協調領域を見出し物流業界全体の標準化と効率化を目指す ―JPR/upr インタビュー

現在、物流業界はトラックドライバー不足を背景とする「物流2024年問題」に直面しており、何の対策も講じなければ、輸送能力の1割〜3割が不足する可能性があるとされている。

この「物流2024年問題」の解決策のひとつとして、荷物をまとめてフォークリフトなどで運搬することで、ドライバーの荷役作業や待機時間の削減が見込まれるパレットの活用が挙げられている。

こうした中、レンタルパレット事業を展開する日本パレットレンタル株式会社(以下、JPR)とユーピーアール株式会社(以下、upr)が、両社共通のサービス基盤「X-Rentalオープンプラットフォーム(クロスレンタルオープンプラットフォーム)」(以下、XROP:クロップ)の本格共同運用を、2024年5月7日より開始した。

「XROP」は、両社のレンタルパレットをはじめとする物流容器を、多数の企業で循環利用するために「IT」「人的なサポート」「ロジスティクス」の機能を共通化した基盤だ。

両社ともレンタルパレット事業を展開する競合企業でありながら、共通のサービスを作るに至った背景や、それに伴う苦労、標準化を進めるための思考などについて、日本パレットレンタル株式会社 取締役執行役員 野町雅俊氏(トップ画右)と、ユーピーアール株式会社 取締役 常務執行役員 物流事業本部長 石村浩氏(トップ画左)にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS小泉耕二)

パレットの必要性と課題から生まれた「XROP」

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): はじめに、「XROP」の概要について教えてください。

JPR 野町雅俊氏(以下、JPR 野町): 「XROP」は、パレットなどの循環物流容器を活用する上で必要な機能を共有化する枠組みで、主に三つのサービスで構成されています。

一つ目は、共通IT基盤である「X-Web(クロスウェブ)」です。物流容器を管理するためのWebアプリケーションサービスであり、共通の拠点マスタとユーザIDを使用することで、さまざまなソリューションと連携することもできます。

二つ目が、問い合わせ対応サービス「X-Support(クロスサポート)」です。「X-Web」の利用方法などに対する問い合わせに対して、窓口を統一して対応しています。

三つ目は、物流容器の回収や納品の運送サービスおよび、貸出・返却・保管・メンテナンスなどのデポサービス「X-Logi(クロスロジ)」です。ツールの共通化だけでなく、運送サービスという物理的な部分も、一定の条件を満たす場合は合同で行うことで、コスト削減と利便性向上を図っています。

協調領域を見出し物流業界全体の標準化と効率化を目指す ―JPR/upr インタビュー
「XROP」の概要図

現状では、JPRとuprのサービス基盤の共通化から取り組みを始めていますが、将来的には他社のレンタルパレットや、自社で運用されているパレットも「XROP」で管理できるよう体制を整えている最中です。

小泉: 「XROP」を活用することで、パレットが便利に活用できるイメージは湧いたのですが、便利にすることでコストもかかってくるのではないかと感じます。

導入する企業側からすると、今まで以上にコストがかかってしまうと導入に二の足を踏んでしまう場合もあると思うのですが、普及させるために取り組んでいることはありますか。

JPR 野町: 一般に、企業が検討するのはパレットそのものの価格・料金だけではなく、パレット輸送を行うために必要になるトータルのコストです。そのため、レンタル会社はしのぎを削ってトータルコストの低減を顧客に提案しています。

例えばJPRでは、輸送に使用したパレットを顧客に代わって回収するしくみによって、自社パレット運用で起きがちな紛失によるコストの発生を抑制することをサービスの特長にしています。

「XROP」に含まれる3つの機能はパレットを活用する際に欠かせない機能で、これらを差別化していく戦略もありえます。しかし、今回2社はこれらの機能をむしろ共通化することが、利用企業の利便性を高め、パレット輸送の普及につながると考えました。

upr 石村浩氏(以下、upr 石村): また、昨今の時代背景においても、パレットを管理しながら活用することでのメリットが大きくなっていると感じます。

2024年4月より、働き方改革関連法の適用や改善基準告示の改正により、トラックドライバーの時間外労働を年間960時間が上限となるなど、拘束時間や運転時間に対する規制が設けられました。

こうした規制を遵守しながらこれまで通りモノを運ぶためには、物流の効率化を図ることが必須となります。

これが、「物流2024年問題」と言われている課題ですが、この課題を解決する一つの方法がパレットです。

パレットに荷物をまとめて載せ、フォークリフトなどで積み込みや荷下ろしを行うことで、手作業によるバラ積みでの輸送よりも時間削減や省人化を図ることができます。

協調領域を見出し物流業界全体の標準化と効率化を目指す ―JPR/upr インタビュー
レンタルパレット貸出の様子

これまでは、手作業でのバラ積みのほうが積載率は高く、荷役などの付帯作業を含んだ運送料金であることが多いことから、パレットを活用しない選択をしている現場も多くありました。

