IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)は、2015年6月に発足された一般社団法人だ。現在では製造業に関わる企業230社以上が参加し、日本の製造業を強化するべく国内外へ向けて発信を続けている。
来年の6月で10年を迎えるIVIはこれまで、スマートなものづくりを実現するためのリファレンスアーキテクチャー(参照モデル)やフレームワークの提案に加え、それらを活用した参加企業による実証実験などを通じ、試行錯誤をしながら現場の変革に寄与する活動を行ってきた。
こうした提案内容や活動内容を発信するべく、定期的に公開シンポジウムを開催しているIVIだが、10年という節目を前に「IVI公開シンポジウム2024 -Autumn-」が2024年10月10日に開催された。
今回は、「日本の強みを考えるーこれまでの10年・これからの10年ー」と題し、現在の課題に対する新たなIVIのグローバル標準や、この先10年かけてIVIが実行したいことなどについて、IVI理事長 法政大学教授 西岡靖之氏より語られた。
これまでもこれからも、ものづくりが超えられない壁
これまでの10年、ものづくりを取り巻く環境は、「モノ売りからコト売り」「大量生産から多品種少量生産」「デジタル化やカーボンニュートラルへの動き」など、目まぐるしく変化している。
これからの10年も同様に変化の激しい時代になることが想像できるが、西岡氏は、「未来を予測するのではなく、イニシアチブを取ってアクティブにアプローチしていきたい」と述べる。
そのためには、現時点のものづくりにおいて、なにが課題であるかを知ることが重要だ。
そこで西岡氏は、イノベーションを実現しようとしても超えられない法則として「イノベーションが直面する7つの法則」を例に挙げた。
イノベーションが直面する7つの法則
- 多様性の法則
- 標準化の法則
- 競争と協調の法則
- 自動化の法則
- 知能化の法則
- デジタル化の法則
- データ化の法則
共通を狙えば対象範囲は狭くなり、個別化をすればニッチとなる。
技術を標準化すると、いずれコモディティ化し、価格競争となる。
協調領域には投資が集まらない。競争なければ進歩しない。
自動化しても要件が変わればやり直す必要があり、手間は減らない。
ノウハウは状況と密接で、ノウハウだけ書き出しても使えない。
ソフトウェアは構造物であり、手順通りに作らないと動かないため融通がきかない。
データは拡散したら、オーナーでも主権を行使できない。
西岡氏は、「こうしたルールが存在するのは現実であり、これを理解した上で議論し、どのようなアーキテクチャを描き、プロトコルをのせていくかを考える必要がある。各企業も、法則を前提にポジショニングを行いながら、戦略を立てていくことが重要だ。」とした。
問題を発見し解決していく「新グローバル標準」
前提となる課題は分かったが、具体的にこの先10年、IVIはどのような戦略をもとにアプローチするのか。ここで挙げられたのが「新IVIグローバル標準」だ。
この新IVIグローバル標準は、課題設定や問題解決のための思考法や手法に加え、描いた解決策を具体的に生産工程に落とし込むための方法論も含まれている。
では、新IVIグローバル標準とは何か、具体的に見てみよう。
まずは、「全体思考を前提に考えることから始める」のだと西岡氏は言う。
全体思考とは、サプライチェーン全体を考えた思考だ。各現場といった点の思考を、常に全体での思考へ引き上げて考える。
そして、全体思考で考えた上で、実際の現場に個別実装し、検証するというサイクルを回す。
この「全体思考」と「個別実装」のサイクルが、新IVIグローバル標準のベースとなる。
そして、このベースをもとに、「スマートシンキング」「デザインアプローチ」「オープンフレームワーク」の3つを活用するというものだ。

スマートシンキング
スマートシンキングは、IVIが以前より提唱している、ものづくり全体を捉えるための国際標準であるリファレンスモデル「IVRA」と、問題を発見し共有することで、課題設定をして解決していくというサイクル「EROT」から成る、組織が学習するための仕組みだ。
なお、「EROT」では、「As-Isモデル」や「16チャート」など、実際にサイクルを回すための方法論も提案されている。

