか難しいです。
– 日本だと確かにそういう方は大きな会社に多そうですが、アメリカでもそうなのですか?
志賀:そうですね。大きな会社でないとまず、設備がないのです。
例えば、防水機能のある装置を作るとしても、防水を試すような設備は小さな会社にはありません。
落下試験もとてもお金がかかりますが、それをベンチャーが一つの製品のために設備までもつということはあまり考えられません。
サンフランシスコだと、コ・ワーキングスペースでそういう装置が使えるようにはなっているのですが、プロトタイプを作るのが限界で量産まで持ち込めません。

– サンフランシスコのIoT企業についてはどう思われますか?
ブランドン:結構いろんな企業を訪問したのですが、小さいスタートアップが多いと感じてます。
大きな企業が中心というよりも、スタートアップ中心で早いスピードで作っている場合が多いと思います。
あとは、メーカーフェアなどに行ってみると、個人レベルで作っている人も多くて、層がとても厚いと感じております。
実験的につくっているものはたくさんあると思いますが、そのなかでどれだけのものが社会にでるかは未知数です。
– 現在注目されているIoT企業はありますか?
ブランドン:私はバイクに乗るのですが、バイクのヘルメットがスマホとつながって、情報が表示される、SKULLYというものに注目してます。
https://youtu.be/ZdcWd594lRw
参考:SKULLY
バイクに乗っていると、手が離せません。このスカリーを使うといろんな情報が表示されたり、後ろも見えたりするので、バイクに乗る人には価値が高いのだと思います。
実際、2.5百万ドル、目標額の980%もクラウドファンディングで資金調達し、製品化が進んでいます。
ただ、まだ高価で、1000ドルくらいはするようで、まだ量産という状況ではないと思われます。
志賀:鍵などを落としたときに、どこに鍵があるかがわかるものがあります。
鍵とアプリが通信できるので、自分は落としてしまった鍵から遠いところにいるのだけど、同じアプリを持っている人が自分の鍵の近くにいると落ちてる場所がわかるというものです。
また、コネクティッド・カーが実用化されそうでそちらもとても興味があります。
ホットプレートをIoT化して、インターネットと接続してレシピもダウンロードできるというものです。
プロトタイプまではできていて、実際に見たのですが、製品版はまだリリースされていないです。
この事業を立ち上げたEricはもともとトヨタに勤めていて、日本にも住んでいて、日本で食べたフランス料理が繊細で美味しかったから、この製品をつくったということです。
火加減がキモなので、それを自動的に調節してくれるというものです。
– btraxの今後の日本でのビジネスはどう考えられてますか?
ブランドン:特にIoTに関して日本の企業は、「横のつながり」が得意じゃないと思うのです。ところが、IoTは全部自社というのが難しいので、横のつながりが必須になると考えます。
アメリカのスタートアップや、世の中にすでにあるプラットフォームをうまく使ってやっていけるようにしていきたいと考えています。
最近だと、コネクテッド・かーに関する取り組みがあって、日本の自動車メーカーからのリクエストでどういう会社と組むとコネクテッド・カーが作れるか?というような依頼も受けてます。
– 日本発のIoTが少ないことについて、なにか感じられていることはありますか?
ブランドン:日本はセキュリティーに関するリスクを取りたくないので、他社と連携するのはあまり好まないという傾向を感じます。今までの習慣でも他社との連携がないので、「怖い」と感じているようです。
また、他社との情報の交流も少ないと感じてます。IoTのイベントなどで情報交換をするような機会も日本は少ないと思います。
そういった意味でも、IoT製品を発展させるのにかかせない、他社との連携ができずらい環境にあるため、グローバルで見ると不利なカルチャーになっている気がします。
一方、サムスンのような韓国の会社はすすんでいて、アメリカで情報収集したり、デザインやものづくりを進めてます。そういったところで差が出始めていると思います。
– 先日Bestbuy(アメリカの大手家電量販店)でも、サムスンのIoT製品は大きく取り上げられていました。
ブランドン:そうですね。サムスンは、IoTの分野でのトップメーカーになりつつあると感じてます。ソニーやパナソニックなど、日本の家電メーカーも、負けじとこれからいろんなことを画策していると思います。
日本企業も表面にでてないだけで黙ってないと思います。
– アメリカでのハッカソンイベントはどういう交流がありますか?
ブランドン:面白いのは、ハードウエアに詳しい年配の方と、若いソフトウエアエンジニアが一緒になってものを作っているところです。
日本にもハードウエアにつよい年配の方は多いはずなので、若い方と一緒に組めば、すごくいいものができると思います。
最終的には量産しないといけないので、ハードウエアを多くつくった経験がある、特にトライアンドエラーを繰り返し、何度も失敗したことがある方の知見が重要になるのです。
– アメリカに来ると日本より大雑把な製品が多いと感じるのですが、最近のIT製品を見ると繊細なものも増えてきています。これは何かがアメリカで変わってきたのですか?