しかし、トラックドライバーによる手荷役での作業は、国交省によると90分から120分かかるといわれており、次のトラックは前のトラックの作業が終るのを待たなければなりませんでした。

これからは、時間外労働が年間960時間が上限とされる中、このままでは規制の範囲で輸送が行えなくなってしまうということから、「物流の2024年問題」の解決策の一つとして、改めてパレット活用の重要性が注目されています。

一方、パレットを活用するにも、使い捨てではコストは高くつきますし、環境にもよくありません。

管理をすることで、必要な時に必要な場所にパレットがあるという状況を整えることが大切です。

当たり前のように聞こえるかもしれませんが、以前であれば、一部の発荷主から送られてくる使い捨てのパレットを、あたかも共有資産のように再利用するケースもありました。

しかし、サステナビリティへの流れやウッドショックなどをきっかけに、使い捨てをやめて、同じパレットを繰り返し循環して使用しようというのが昨今の潮流です。

私たちはパレットの循環利用の方法の一つとして、レンタルという選択肢を提供しています。

そして、レンタルパレットの導入や活用をする際に、より便利に効率よく活用してもらうために「XROP」が生まれたのです。

例えば、JPRとupr両社のパレットやその他のパレットを同じ現場で活用しているケースは多くあります。その際、各社のパレットが混在してしまい、管理や回収などが大変だと言う声が現場から挙がっており、「XROP」を構築するきっかけとなっています。

現場のニーズを捉え、浸透させるためのサポートを実施

小泉: すでに現場からのニーズがあり、「XROP」を構築する流れが生まれたのですね。実際に「XROP」を利用しているユーザの反応はどうでしょうか。

upr 石村: これまでは、各社のシステムにログインして手続きを行わなくてはならなかった業務が、一つのシステムで行えるようになったため、便利になったという声をいただいています。

協調領域を見出し物流業界全体の標準化と効率化を目指す ―JPR/upr インタビュー
「X-Web」のシステム画面イメージ

特に、両社のパレットを含めたさまざまなパレットが届く卸業者などでは、「他社のパレットも管理できるようにしてほしい」など、システムに対する要望も挙がっており、明らかに効率が良くなっていると思います。

他にも、パレットの管理を細かく行われるケースが増えたと感じます。

例えば、uprのレンタルパレットの契約者と、JPRのレンタルパレットの契約者の間ではパレットを引き継ぐことはできませんが、「X-Web」を活用することで、どこに何のパレットがどれだけ移動したかを管理することができるようになりました。

つまり、他会社間のパレットのレンタル費請求を移行することはできませんが、パレットの移動経路を把握することはできるようになったのです。

JPR 野町: パレットは法人ごと、拠点ごとの管理はもちろん、ときには同じ拠点のなかでも在庫を分けて管理をすることがあります。パレットは企業から企業へと輸送に使用されて効果を発揮するものですから、こうした管理の機能はどうしても必要です。

私たちはレンタルパレットの事業者ですが、物理的なパレットを供給しているだけではありません。パレットを企業間で共有し、輸送に使えるようにする機能をセットにして提供しています。

今回構築した「XROP」は、その機能を共通化し、利便性を高めるもので、それをうまく活用していただいていると思います。

小泉: メーカサイドは、部品や出来上がった製品の在庫管理をしているイメージは湧くのですが、パレットが何枚使われているかまで管理をしているものなのでしょうか。

JPR 野町:  確かに、パレット管理のイメージが湧きにくいかもしれません。では、倉庫やトラックならばどうでしょうか。様々な手法で管理をしていますよね。

パレットはいわば「動く荷台」です。パレットの管理は必要という認識は次第に定着してきています。

むしろ、最近ではパレットと積載された製品をユニットとしてとらえ、物流の管理にパレットを活用するケースが増えています。

倉庫のロケーションや、得意先への出荷情報がパレットを使って管理される中で、「パレット管理のためにする作業」は減っていきます。

こうした物流管理の方向性をとらえると、パレットのIT基盤はバラバラであるよりも共通化された方が良い。これが「XROP」開発の経緯でもあります。

小泉: 記録する際のUIや使い勝手で工夫されている点はありますか。

upr 石村: QRコードを読み込むことで、あとは数量を記録するだけで良い仕様にするなど、現場の負荷を減らす工夫をしています。

協調領域を見出し物流業界全体の標準化と効率化を目指す ―JPR/upr インタビュー
QRコードを読み込み、数量を記録している様子

システムのUIや仕様に関しては、変わった当初は使い方に関する疑問の声をいただくこともありました。

そこで、システムを変える前に説明会を開き、説明会に来られなかった方には動画を配信していつでも見られるようにしたり、共通の窓口である「X-Support」に問い合わせをしてもらったりと、システムを浸透させるためのサポートも行っています。

