付加価値生産性を知ってますか?「生産性向上」の真の意味と、2つの視点・成功事例から学ぶ稼ぐ力

ビジネスパーソンであれば、「生産性向上」という言葉を聞いたことがない人はいないと思います。

働き方改革、人手不足、グローバル競争の激化など、多くの企業が直面する昨今の課題を解決するために、生産性向上は欠かせないキーワードとなっています。

しかし、その実態は「残業を減らすこと」や「業務を効率化すること」といった、単なる作業レベルの話だと捉えられていることも少なくありません。

もちろん作業の生産性を向上させることも重要ですが、現代の生産性向上は、より深い意味を持っていると考えることができます。

本記事では、生産性向上の真の定義と、それを実現するための2つの重要な視点、そして、デジタルを活用した成功事例などを紹介します。

生産性向上とは?基本の定義と2つの種類

「生産性向上」の最も基本的な定義は、投入したヒト・モノ・カネ・時間といった資源に対して、得られた成果や付加価値の割合を高めることです。

これは、企業活動のあらゆる局面で求められる、いわばビジネスの根幹をなす考え方です。

そして、この生産性向上は、大きく以下の2つの種類に分けることができます。

効率性の向上を実現するいわゆる生産性

1つ目は、効率性の向上です。

効率性の向上とは、同じ成果をより少ない資源で生み出す「ムダをなくす」といったアプローチです。

業務プロセスの中に潜む「ムダ」「ムリ」「ムラ」を徹底的に排除することで、時間、コスト、そして労働力を削減します。

残業時間の削減やコストダウンといった、直接的に「効率化」を連想させる取り組みがこれに該当します。

多くの場合、この効率性の向上が、生産性向上だと捉えられています。

このアプローチは物的生産性とも言われ、生産量や個数、重さといった物理的に計測できる成果を基準に算出されます。

例えば、製造業における1人あたりの生産台数を向上させる取り組みや、営業職において同じ売上をより少ない時間で達成する取り組みなどがこれに当たります。

高付加価値化を実現する付加価値生産性

もう1一つが、高付加価値化です。

高付加価値化は、同じ資源でより大きな成果(利益)を生み出すという「価値を高める」アプローチです。

単に時間やコストなどを削減努力するだけではなく、商品やサービスの価値そのものを高めることで、企業の収益力や市場での競争力を向上させます。

新規事業の開発や既存サービスの品質改善、従業員のスキルアップなどがこれにあたります。

このアプローチは付加価値生産性と言われ、企業が生み出した売上から原材料費などを差し引いた付加価値額を基準に算出されます。

同じ製品を生産しても、ブランド価値を高めて高価で販売したり、より付加価値の高いサービスを提供したりすることで、付加価値生産性は向上します。

そして、この「効率性の向上」と「高付加価値化」2つの視点は、密接に関係しています。

効率化によって生まれた時間やコストの余裕を、高付加価値化のための投資に回すことで、生産性向上を実現できます。

生産性向上へ向けた前ステップ、「ムダ」の見える化

上記のような生産性向上を目指す前段階として、自社の業務に潜む「ムダ」を洗い出し、可視化することが重要です。

このプロセスを経ることで、現状の課題を明らかにし、どこにリソースを集中投下すべきかという、より戦略的な判断を行うための出発点となります。

ムダを洗い出すための一般的な流れとしては、まず、部署やチームごとに普段行っている業務をすべて書き出してみましょう。

業務ごとの担当者、所要時間、必要な書類やシステム、承認プロセスなどを細かく整理します。

この時、従業員自身にヒアリングを行うことが重要です。

「この作業は本当に必要か?」「もっと良いやり方はないか?」といった問いかけを通じて、非効率な慣習や属人化している業務を見つけ出すことができるでしょう。

そして、業務フローの棚卸しと並行して、定量的なデータも集めます。

例えば、勤怠管理システムから取得できる残業時間、経費精算にかかる時間、特定の業務に費やされる人件費などです。

これらの客観的な数値は、改善の優先順位を決定する上で強力な根拠となります。

なお、業務フローの棚卸しに役立つ手法として、BPMNという国際標準の表記法があります。

BPMNについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

関連記事:BPMNとは?業務プロセスを視覚化する国際標準の表記法

生産性向上のための具体的な改善策

業務の「見える化」によって課題が明確になったら、いよいよ具体的な改善策を考えていきます。

生産性向上を実現する手法は多岐にわたりますが、本記事では上述した「効率性の向上」と「高付加価値化」の2種類に対するアプローチを考えてみます。

効率性を向上させるアプローチ

効率化は、既存業務の「ムダ」をなくすことで、同じ成果をより少ない資源で生み出すことを目指します。

例えば、複雑な承認プロセスを見直したり、不要な会議を削減したりといった改善策です。

他にも、作業動線を考慮したオフィスのレイアウト変更や、書類のファイリング方法を統一するといった物理的な「環境整備」、属人化している業務をマニュアルに落とし込み、誰でも同じ品質で作業できるようにするといった「マニュアル化と標準化」などが考えられます。