ブランドン:それは、アップルにインスパイアされた人たちが美しい製品を作ろうとしているからです。
アメリカで作られるIoT製品って、パッケージがアップルっぽいでしょ?アップルまでいかなくてもハードウエアをアップルを意識して作ることが多いです。
それで、実際に作っているのは中国の深圳です。最近、深圳はクオリティーを上げてきているので、製造に詳しい方曰く、「日本の居場所がなくなるよ」というような話も出ているそうです。
アメリカのスタートアップと話していても、「別にmade in Japanにする必要はない」と言い切られることも多いです。
中国でも似たクオリティのものが作れるし、安いし、早いから、わざわざ日本で作らないということだと思います。
そこで、どう日本がプレゼンスを確保するかどうかということが、これから一番重要ではないでしょうか。
だから、日本企業は、自分たちが思っている以上に頑張らないといけないのだと思います。
– 私もそこはとても危惧しておりまして、最近の円安でどんどん工場も国内に引き上げてきている、言葉の問題で日本を飛び出さない人も多い、こうしていくことで情報すらえる機会が少なくなってきています。
ブランドン:IoTが成功するかどうかは、「サービスアイデア」と「ユーザエクスペリエンス」だと思うのです。そして、それは日本が得意としていない分野だと思います。
日本のメーカーと話すと、「アメリカよりもいいものは作ることはできるけど、このサービスアイデアは思いつかなかった」というような話になることがあります。
そこのギャップをbtraxが、「ユーザ体験 × サービスデザイン」という形で埋められたらと考えております。
– 先日、比較的大きくなった、アメリカのベンチャー企業の方とお話をする機会をいただいたのですが、技術者主導で、技術者が着想し、サービスも考えているケースが多いと感じました。
ブランドン:考える人と作る人が、同じ人か、もしくは小さなチームでできるといいと考えてます。
そういうチームでまとまっている企業は強いと思います。
btraxで実施してる、サンフランシスコで一緒にIoTを作りあげるコンサルティングも、日本企業から来る人はエンジニアに来てもらってます。
そして、エンジニアにサービスの考え方や発想を行ってもらうようにファシリテートしています。
そうすると、最初はやったことがないので抵抗がある日本のエンジニアも、少しずつ「ものがどのようにつくられるのか?」ということが包括的に理解できるようになるので、日本のエンジニアの方もプロダクトについて考えるということをやり始めるようになってきます。
そうすることで、大企業のチームであっても、スタートアップっぽいものづくりができるようになります。
– 大手企業がベンチャー企業と一緒に事業をやるというケースも増えてきています。
ブランドン:日本での取り組みを手伝っているのもあるのですが、心配なのはベンチャー企業が大企業に合わせないといけなくなるケースが多いことですね。どうしてもコンプライアンスやガイドラインが大企業は厳しいですから。
むしろ、大企業がベンチャーに合わせるくらいになればいいと思っていますが、日本国内だとなかなか難しいので、サンフランシスコに来てしまえばやりやすいと思います。
サムスンやヒュンダイのようにアメリカに来て企画や開発をしている企業が成功しているのを見ていると、今後日本企業もそうなると考えます。そういった際、btraxと一緒にやってもらえればなと考えてます。
– グローバリゼーションが進んでますが、今後日本はどうしていけばよいでしょうか?
ブランドン:日本の人が、とか、日本がといっているのは日本ぐらいです。世界で認められた◯◯というような言い方をするのも日本企業ぐらいで、世界で認められたアメリカ企業という言い方はないです。
もともとアメリカ人は、外国人という概念がなく、多民族環境で子供の頃を過ごすし、無意識のうちに初めから世界を視野にいれたビジネスを展開するようになります。
例えば、アメリカに生まれたイタリア人は、特にどこの国というこだわりはないけど、イタリア人であるというアイデンティティーは持っています。
日本人も、日本人であるということは大事にしていいのだけど、例えばテニスの錦織選手がどこの国の国籍の人か?なんてことはどうでもいいでしょう。というような感覚を持つ必要があるのかもしれないですね。

■ btraxホームページデザイン的視点から日本企業と地元のスタートアップがコラボレーションを行うことを目的に、 2015年秋よりサンフランシスコにてオフィススペースの提供を 開始します。単なる作業スペースだけではなく、 最新の情報提供やイベントを通じ、 イノベーション創出の為のプラットフォームを実現します
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多方面にわたる、インタビューを終えて、日本企業が持つべき危機意識が具体的に見える。
また、日本はもともと製造に強い企業が多いわけだから、日本を飛び出さないまでも、ベンチャーソフトウエア企業がハードウエアに強い企業とタッグを組んでIoT製品を作っていくことに活路がありそうだとも感じた。
日本とアメリカの両方で活躍するbtraxはの活躍にも注目していきたい。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。