4. 日本の製造業はエンジニアリングチェーンを強化するべき
では、日本企業はどうしたよいのだろうか? 中野氏は、「GAFAのように日本企業が今から垂直統合を目指すわけにもいかない。そこで、『Connected Industries』が重要になってくるのだ」と述べる。「Connected Industriesとは、共通のプラットフォームを活用し、社内がつながり、さらには企業間が連携していくビジネスモデルだ」(中野氏)。
経産省の調査では、信頼関係のあるコミュニティ基盤がある上でデジタル化を進めた団体の方がうまくいく傾向にあることがわかっているという。「信頼関係のない企業間での連携は難しい。そのため、これからは産業ごとの系列は解体されるのではなく、強化される方向に進む可能性がある」(中野氏)。

また、製造業においては「エンジニアリングチェーン」が重要だと中野氏は指摘する。「エンジニアリングチェーンを強化しないと、ダイナミック・ケイパビリティの高い製造はできない。特に重要なのが製品設計と工程設計だ。ここが弱いと、いくらデータでつないでも効果が出ない」(中野氏)
また、中野氏は日本の製造業が目指すべき姿について、「ドイツの製造業は設計部門が強いという話を聞いている。設計からこまかい設計書を生産部門に渡し、トップダウンで製造する。そうした考え方から生まれたのが『インダストリー4.0』だ。日本が同じことをしてもうまくいかないのではないか。日本はかつて設計・生産・販売が一体となって設計を詰めていく時代があったはずだ。しかし昨今はグローバル化の影響もあり、設計と生産が分断されている。今こそ一体となってアジャイル型で進めていくことで、日本の製造業の良さが出させるはずだ」と述べる。
最後に中野氏はダイナミック・ケイパビリティの高い製造業の姿について、「野球」を例にして次のように説明し、講演を締めた。
「ピッチャーの球種が豊富だと、球筋を予測するのが大変だ。ストレートだと思ってもフォークボールが飛んできたりする。これがつまり、不確実性の高い状況だ。ところが、イチローのように『ダイナミック・ケイパビリティ』の高いバッターは予測が外れても胸元までボールを引きつけた上で球種を見極め、高速スイングとバットコントロールでヒットにしてしまう。平凡なバッターは『早い段階から詳細設計を詰めてしまう』ために、予測と違う球種が来ると対応できないのだ。――つまり、企業は『ダイナミック・ケイパビリティ』を最大限まで高めること、そして、いったん決断したなら迅速に動くスピードが重要だ」(中野氏)

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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。