グローバル企業だからこそ、日本に合ったソリューションを提供できる
小泉: 最後に、日本でのビジネスはどうでしょうか。
白幡: 日本の二本柱は、APCのブランドで知られるIT事業とインダストリー事業です。インダストリー事業については、2002年、株式会社デジタルという産業用HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の先駆けとなった日本のメーカーをグループにむかえました。
今ではHMIだけではなくスマートファクトリーを実現する事業領域に拡大しています。
日本には、グローバルにビジネスを展開する製造機械メーカーがたくさんあります。そうした日本のお客様に「EcoStruxure Machine」を紹介する時は、建設機械メーカーのコマツさんが提供する「KOMTRAX」を例として伝えることが多いです。
たとえば、私たちが提供する「EcoStruxure Machine」が組み込まれた製造機械機器であれば、ベトナムに何台、ミャンマーに何台、タイに何台入っていて、それがどういう稼働状態なのかをお客様は把握できます。それができるようになると、ビジネスモデルの変革が可能になります。私たちのお客様で既に、設備そのものを売らずに設備の「稼働時間売り」を始めている企業があります。
また日本では、人不足と経験不足をどうデジタルで補うかが課題となっています。そこで、提供できるのが保守・メンテナンス向けの拡張現実(AR)のソリューションです。
有資格者が現場に入り、関連する機器や製造ラインを停めた上で、制御盤を開けて作業をします。しかし、シュナイダーが展開するARのソリューションでは、デバイスをかざすと機器内部の情報が可視化され、「EcoStruxure」を通じて収集した情報が表示されます。異常がある場合には警告のマークが現れ、そこをタップすると動画マニュアルや図面が表示され、その場で対応できるのです。

そうすることで、保守・メンテの効率化がはかれるとともに、日本の現場が高齢者で支えられているという問題を解決することができると考えています。1年前から日本でも販売しています。好評のため、現在は「AR認定パートナー」という制度をつくり、AR開発用ソフトウェア「ARビルダー」を10社のARパートナーにライセンス提供しています。
小泉: 日本の現場でデジタル化が進まない理由はどこにあるとお考えですか。
白幡: 日本は現場が強いからだと思います。そのため、機器メーカーは機器だけを提供し、それをシステム化し使いこなすのはお客様の現場の仕事ということになりがちです。それだけ優秀な技術者がいるという反面、新しいソリューションを導入する機会損失になる場合もあります。
日本のような高度な技術者がいない国では、むしろ最初から統合システムをまるごと入れる場合も多く、現場の担当者はリソースを他の仕事に振り分けられ、最新のソリューションを導入できるというケースも多いのです。
シュナイダーは海外での事例をたくさん見てきているからわかります。日本の強みは痛しかゆしで、ハードからソフトウェアまでを一体で提供するような統合システムは日本企業にとっても価値があると考えています。
小泉: 最後に、日本での事業展開について、展望を教えてください。
白幡: 私たちはグローバル企業であり、フランスの企業でもなく、外国でつくった製品を日本で販売するために日本での事業を進めるわけでもありません。日本には日本に合ったソリューションを提供していきます。
いまの時代はむしろ、外資系にとっては大きなオポチュニティだと考えています。過去20年を振り返ってもなかなか日本市場で新しい価値を提供していくことは難しかったのですが、IoTのような革新的なテクノロジーや一層のグローバリゼーションにより、求められるビジネスの価値が変わるというタイミングにおいては、日本のために私たちはもっと貢献できる機会があるのかもしれません。
本日はありがとうございました。

【関連リンク】
・シュナイダーエレクトリック(Schneider Electric)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。