皆さんは、「信長の野望」という戦国武将ゲームをご存知でしょうか?
私がまだ子供の頃からあるゲームで、戦国時代の武将となって、全国統一を目指すと言う、シミュレーションゲームの草分け的存在です。
このゲーム、実際にやってみるとわかるのですが、自分の国の「兵数(農兵、足軽、騎馬)」「武将数」「兵糧収入」「農地」「生産性」「肥沃度」「治水」「人口」・・・などといった、国を構成するさまざまな数値が明らかになっています。
忍びのモノを放てば、隣の国の状況も明らかになります。
こういった数値データをみて戦うわけですが、ひたすら隣国に攻め込んでばかりいると、兵士が食べるお米が足りなくなります。なので、生産性をあげて、米を生産していく必要があります。
武器を買うにも、米を金に変えて買うわけですので、まずは何より国力(内政)を鍛えることが重要になります。
しかし、内政ばかりに気を取られていると、兵士が育たず、強い組織ができなくなり、攻め込まれたら終わってしまうということにもなりかねないので、然るべきタイミングで隣国に攻め込むと言うことも重要な取り組みとなります。
初めは、小さな戦で勝利を収め、少しずつ国土を広げていくのが常套手段なのですが、こういった戦国武将ゲームのあり方は、今回のテーマである、「攻めのDX」「守りのDX」というテーマともかなり近いものがあります。
守りのDXを行うことで、ビジネス環境が明らかになる
DXには、「攻めのDX」と「守りのDX」があります。このこと自体はご存知な方も多いかもしれませんが、どういう意味なのか、をきちんとわかっていない方をよく見かけます。
前述した、戦国武将ゲームで言うところの、国力を可視化するところが、「守りのDX」であり、攻めるための道具を揃えたり、武将や兵士を鍛え、実際に攻め込むことが「攻めのDX」だと理解すると理解が早いでしょう。
実際にゲームをイメージしていただくとわかるのですが、国力を可視化するといって、一部隊の状況だけを可視化しても、全体がわからないので、国としては隣国に攻めいることができません。
これと同じで、守りのDXというのは「企業全体を俯瞰して可視化できていないと意味がない」のです。
「とりあえず、できることから」はもちろんいいのですが、「最終的には全体を可視化する」ということに向かっていない場合、戦うための準備は整わない、ということになるのです。
実際、戦国武将ゲームでも、一部の数値だけをあげることに熱心になっていると、国としてのバランスが悪くなり、攻め込まれると言うことになるわけですが、企業でも同じです。
なので、「守りのDX」においては、サイロ化された、小さな組織のデジタル化や組織を横断しない取り組みではなく、全社的な状態の可視化が重要になるというわけなのです。
これを、今時の言い方に変えると、デジタルありきでの「業務プロセスの再設計」であり「ビジネスモデルの可視化」、「業務の効率化・省力化」となるわけなのです。
つまり、業務の効率化や省力化は、とても良いことなのですが、それだけでは守れない、業務プロセス全体での効率化や省力化を目指さないといけないということになります。
また、業務プロセスを再設計するということについても、いきなり再設計なんてできるわけもありません。初めにやることとしては、自社の業務プロセスをテーブルに載せることなのです。
どういう業務プロセスで自社が回っているか、部署間の関係性はどうなっているか、こういったことは、特にあうんの呼吸でビジネスを行ってきた、古くからある大企業ではよくわからない状態になってしまっています。
これを一旦整理することで、次の変化が起きた時、組織全体としてどういうふうに受け止めれば良いかが明確になります。
例えば、米中貿易摩擦や、新型コロナウイルスによって、部品が輸入できなくなったとした時、自社の取引先がすべて明確になっていて、それぞれどういう納期で何が届くのかがわかっていれば、起きている問題に対する時間的余裕や対応方針を考えることは、現状よりは容易になるでしょう。
しかし、実際は企業全体の業務プロセスが明確でない企業が多いため、実際は右往左往していたということが起きているのです。
こうならないためにも、業務プロセスを明確にした上で、ビジネスプロセスを再設計すると、変化の激しい時代にも柔軟に対応することができる組織となるでしょう。
そして、ビジネスモデルを可視化することも重要です。
どうやって儲けているかを簡単に話すことはできても、ステークフォルダーとの関係を整理できている企業はあまり見かけません。
もしくは、一部の上層部だけが知っていて、末端の担当者には理解がされていないことが多いです。
しかし、これでは変化の激しい時代に、小回りのきくたいおうを取ることができなくなります。
現場に近い少数のチームで解決すべき課題が出た時、自社のビジネスモデルを社員全員がしっかり理解しているということは非常に大切なこととなるのです。
攻めのDXとは
次に、攻めのDXとは何でしょう?
定義としては、デジタルありきでの「商品・サービスの高度化」「提供価値の向上」「顧客接点の抜本的改革」となります。
例えば、レンタサイクルをイメージしてください。
これまでは、観光地などにいくと、レンタサイクル場がありました。
そこには、係の人がいて、手続きをすると、自転車を貸してくれる。そして、所定の時間までのその場所に戻しに来る、というのが当たり前でした。
しかし、最近では、「シェアバイク」サービスがあります。
これは、自転車が街の至る所に止められていて、スマホがあれば、自転車の鍵があき、利用料金も使った時間を自動計算して電子的に決済される。自転車を返す場所も、街中にあるシェアバイクの「ポート」に返すだけで良い。
人も解さないので、24時間利用可能です。
こういう事象を見て、多くの人は、「デジタル活用によって、新しいサービスが生まれた」という捉え方をします。
しかし、レンタルサイクル事業をやっている企業が、シェアバイクのサービスをやっている事例を見たことがあるでしょうか。
顧客からすれば、これまでのレンタサイクルから考え得ると、圧倒的な利便性を得ることができる、シェアバイクのサービス。
既存のレンタサイクル事業者がやらなければ、早晩駆逐されてしまうという可能性もあります。
もう一つ例があります。
それは「シーリングライト」です。皆さんのご自宅にもあると思うのですが、どんな機能がありますか?
