【概要】
■南鳥島沖合の拓洋第五海山の南東肩部において、ホバリング型自律型海中ロボット「BOSS-A」(注1、2、3)が、コバルトリッチクラスト(以下、CRC。注4)賦存地帯の長距離全自動計測に成功。
■搭載する音響センサ(注5)と3次元画像マッピング装置(注6)により、CRCの厚みと3次元画像を人が操作することなく全自動で計測することに成功。
■CRCの分布と賦存量を評価するのに有益なデータを取得。
■CRCの資源開発の適性度を効率的に評価する全自動観測手法を世界に先駈けて確立。
東京大学生産技術研究所海洋探査システム連携研究センター、九州工業大学社会ロボット具現化センターを中心とする研究グループでは、CRC賦存量評価に役にたたせるため開発したホバリング型自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)「BOSS-A」を南鳥島沖合の拓洋第五海山の南東肩部(水深1,380m~1,550m)(22°44.8N、153°16.0E)において展開し、海底面近傍を2.0mの高度、0.1m/sの速度で自動航行し、搭載する音響センサによりCRCの厚みを線状に連続計測し、海底面の形状や底質を計測する3次元画像マッピング装置により、CRCの分布を2.0mの幅で連続計測し、人が操作することなく全自動でのCRC調査に成功した。
「BOSS-A」での潜航は、悪天候のため2日に制限されたが、夜間潜航も含めて4潜航を実現、合計で約2.0kmの距離を計測した。
今回の調査では、1潜航で最大4時間20分の観測を行い約1.2kmの測線のデータを計測。取得した音響厚みと3次元画像マッピングデータの統合解析により、合計で4,000m2の範囲のCRCの賦存量推定を可能とした。
2013年に日本は3000km2の広大な鉱区の探査権(別サイトを参照)を獲得した。2013年から2028年までの15年間で調査を行い、有望な鉱区を絞り込む必要がある。今回の「BOSS-A」での調査により、CRCの分布と賦存量を評価するのに有益なデータを、人が操作することなく全自動で調査する手法が確立された。
今後は、同技術の民間への移転、複数のAUVによるシステマチックな調査により、資源開発の適性度を効率的に評価して、獲得する鉱区を最終的に絞り込む日本が実施する戦略的な調査に大きく貢献することが期待される。
(注1)自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle):動力源を持ち、プロペラ等を用いてあらかじめ決められたルートに沿って無索で全自動で海中を観測する装置。
(注2)ホバリング型AUV:広範囲を高速で航行することをミッションとする航行型AUVと異なり、運動自由度が高く、定点保持・その場回頭、その場での上下運動が可能なAUV。対象を詳細観測することを主要ミッションとする。
(注3)「BOSS-A」(「BOttom Skimming and Survey」:重量600kgの中型ホバリング型AUV。CRC音響厚み計測と 3次元画像マッピング装置を搭載し2m高度から全自動計測を行う。ペイロードスペースを大きく取っているため、CRC音響厚み計測装置等を取り外し別の計 測センサを搭載することで別ミッションへの対応が可能である。
(注4)CRC(コバルトリッチクラスト):鉄とマンガンの酸化物からな る海水起源の化学堆積岩。学術的にはマンガンクラスト、鉄マンガンクラストと呼ばれることが多い。海山や平頂海山などの海底において、数cm~10数cm の厚さで基盤をカバーしており、広い範囲にわたって分布していることが知られている。1%以下のコバルト(Co)、ニッケル、3ppm以下の白金などを含 んでいる。低品位巨大鉱床として注目されている。
(注5):音響計測センサ:「BOSS-A」には、ジンバル制御を行う音響厚み計測装 置が搭載されている。パラメトリック効果で発する200kHz(2次波)の音響ビームを高度1.2mで海底面にビームの焦点を自動的に合わせる。ターゲッ トにあたるビームの直径は20mm程度で、海底下30cmまでの内部構造を計測できる。ジンバル制御により超音波が海底面に対して直角に入射するよう自動 的に角度を制御する。
(注6):画像マッピングシステム:「BOSS-A」には、レーザとカメラシステムを組み合わせた低高度用3次元 画像マッピングシステムを搭載(2m高度、2m幅の面的なデータ取得が可能)。最新版の3次元画像マッピングシステムは、2m~10m高度までの高度調整 が可能であり、小型AUV/ROVに搭載できるよう小型化を実現している。
【関連リンク】
・東京大学(The University of Tokyo)
・東京大学生産技術研究所(Institute of Industrial Science, University of Tokyo)
・九州工業大学(Kyutech)
・九州工業大学社会ロボット具現化センター(Center for Socio-Robotic Synthesis)
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