ET City Brainとスマートシティへの取り組み

杭州ではスマートシティの取り組みも進んでいる。
そのコアとなるのが、アリババクラウド「ET City Brain」だ。
信号機のデータとカメラなどで収集した道路状況を基に、ナビ機能が強みの中国版Google mapである「AutoNavi」と連動し、モビリティの最適化が進んでいる。
実際に、緊急車両の運用における効果が出ていて、ルート検索と同時に信号制御も行い、一般車両への影響を最小限にしながら、最短で目的地に緊急車両が到着できるように案内するのだという。
5G時代に普及すると見られている緊急車両内での遠隔医療もそうだが、救急救命まわりで有効な取り組みは、世界でもどんどん取り入れられて、フォーマット化が進む可能性があるだろう。
さらに、信号データと渋滞情報を基にしたナビゲーションは、出発地点と目的地が同じでも最短ルートが異なる場合があるという。
この交通制御は、物流のドライバーにも大きな影響を与えている。デリバリー系のサービスでは、配達までの時間のコミットや、配達件数によって得られる収入が変わることもあり、ドライバーは1分1秒でも早く配達をしたいと思っている。
生活者の行動に合理性をもたらす、アリババの街

中国に出張すると、出張者には不便に感じることも多い。
昨年はWeChatPayもアリペイも使うことができず、とても不便な思いをした。そこで、今回は、事前にアリペイをアクティベーションし、現地の方に現金を渡してアリペイにチャージしたことで、様々な店舗でスマートに買い物をすることができた。
しかし、信用スコアは中国内での身分証明書がないため利用することができない。信用スコアを前提としているシェアバイクもモバイルバッテリーもデポジットや利用できない。
これは、ビジネス的見地に立てば、とても合理的な判断であるといえる。
年に数回、来るか来ないかわからない海外の旅行者に向けてサービスを開放し、新しい基準を設けることは、コスト効率も悪く、信用スコアの指標にも影響を及ぼす。中国内の巨大な市場に閉じたサービスだからこそ機能しているのだ。
アリババのサービスは中国に住む人民の便利な生活を支えている。
前述するような、ビジネス面での合理主義がある一方で、「生活者の行動合理性」も重視していることがわかった。
そのアプローチは、「Before→Afterを提示」し、Beforeに戻れない利便性を提供する。生活者の無駄な行動を次々と無くしていくのだ。
その結果、物理的なリソースも、時間的なリソースも、最適化されていくのだ。
実際、サービスの中には「雑な品質のもの」もあるが、その一方で、「まずは提供することが重要」で、「それが無ければ新しい便利な環境は構築されない」のだ。
この考え方が続く限り、中国では生活者の行動合理性が確認できる、新サービスがこれからも数多く生まれてくるだろう。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。