西岡氏は、「スマートシンキングはこれまでも発信し続けている仕組みだが、より多くの人に活用してもらえるよう、本や記事を読めば誰でも実行できるよう普及活動を続けていく。」と述べた。
デザインアプローチ
デザインアプローチは、今回新たに提唱される仕組みで、生産におけるアセットやプロセス、プロダクトを関係づけデザインする「PSLX」と、データ接続の際に、標準の接続仕様に合わせることなくつなぐことができるメカニズムである「IDDT」から成る。
生産現場において、具体的に何をどう作っていくのか、新IVIグローバル標準のベースとなる「個別実装」のフェーズで必要となるものだ。
通常、工場でモノを作る際、作業者や設備といったアセット(BOA)があるが、アセットだけではモノは作れない。
なぜなら、アセットを生産手順やプロセス(BOP)に落とし込み、最終的なプロダクト(BOM)に関係づける必要があるからだ。
そこで「PSLX」では、この「BOM」「BOP」「BOA」を定義し、「BOP」に「BOM」と「BOA」を紐つける。そして、各現場が保有している製造に関する方法や知識、ノウハウをデータ化した「BOK」を「BOP」に紐付けて活用することで、どう関係づけるかをデザインしていくというものだ。
さらに、エネルギー消費構造である「BOC」も「BOP」に紐つけることで、エネルギー消費や環境負荷を考慮した生産のデザインを支援する。

加えて、「BOM」「BOP」「BOA」「BOK」「BOC」それぞれに必要なデータモデルの項目も、IVIが標準で定義している。

西岡氏は、「システムに落とし込む際には、ソフトウェアのアプリケーションごとに様々な形式があるが、その前段階でこの標準的なフレームワークを活用することで、共通認識をもって建設的な議論が可能になると考えている。」と、デザインアプローチの重要性について述べた。
オープンフレームワーク
オープンフレームワークでは、企業間の小規模なデータ連携をセキュアに行うための「CIOF」や、データ連携を行うために必要となる標準言語を分散的に実現するための「DSAA」を提案している。
これにより、各製造業の企業が保有している様々な知的財産を、適切に共有することができるというものだ。
例えば、これまでは海外にノウハウを提供しても、そこから収益を得ることは難しかったが、オープンフレームワークを活用することで、対価を得て必要な情報だけを提供する、という適切な契約や追跡を実現する。

「日本の品質管理はトップクラスでありながら、これまでは、ノウハウや技術といった知的財産がただ流出していた。これからは、全てをオープンにするのではなく、オープンにできる情報を提供して対価をもらう必要があり、そのためにCIFOを活用してほしい。」(西岡氏)
蓄積された知財を国レベルでデータドリブンに海外展開していく構想
さらに西岡氏は、これからの10年で、日本のものづくりに関わる知見やノウハウを集約して、海外へ展開していく構想について語った。
一つ目は、日本のものづくりに関わるステークホルダーを結集させ、TQCやTPMといった品質管理に関するモデルを集約する構想だ。現時点においても、IVIが構築したある程度の雛形はあるとした上で、ステークホルダー共通のモデルを構築するというものだ。
そして、このモデルを基に、地域拠点との連携強化を目的に、アジア版製造モデルをリリースするという。
また、IVIでは、それぞれの企業において共通していると思われる現状や課題、解決手段、そして目指す姿である「業務シナリオ」を示しており、すでに200以上の業務シナリオのノウハウがデータ化され、集約されている。これをデータベース化し、大規模言語モデルに学習させ、推論する将来像が語られた。
さらに、EDI(電子データ交換)への全面以降を計画しているという。現在でのEDIの活用方法は、売買履歴や支払い履歴などが中心だが、それをさらに設計レベルや連携レベル、つまり非定型な企業間連携ができるようにするのだという。
IVIの立場としても、プラットフォームのライセンス提供を行うことでエコシステム化を進め、アジアへの展開を含め、海外パートナーとの連携を視野に入れているとのことだ。
西岡氏は、「データドリブン社会になると、知財の扱いを適切に行うために法律を整えることも重要。EUではこうした法律の整備が進んでおり、日本でも法整備を含め共通モデルを構築し、国際標準化を目指す。」と、国を挙げての展望について述べた。
他にも、カーボンニュートラル基盤と連携エンジンの技術提供や、データ主権を担保する新たなNGOの設立への参加、道州単位の国を超えた連携でIVIがコモディティ化していく構想など、これからの10年で実現するべくアクションが語られた。
無料メルマガ会員に登録しませんか?

現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。