また、定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)や、部門間のワークフローを効率化するBPM(Business Process Management)ツールの導入といったデジタル技術の活用も挙げられます。

これらは、手作業で行っていたデータ入力や書類作成、承認作業などを自動化し、従業員をより付加価値の高い業務に集中させることができます。

高付加価値化を目指すアプローチ

高付加価値化は、同じ資源でより大きな成果を生み出すことを目指すアプローチです。

高付加価値化の最も直接的な例は、市場にない新しい商品やサービスを生み出すことです。

そのためには、市場のニーズを深く理解し、自社の強みを活かした独自の価値提案を開発する必要があります。

全社的なアイデアソンの開催や、新規事業創出を専門とする部署の設置などが有効なアプローチとなります。

また、従業員一人ひとりのスキルを高めることも、組織全体の生産性向上につながります。

OJTをはじめ、外部研修の導入、資格取得支援制度、eラーニングツールの提供など、継続的な学習機会がこれにあたります。

従業員が新しいスキルを習得することで、より複雑で付加価値の高い業務を担うことが可能になるという発想です。

他にも、顧客との関係性を深め、LTV(顧客生涯価値)を高めることも高付加価値化の重要な要素です。

例えば、CRMツールを導入し、顧客情報を一元管理することで、パーソナライズされたサービスを提供したり、顧客からのフィードバックを新製品開発に活かしたりするということが考えられます。

顧客満足度の向上は、リピート率や口コミによる新規顧客獲得につながり、結果的に企業の収益力を高めます。

このように、効率化を向上させるにも、高付加価値化を目指すにも、アナログなアプローチとデジタル技術を活用するアプローチがあります。

アナログなアプローチは、大きな投資を必要とせず、すぐに効果を実感しやすいというメリットがあります。一方、効果には限界があり、大幅な生産性向上は難しく、継続的な改善には手間がかかる側面もあります。

これに対して、デジタル技術を活用するアプローチは、初期費用や導入コストが高くなる場合があり、従業員の習熟に時間がかかることや、専門的な知識が必要になるという障壁があるものの、効率化の効果が大きく、スケールしやすいというメリットがあります。

また、属人化を防ぎ、新たな価値創出やビジネスモデルの変革にもつながる可能性も秘めています。

それぞれのメリットとデメリットを理解し、自社の課題に合わせて適切に組み合わせることが成功の鍵となります。

生産性向上に成功した事例

前章で触れたように、デジタル技術の活用は障壁があるものの、生産性向上を強力に後押しする可能性があるツールです。

本章では、デジタル技術を活用することで、効率化と高付加価値化の両軸で生産性向上に成功した事例を2つ紹介します。

ボトムアップで実現した生産性向上

1つ目は、老舗倉庫会社である浜松倉庫の事例です。

同社は老舗企業として安定していたものの、このままでは先行きが危ういという強い危機感がありました。

なぜなら、物流業界では、大手事業者が顧客の物流業務を包括的に受託する「サードパーティー・ロジスティクス(3PL)」へと事業を拡大する流れがある一方、付加価値を提供できない中小企業は価格競争に巻き込まれるという二極化が進んでいたからです。

加えて浜松倉庫には、長い歴史であるが故のトップダウンの文化があり、従業員が受け身になりがちな雰囲気が社内にあったことも大きな課題だったそうです。

そこでまずは、ボトムアップ型のDXプロジェクトを発足し、会社のビジョンを考えるところから始めました。

そして、方向性が社内で固まった後、既存の業務フローをもとに、業務をどう変えなければならないかを現場目線で模索しました。

こうして業務プロセス全体を根本から見直した上で、これまでFAXや手作業に頼っていた受発注業務や在庫管理をデジタル化しました。

デジタル化に関しては、あるべき業務フローを自社で作成した上で、外部のITベンダーとともに実現していったそうです。

この取り組みにより、生産性を30%向上させることに成功し、10人工分の余力が生まれました。そして、その余力を活用して新しい倉庫センターの立ち上げに充てることができました。

