2006年の創業以来、SalesforceとIoTを軸に、数多くの企業や自治体のDXを支援してきたウフル。本年2月には創業15周年を迎えた。そのウフルが近年注力する分野が、スマートシティだ。和歌山県の白浜町と熊本県の人吉市にウフルグループとして拠点をもち、地域課題の解決に取り組んでいる。
スマートシティといえば、都市や地方のDXをいかに実現するかという、技術的でトップダウン的な観点がフォーカスされがちだ。しかし今回、ウフル代表取締役社長CEOの園田崇史氏がインタビューで強調したのは、地域に寄り添い、そこで暮らし、ビジネスすることの魅力だった。従来のスマートシティのイメージとは少し違った、リアルで地道な「まちづくり」の実態をうかがった。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)
スマートシティはIoT企業ウフルの集大成
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): ウフルが今スマートシティに力を入れる理由を教えてください。
ウフル 園田崇史氏(以下、園田): 弊社は創業以来、「テクノロジーと自由な発想で、持続可能な社会を創る」という企業理念を掲げてきました。持続可能性といえば、自然環境の問題があります。しかし一方で日本には、少子高齢化という課題もあります。これを解決しなければ、日本の社会を持続することはできません。
そこで重要となるのが、企業や自治体がデータを利活用し、限られたリソースを最大限活用できるしくみです。弊社はソフトウェア技術を軸に、そのためのさまざまな支援をしてきました。
たとえば2014年には、センサーなどで収集したデータを、APIを使ってクラウドサービスと連携するIoTオーケストレーションサービス「enebular(エネブラー)」をリリースしました。
IoTがまだ注目されていなかった頃、風力発電のデータをあつかうIoTシステムの開発を三菱重工様から受託したことが契機となりました。セールスフォースのクラウド統合プラットフォーム「Salesforce App Cloud」とトレジャーデータのビッグデータマネジメントサービス「Treasure Data Service」を、「enebular」で連携することで、陸上風車にとりつけたセンサーから膨大なデータをリアルタイムで収集し、運転状況の見える化や保守分析の効率化を行うしくみを実現しました。
それ以来、センサーメーカーを始めとするさまざまな企業と協力しながら、企業や自治体のDXを推進してきました。弊社にとってスマートシティ事業は、こうした従来の活動の集大成であると位置づけています。

小泉: 具体的には現在、どのようなスマートシティの取り組みを行っているのでしょうか。
園田: 弊社は2018年に和歌山県・白浜町と進出協定を結び、白浜町にサテライトオフィスを設立しました。現在では弊社CROの古城を含む3名の社員がいて、そのうち1名は現地で採用しています。オフィスは2か所あり、メインのオフィスは白浜空港から車で約10分のところにあります。もう1つは空港の中にあります。
また、熊本県の人吉市には弊社の100%子会社であるシステムフォレストの本社があります。このように、現地に社員が住み地域課題の根本的な解決を支援しているのが、弊社のスマートシティ事業の特徴だといえると思います。
小泉: 製品やサービスの提供だけに関わる企業も多い中、それは大きなアプローチの違いですね。
園田: 実際に住まなければ地域の課題はわかりません。たとえば、熊本県は昨年、大変な豪雨の被害にあいました(令和2年7月豪雨)。その際にはシステムフォレストの社員たちが、ネットワーク通信が遮断されたり、システムの復旧が大変だったりという経験をしました。そうした実際の経験をもとに、自治体の人たちと膝をつきあわせて、課題解決に向けた議論をしています。
人口3,800人のすさみ町のスーパーシティ構想を支援
園田: 昨年の9月に施工された「スーパーシティ構想」(※)の国家戦略特別区域の公募に、和歌山県のすさみ町が応募しています(南紀熊野スーパーシティ構想:仮称)。この特区に選ばれれば、さまざまな規制を緩和でき、先端技術を活用したサービスなどが導入しやすくなります。弊社は株式会社南紀白浜エアポート(南紀白浜空港)と協力して、この構想を検討段階から支援してきました。
すさみ町は太平洋沿岸にあり、カツオ漁で栄えた小さな町です。東京からであれば、羽田空港から南紀白浜空港まで90分、そこから車で30分もかからないほどで着きます。風光明媚で、美しい海がひろがり、温泉もあります。スキューバダイビングやサイクリング、釣り、ヨガなどさまざまな観光資源があり、ワーケーションにむいています。
※参考記事:都市のDXが進む「スーパーシティ」構想とは?