おそらく、リモコン操作できて、調光機能がある程度ではないでしょうか。
現在、家電量販店にいくと、ソニーやパナソニックが発売している、「マルチファンクション・シーリングライト」なるものがあります。
これは何かというと、ライトにスピーカーやマイクが搭載されていて、音声応答システムでの家電操作ができたり、音楽が聞けたりします。
温湿度センサーが部屋の温度を計測し、必要に応じて家電製品と連動した動きが取れたりするものです。
私は、家中をコントロールする「ハブ」は天井が常々良いと思っておりました。
なぜなら、天井は他のデバイスとの間の遮蔽物がある確率が少ないからです。
熱中症予防で空調をコントロールするような、コントローラーを独居老人宅に置いた際、「電気代がもったいない」とコンセントを抜いてしまう老人がいて、いざというときに作動しないというケースがありました。
こういうケースが起きないためにも、ライトがコントローラーを兼ねていれば、電源も取れる、家電のコントロールもできる、といいことづくめなのです。
こういった、シェアバイクやマルチファンクション・シーリングライトの話を聞いて、「なかなかいいな」と思われた方は非常に多いのではないでしょうか。
その一方で、「利用するかどうか、買うかどうかはわからない」と思った方もいらっしゃったのではないでしょうか。
これらの例のような意欲的な取り組みが、市場で広がり、多くの生活者に使われるかどうかは、実は「出してみないとわからない」という問題をはらんでいます。
つまり、「できること」と「儲かること」は別物だということなのです。
攻めのDX、特にデジタルを前提として新しいビジネスモデルを生み出そうとするような場合、この問題はよく起きます。といって、手をこまねいていると、誰かが同じことを始めるかもしれません。
そう考えたとき、最もよいと言われているのは「小さな失敗ができる」ということなのです。しかし、そんな簡単にできるものなのでしょうか?
小さな失敗をするコツ
「小さな失敗をするべき」ということ自体はいろんなところで言われています。
しかし、実際に「小さく」失敗するのは簡単ではありません。
では、どのようにすればよいのでしょうか?
昨今のデジタルツールを使うと、マーケティングやセールス、サポートといった面での、顧客接点でデジタルを活用することができます。
ウェブサイトを構築したり、ECサイトを運営する、チャットボットで問い合わせを受け付けるなどは、比較的イメージしやすいかもしれませんが、実は他にも顧客接点を持つ方法があります。
例えば、「クラウドファンディング」です。CAMPFIREやマクアケといったサービスを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
もともとは、これから出す製品を開発するのに必要な費用を、多くの人から募るサービスでした。スタートアップは、これから生み出したいと考えている製品に関する動画を掲載し、どこまでできているかを明らかにする。その上で、完成した暁には商品を送るので。先にお金を払ってくれ、とするものです。
実は、この仕組みを使って、さまざまな企業が「量産前の出来上がった商品をテスト的に販売する」という取り組みをしています。
量産の意思決定はできていないけど、市場の声を聞きたい、お金を出してまで購入したい人が本当にいるかを知りたい。そういう企業にとってみれば、テスト販売の絶好の場所となります。
ここで、あまり評判がよくなければ、最悪事業を廃止するという決断も可能です。
他にも、IoTの技術を使って、顧客の状況を把握することができます。
販売しているデバイスの操作やシーンについて、IoTを駆使して状況把握を行うというものです。
収集したデータから「思ったほど使われていない」という事実がわかったり、意外な機能が使われているといったことがわかったり、細かなデータを取れれば取れるほど、顧客の利用状況を把握することができるのです。
こういったやり方を使えば、高額な広告をうち、大量生産して、大手流通と契約する前に、市場性を試すことができます。
その結果、大きな痛手を被る前に改善もできるし。最悪の場合事業をやめる決断も早い段階で行うことができます。
ネット企業は、プログラムを作ってサービスを行っているので、資産や在庫をメーカーほど抱える必要がありません。
それで、とりあえずβ版をリリースして、こういった顧客目線でのトライアンドエラーを行うことができていました。
一方、在庫を伴うような企業であっても、現在ではここに書いたような、さまざまなトライアンドエラーを行う方法があります。
こうやって、攻めのDX、つまり、自社のビジネスモデルをデジタルありきで再定義するような動きを行うことも可能なのです。
戦国武将ゲームにならう、守りのDXから攻めのDXヘ
守りのDXと攻めのDXをどのように組み立てるべきか、お分かりいただけましたでしょうか?
守りのDXを行うことで、「自社の状況が手にとるようにわかり」「変化に対応する対応力がつく」そして「無駄がなくなる」という効果が生まれます。
そして、攻めに転じることで、「新しいことを始められる」「始めたことの効果がわかる」ということになります。
十分守れている企業は、自分のことがよくわかっているので、どれくらいまでは攻めることができるかが明確です。
さらに、攻めた際の失敗が怖くなくなる、ということもあるのです。
ぜひ、皆さんの企業でも、守りのDXを実行し、変化に対する柔軟性のある組織を作ったら、次は攻めのDXを行ってください。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。