さらに、現場主導の取り組みを徹底したことで、全従業員が「DXの『X(変革)』が重要で、『D(デジタル)』は手段」という意識を共有し、自ら改善策を考えて行動する文化が根付きました。

その結果、全倉庫の無線LAN化やペーパーレス化、リアルタイムで全ての情報が取得できるような仕組みの構築などを、ボトムアップ型で実現することができたそうです。

この事例は、効率化によって生まれた時間やコストを、新しい事業への投資といった高付加価値な活動に回すことを可能にした、理想的な生産性向上の形と言えるでしょう。

また、現場主導で変革を進め、改善策を考える文化が根付いたことで、デジタル導入という一過性のアプローチではなく、持続的な成長を可能にしている点も注目すべきポイントです。

段階的な取り組みで生産性200%向上を実現

2つ目は、自動車の内外装部品を製造する三井屋工業の事例です。

これまで三井屋工業では、作業日報を紙に書いて管理しており、いつ、どこで、どれくらいの不良品が出たかというデータがリアルタイムに集まらず、正確な分析ができていませんでした。

不良品の情報が迅速に共有されないため、現場の作業員と管理者の間で認識のズレが生じ、原因究明や対策の指示が遅れ、根本的な原因を解決できず、連携ミスや不良品の発生が続いていました。

その結果、作り直しや手戻り作業が増え、全体的な生産性の低下を引き起こし、収益の悪化やそれによる離職率の増加という課題に発展していました。

そこで同社はまず、現場の状況を正しく把握することに着手しました。

その結果、紙ベースで集計した不良率が2%程度であるのに対し、実際の財務データは4%以上と、大きな乖離が生じていることがわかりました。

こうした状況を変えるため、同社はデジタル化を決断。しかし、財務状況が良くない中で、多額の費用をかけてシステムを開発することはできなかったそうです。

そこで、同社の情報システム部門がローコードツールを活用して電子日報アプリを開発し、iPadと組み合わせて現場で試用を開始しました。

現場では、生産ラインごとのタブレットから作業者が開始と終了のボタンを押すことで、作業時間が自動で記録される仕組みになっています。

このアプリは、一定の成果を得ることができ、アジャイルで改善を重ねながら正式運用へと移行しました。

その後、日報だけでなく、設備の詳細データ、センサーからのデータ、設備内のカメラや定点カメラのデータを取得し、生産情報や不良情報が集約される生産実績管理システムへと発展させました。

さらに、当時新たな工場建設を控えており、新工場では同社が理想とするデジタル化を進めるために、グラフや表で生産状況を可視化することができるBIダッシュボードの導入も行いました。

三井屋工業では、これまでホワイトボードで生産進捗を行っていましたが、自社で開発した生産実績管理システムとBIダッシュボードを連携させることで、生産状況をリアルタイムで可視化できるようになりました。

例えば、実際に機械が稼働した時間や停止・不具合、各ラインで発生した不良品の数などがBIダッシュボードに表示され、どのラインが計画通りに進んでいるか、どのラインで遅延やロスが発生しているかが一目でわかるようになりました。

加えて、異常発生時に作業者がタブレット上のボタンを押すと、管理者のスマートウォッチに通知が届く仕組みを構築しました。

これにより、管理者が速やかに現場に駆けつけて対応することができるようになり、異常の種別や不良個数といった情報をシステムに登録することで、その情報が品番データに自動で紐付けられ、後に分析して再発防止に活かせるようになりました。

こうした取り組みの結果、不良品率を4.0%から0.4%にまで改善し、生産性は200%向上。業績が黒字化することにより、労働環境も改善され、離職率を約10%から1.6%へと減らすことにも成功しました。

得られた成果は本社工場に横展開したほか、自社で開発した生産実績管理システムは、製造現場DX支援ツールとして製品展開しています。

この事例は、生産状況の可視化により業務のムダを徹底的に排除し、自社の成功事例をサービスとして展開することで新たな収益源を創出するという、「効率性の向上」と「高付加価値化」が密接に結びついていることを表しているモデルケースと言えるでしょう。

また、最初から大規模なシステム開発に多額の投資をするのではなく、現状把握から段階的なデジタル化を進めた点や、新工場の成果を本社向上に横展開するなど、デジタル導入の進め方に関しても参考にするべきポイントが満載です。

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