園田: ところが、すさみ町は今急速に過疎化が進んでいます。かつて12,000人だった人口が、現在では3,800人まで減少しています。2050年には2,000人を切ると推測されています。
こうした状況の中、すさみ町のコミュニティを維持しながら、観光などによる交流人口を少しずつ増やしていって、無理のないかたちでサステナブルな成長をいかに実現させるかが課題となっています。
すさみ町は昨年、「すさみ町まち・ひと・しごと創生総合戦略」という五か年計画(2020年~2024年)を策定しました(すさみ町のページはこちら)。
そこにはさまざまなKPI(目標値)が書かれていて、非常に明確です。たとえば、5年間の出生数は100人、婚活イベント参加者の成婚数は10組、企業の誘致数は1件、……などです。
小泉: 婚活イベント参加者の成婚数は10組。とてもリアルですね。
園田: すさみ町はこうした明確なKPIを実現するために、内閣府が主導するスーパーシティ構想に名乗りを上げたのです。2020年12月から公募がはじまり、2021年の6月には選定が完了する予定となっています。
「南紀熊野スーパーシティ構想」(仮称)の目的は、紀南地域(和歌山県南半島)が全体として栄えることにあります。弊社がオフィスをもつ白浜町に関しては、ワーケーションがひろまるなど、じつはコロナ禍でも魅力的な観光地として栄えつつあります。こうした発展を紀南全体に広げていくことが重要で、そのためのモデルケースとして今回すさみ町が先陣を切ることになったわけです。
小泉: モデルケースができれば、地方に企業がたくさん集まってくる契機となりますね。
園田: 日本には1741の基礎自治体があり、それぞれが大きな可能性を秘めています。また、日本は少子高齢化における課題先進国であるという点も重要です。すさみ町などの小さな町でつくったモデルケースは日本のみならず、世界に発信していくこともできます。
センサー企業と「コト売り」の場を協創する
園田: また、こうして地方のビジネスをスケールしていくにあたり、弊社が重要だと考えているのは、優れた技術をもつ日本のセンサーメーカーとの協業です。
最近では、いわゆるモノ売りからコト売り(たとえば、データビジネス)へということがよく言われます。しかし、センサーなどのモノをつくり装置メーカーに販売している企業にとって、コト売りの「コト」が生まれる機会はどうしても限られます。
新しいコトがなければ、ビジネスモデルのトランスフォーメーションは起きません。そこで、センサーメーカーがその技術を最大限活かせるようなコトを生み出し、それを協創によってつくりあげられるフィールドを提供することが、弊社の使命だと考えています。そして、地方はまさにその魅力的なフィールドなのです。
小泉: ウフルのスマートシティの軸には、自治体目線と、企業目線の二つの軸があるわけですね。
園田: はい。スマートシティの目的は社会を持続可能にしていくことですが、そのためにはキャッシュポイントが必要です。つまり、優れた技術をもった企業が進出し、ビジネスが成り立つようなフィールドを見出していくことが重要なのです。自治体と企業、この双方をつなぐのがウフルの役割です。
実際、応募中の「南紀熊野スーパーシティ構想(仮称)」の連携事業者には、弊社を含む20社以上の企業が選定されています。先程申し上げた通り、すさみ町の五か年計画では企業の誘致数は1社だけでよいとなっていますが、それをはるかに上回る企業が参画しているのです。今回の構想がなければ、すさみ町とこの20社が出会うこともなかったかもしれません。
小泉: 企業誘致といっても、企業を呼ぶだけで完結してしまうというケースも多いです。ウフルはそこを変えようとしていると。
園田: おっしゃるとおりです。ただ、今ではそれが少しずつ、次の段階へ移りつつあります。たんなるワーケーションにとどまらずに、その地域をフィールドとして新しいビジネスを生み出していくという考え方が広がってきているのです。弊社はそれを、先陣を切ってやっているという自負があります。

小泉: ウフルもそのフィールドでさまざまなソフトウェアやサービスを提供していくわけですよね。
園田: もちろん、そうできればありがたいですね。弊社はこうした地域の取り組みをしていると時々NPO法人とまちがわれることもあるのですが、そうではありません(笑)。
たとえばの話になりますが、すさみ町の道の駅や既存の施設などで、弊社のモバイルオーダーシステムである「売り子ール」を便利に使ってもらえるのではないかと考えています。
「売り子ール」は、QRコードをスマートフォンで読み取るだけで、気軽に商品を注文してデリバリーやテイクアウトが可能なサービスです。会員登録やアプリのダウンロードといった余計な手間はいりません。これまでにスポーツ観戦や、和歌山県の中央卸売市場のテイクアウトサービスにも採用実績があり、とても簡単で使いやすいと好評をいただいています。

園田: 新たに飲食施設を設けるのではなく、地元の道の駅や飲食店との共存をはかるというコンセプトをもとに、宿泊者・観光者が「売り子ール」を使って道の駅などにオーダーし、できあがったらメッセージが届き、商品を受け取りに行くというシステムをつくりたいと考えています。
小泉: それは素晴らしい取り組みですね。従来では大型の施設が地方に進出して、周辺のビジネスを抱え込むことで地元の企業が倒産してしまうというケースも少なくありませんでした。
園田: これからは考え方を変えていくべきですね。すでにいいものがあるのですから、それはシェアすればいいのです。それぞれの地方がもつ個性にこそサステナブルな成長の可能性があるのに、それをつぶしては意味がありません。
シェアリングと地産地消は、地域課題の解決に向けてきわめて重要です。道の駅では干物をつくっています。1点物なんですよ。そのときに釣れたものが販売されるので、実際に行ってみないと何が食べられるのかわからない。それくらいの方が面白いし、魅力的ですよね。
小泉: 貴重なお話をありがとうございました。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。