「web3時代が来る」「遅れないようにしなければ」という人がいるが、一体、web3の時代ではどうやって会社を作って、どうやって儲けていけば良いのだろうか。
そんな素朴な疑問に答えたいと思い、難しいことは抜きにして、web3的会社の立ち上げ方と、実際にどうやって儲けようとしているのか、について書いていく。
web3に必須のキーワード、「トークン」
現実社会でも、会社で何かを売っている人もいれば、個人で何かを売っている人もいるように、web3になったからといって、会社を作らなければいけない訳ではない。
しかし、ある程度の規模の事業をやろうとすると、現実社会と同じく資金や、一緒に動いてくれるメンバーが必要になる。
資金がなければ、当面の間食べていくお金がないし、何かのサービスを生み出すにしても生み出す人たちに報酬を渡す必要がある。
現実社会の企業では、株式と借入でしか、資金調達ができなかったのだが、web3では「トークン」という手段が登場する。
「トークン」は、ブロックチェーンで管理されているデータだが、航空会社のポイントサービスで、ポイントと呼ばれるデータがモノが交換できるように、トークンも所詮データなので、価値さえ定義されれば交換可能だ。
さらに仮想通貨も、NFTもトークンの一種であることを考えると、トークンの売買が可能であることは理解できるだろう。
web3時代では、この「トークン」というものを理解することが重要だ。
web3の会社が儲かる流れを具体的に紹介
では、トークンを使って、どのように会社を作り、どうやって儲けるのだろうか。わかりやすい例として、ゲームの会社を作る場合を紹介する。
まず、このゲームの会社は、会社を設立する際、独自のトークンを発行する。
そして、何人かの投資家に、トークンと引き換えに投資を募り、ゲームの開発を始める。投資は、現実世界のお金でもよいし、(結局現実世界のお金に交換できるから)現在流通している仮想通貨でもよい。
ゲームを作ってくれる開発者には、今の所流通していない独自トークンと、投資家から集めた資金(現実世界のお金や仮想通貨)を報酬として配分する。
以前であれば、トークンの部分は「ストックオプション」など、未公開株を分け与えていたが、それと同じ感覚だ。
ストックオプションが上場しなければ紙屑であるのと同じく、独自トークンもこの段階では何の意味もないデータだ。
そして、ゲームが出来上がり、利用者が集まり、遊ぶ人が増えてくる。
このゲームでは、ゲーム上のキャラクターやアイテムをNFTとして設定。利用者がゲームを進める中で、独自トークンやNFTをもらえる仕組みにする。
「ゴールド」など、ゲームの中には独自の通貨が登場することがよくあるが、このデータは、システム管理者によっていとも簡単に削除したり、増やしたりすることができるが、トークンはブロックチェーンなので、簡単に無くなったり、増やしたりすることはできない。この辺が、ゲームの独自通貨とは異なり、現実社会のお金のようだ。
そして、ゲーム内で、レア・アイテムを独自トークンで購入することができるなど、トークンの流通を促すことで、コミュニティ内で小さな経済活動が起きる。そして、ゲームが流行するにつれ、その経済活動の規模は大きくなる。
一定の規模まで達したところで、仮想通貨の交換所に上場すると、これまでコミュニティ内でしか意味をなさなかった独自トークンが、ビットコインや、米ドル連動型の仮想通貨などと交換することが可能となるのだ。
その結果、初めからプロジェクトに関わっていた人や、利用者が、手持ちの独自トークンを、現実社会のお金や、メジャーな仮想通貨などに交換して富を得るということになる。
独自トークンの経済圏が、巨大なものとなれば、むしろこのトークンに交換したいという、他の仮想通貨を持つ人が入ってきて、経済活動に参加することになる。
web3的起業の問題点
ここで問題がある。
ゲームが流行って、独自経済圏が短期間でできればよいが、長期化すれば初めに投資家からもらった資金(現実社会のお金など)がショートし、事業の継続は難しくなる。
また、初めに少数の投資家から投資を受けてしまうと、もともとweb3が「web2.0までの資本の集中を回避」できるといわれていたのに、現実世界の株式会社のような、金持ちによる支配構造ができてしまうという点が問題だ。
これらの問題に対する解決方法は、別の記事で紹介する。