小泉: 現場の声のヒアリングや導入支援など、これまでレンタルパレット事業を展開されてきた2社だからこそのサポートを手厚くされているのですね。

業務の定義や企業文化の違いを乗り越え標準化を目指す

小泉: 今回、レンタルパレット事業を展開されている2社が協業されたわけですが、競合企業同士で仕組みを統一させるのに、苦労した点はありますか。

upr 石村: 当初は、両社とも物流容器のレンタル事業を展開しているため、業務内容も同じようなものだと考えていました。

しかし、それぞれの企業文化があり、サービスやレンタル商品の種類で異なる部分が多くありました。

例えば、パレットをレンタルしているユーザから、次のユーザにパレットを引き継ぐことを、弊社では「振替」と言っていますが、JPRでは「リレー」と言っています。

こうした言葉自体や定義の違いからはじまり、パレットの振替手続きや契約上の定義、使用する帳票やコード体系など、様々な違いがありました。

この違いを、どちらの定義に合わせるか、どこまでは妥協できてどこまではできないかを判断をするために、その都度検証を行いながら、言葉や定義を擦り合わせていきました。

JPR 野町: 協調できる範囲を「XROP」に落とし込み、ユーザにとって利便性の高いサービスを構築したいと思っていますが、「XROP」以外の領域に関しては、これまで通り競争し、互いの付加価値を訴求していく必要があります。

そのため、どこまでを協調領域として、お互いのノウハウや情報を共有・管理するかといった、体制や仕組みづくりにも時間をかけました。

小泉: では、システム開発自体に時間がかかったというよりは、合意形成をすることのほうが大変だったのですね。

JPR 野町: そうですね。共同でプロジェクトをはじめた当初は、合意形成はすぐに終わると思っていたのですが、結果的に3年ほどかかりました。

合意によって、個々の運用やオペレーションにどのような影響が出るか都度検証・判断していく作業を繰り返し、すり合わせていきました。

小泉: 今回の取り組みのように、共通のプラットフォームを構築して、スタンダードを作ろうと思うと、標準化とこれまでのルールの間での軋轢が必ず生まれますよね。

upr 石村: 日本の物流業界は、各事業者の立場や地域特性に応じて、すでにローカルルールが構築されています。そのため、業界全体のためになると分かっていても、うまく折り合いをつけながら標準化していくには時間がかかると思います。

小泉: どのような発想が解決の糸口になると思いますか。

JPR 野町: DXによって、標準化の必要性が強く認識されてきていると思います。データのコード体系、オペレーション、契約など、標準化の必要性が謳われているものは数多くあります。デジュールスタンダード(公的な標準)にせよデファクトスタンダード(事実上の標準)にせよ、整えていかなければなりません。

これまでは、掛け声だけでは実現が難しかった。それを変えるきっかけが、「2024年問題」なのかもしれません。

我々としては、パレットの領域で標準化を進めることで、物流全体のDXを促進できればと思っています。

「XROP」を中核に連携領域を広げる

小泉: 今後は、さらなる連携拡大も視野に入れているとのことですが、現状のシステムの仕様はどうなっているのでしょうか。

JPR 野町: 「XROP」の共通IT基盤である「X-Web」では、物流容器の管理に加え、APIを用意して外部システムとの連携もできるようにしています。

このAPIでは、JPRとuprの基幹システムとの連携に加え、お客様のWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)などとも連携できるようにしています。

また、CSVファイルのアップロードやダウンロードができるほか、手打ちでの入力もできるようにしており、現場の状況に合わせて活用できるようなシステムにしています。

さらに、JPRでは納品伝票電子化サービス「DD Plus」や共同輸送マッチングサービス「TranOpt」などを、uprではAI技術を用いたパレットカウントアプリ「パレットファインダー」との連携を予定しており、今後はソリューションベンダーとの連携も視野に入れて仕様を整えてまいります。

まずは2社間での運用をより強固にし、「XROP」の機能強化や改善を進めることで実績をつくり、参画したいというサプライヤーを募っていきたいと思っています。

小泉: 最終的なイメージは、モノを運ぶ時の中核にパレットがあり、そのデータを活用しながら他のサービスを加え、ユーザやソリューションベンダーのシステムともつなげていくことで、さらなる効率化を目指しているのですね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

無料メルマガ会員に登録しませんか?

膨大な記事を効率よくチェック!

IoTNEWSは、毎日10-20本の新着ニュースを公開しております。 また、デジタル社会に必要な視点を養う、DIGITIDEという特集コンテンツも毎日投稿しております。

そこで、週一回配信される、無料のメールマガジン会員になっていただくと、記事一覧やオリジナルコンテンツの情報が取得可能となります。

  • DXに関する最新ニュース
  • 曜日代わりのデジタル社会の潮流を知る『DIGITIDE』
  • 実践を重要視する方に聞く、インタビュー記事
  • 業務改革に必要なDX手法などDXノウハウ

など、多岐にわたるテーマが配信されております。

また、無料メルマガ会員になると、会員限定のコンテンツも読むことができます。

無料メールから、気になるテーマの記事だけをピックアップして読んでいただけます。 ぜひ、無料のメールマガジンを購読して、貴社の取り組みに役立ててください。

無料メルマガ会員登録