閑話休題、実は、こういったトークンをつかった起業と資金調達は、10年くらい前に一度話題になり、失敗している。
理由はいくつもあるが、わかりやすいところで言うと、誰かが発行したトークンなるデジタルデータを、売買したいと多くの人が思わなかったから、だといえる。
トークンによる起業は、誰でも始められるということもあり、期待も大きかったのだが、結局お金を出してまで、価値のつかない独自トークンを買うか?となると、怪しすぎて誰も買わないのだ。
また、ある事業がとてつもなくうまく行ったとしても、ゲームの中でしか流通しない通貨のように、結局そのトークンで食べ物が買えたり、現実社会のお金に交換できなければ、そのコミュニティの中でしか価値を感じられないというのも問題だった。
一方で、現実社会の株であれば、誰も知らない会社の株を買っても、売ることができるというルールもはっきりしているので、そういった懸念がない。
しかし、昨今の仮想通貨バブルによって、一部の代替性トークン(いわゆる仮想通貨)である、「ビットコイン」や「イーサ」などが、世界中で取引されるようになった。
今では、トークン同士や、トークンと現実社会の通貨を交換する「取引所」もたくさん登場している。
つまり、現在では、独自トークンによる巨大な経済活動(トークンエコノミー)を生み出すことができれば、そして、多くの人がその経済活動に参加したいと思うようになれば、そこに価値が発生し、他の仮想通貨や現実通貨と交換してもよい、という流れが生まれたのだ。
ここまでくると、「なるほど」と思う一方で、そういうことなら「初めから株でいいんじゃないの?」と思う人も多いはずだ。
しかし、株による資金調達をしようとすると、市場に上場するための審査が必要であったり、未上場の株でも気軽に売買することはできない。世界中の国の人から資金や参加を募るのも簡単ではない。
株式の考え方とは、環境面で大きな違いがあることに気づくはずだ。
web3で起業すべきか、株式市場で起業すべきか
ここでいう、環境の違いとは何だろう。
銀行や株式市場、それを後ろで支える国家という概念がなくとも、web3では、少なくともデータが行き交うビジネスに関しては、インターネット上で、現状の社会のような経済活動が可能であるということだ。
これにより、面白いサービスを生み出しているトークンエコノミーは、世界中の投資家が「早い段階から参加したい」となり、結果的に国の概念も為替の概念も税制の概念もない世界で、資金調達とサービス運営を実現する社会が生み出される。
しかし、この話には落とし穴がある。
「税金も払わなくて良い」というのは嬉しいかもしれないが、現実社会では税金を払うことで、住んでいる地域の道路が整備されたり、ゴミを回収してくれたりするという行政サービスがある。
銀行に預けているお金は、一定の上限があるものの、銀行が倒産しても保証されるが、仮想通貨の取引所が破綻しても誰も保証をしてくれない。
国という概念がないので、法律もなく、あるのは、デジタル上のプログラムのみだ。つまり、自分の資産を守ってはくれない世界であるとも言える。
裁判所もないので、揉め事も解決する場がない。プログラムが誤動作して損害をうけても、プログラム通りデータが動いた結果である以上、訴えることもできない。他人にプログラムを作るのをお願いするのも正直怖い。
為替もないかわりに、仮想通貨は、現実社会の通貨のように国が介入して安定させようとする力も働かない。
こうやって考えると、web3時代の起業が、必ずしもバラ色とはならないこともわかるはずだ。
現状、web3関連の起業で儲けようとする人たちは、海外の税制がゆるいところに移住し、締め付けが厳しくなると別の国に移住する、ということを繰り返しながら利益を確保しようとしているが、我々の体が実態として存在している以上は、どこかの国の住民サービスを受けない訳ないはいかない。
web3関連で儲けた分に対する税金を比較的低めに設定する国はあっても、ゼロにするということは現実的に難しい。
web3で生まれた「新しい事業の興し方」は、これまでにない考え方で興味深いが、現実社会の仕組みとどうバランスをとっていくのか、自分の儲けだけでなく、それが社会の豊かさも考えられる状況まで洗練されていく必要があるのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。