ダイナミックプライシングとは、変動制価格設定のことを言う。Uberが海外で行っているタクシーの利用におけるダイナミックプライシングが未来、日本のタクシーにも導入される動きが出てきている。
具体的にタクシーの利用におけるダイナミックプライシングとは、その場その時の需要と供給によるデータをもとに、料金をリアルタイムに自動計算、需給の状況に応じてタクシーの利用が常に最大限されるよう料金が変動する仕組みだ。
ダイナミックプライシングによって、消費者が支払う金額は、今いるエリアにおいて、空車がたくさんがある時は、安くタクシーに乗ることができ、逆に空車が少ないときは料金が上がることになる。
ダイナミックプライシングのふたつの効果
Uber Japan 株式会社 モビリティ事業 ゼネラルマネージャー 山中 志郎氏によると、ダイナミックプライシングには大きく二つの効果があるという。
ひとつめは「需給バランスの改善」で、ふたつめは「オフピーク時の実車率の向上」である。

需給バランスの改善
ダイナミックプライシングが実現されると、あるエリアに空車が少ないとき、つまりはタクシーを捕まえにくい状況にある場合、そのエリアでは通常料金よりも高いサージ(割増率)が設定される。

ダイナミックプライシングが実現されたスマホアプリをタクシードライバーが持っている場合、タクシードライバーは上のスライドのように、「今どのエリアが高い料金設定になっているのか」を、リアルタイムに知ることができる。
その結果、より高い運賃で乗客を獲得するために、自然とそのエリアにタクシーが集まることとなる。
タクシーが集まることで、もとのタクシー需要に対して、供給が満たされることになる。そして、徐々に需給バランスがとられることとなり、サージ(割増率)が通常料金に向かって下がっていくことになる。
つまり、一時的に需要が上がっても、サージが変動することで需給バランスが改善し、利用者が乗りたいときに乗りやすくなる、ということになるのだ。
オフピーク時の実車率の向上
日本のタクシードライバーは1日18時間勤務をすることもあるという。それだけ稼働をしないと賃金を稼ぐのが厳しいからだ。
その一方で、実際に客を乗せて走っている「実車率」は平均35%ほどとなっている。つまり残りの65%は客を乗せていない状態、空車で走っているのが実態なのだ。
山中氏によると、ダイナミックプライシングを導入することで、この残りの65%を減らし、実車を増やす効果が見込めるという。
運賃の割引率を変えた場合の影響
タクシーの利用を増やす可能性のある手段としては、「割引」が考えられる。しかし、割引をしてまで乗客を増やしても、最終的な売り上げとして損するのではないかと考えるドライバーもいる。
そこで、Uberでは、割引を行った場合、乗車回数や売り上げにどういう変化が起きるのかについて実際に実験を行ったということだ。
運賃の割引
実験の一つ目は、運賃の割引についてだ。uberが2020年11月から12月にかけて行った実証実験が紹介された。

具体的には、広島において、約38,000人の乗客に対して20%の割引を適用する組と、しない組で利用実体の比較を行ったのだという。
その結果、「20%の割引」を適用したグループでは「乗車回数は36%」「乗車距離は5%」「利用総額は15%」それぞれ増加するという結果になったということだ。
料金が下がったことによって、普段利用しないしない層が利用することとなったり、普段よりも遠い行き先までタクシーを利用して移動するという結果となった。
運賃の割引率による利用状況の変化
さらに、割引率が変わることによって、どのような効果の差が出るのかについても実証実験を行ったのだという。

上記は、2021年2月から約2か月間、名古屋において、22,000人に対して、割引率を0%、10%、20%、40%と4つのグループに分けて適用する実証実験を行った結果だ。
「割引率を10%」にした場合、「乗車回数が25%」「乗車距離が2%」「売上が14%」と、利用総額を増加させる結果となった。
さらに、「割引率を40%」にした場合、「乗車回数は117%」「乗車距離は12%」「利用総額は46%増」という結果になったのだという。
山中氏は、「この実験から、ダイナミックプライシングを導入し、オフピーク時にいまのタクシーの基本料金よりも割引きをしたとしても、需要を喚起して売り上げ増が見込める可能性があることを示した」と述べた。
ダイナミックプライシングに必要な制度設計とは
国土交通省では、日本にダイナミックプライシングを導入した場合どのような制度設計をするべきか検討を進めており、それに対しUber Japanとしても意見書をまとめるなど、日本のタクシーにおける効果的なダイナミックプライシングの実現に向けて働きかけているという。

Uber Japan 株式会社 政府渉外・公共政策部長 西村 健吾氏によると、実効性が貧しい「Fake」の制度設計とならず、実効性を高める「Real」なダイナミックプライシングを実現するためには2つの課題があると指摘した。
ダイナミックプライシングの変動幅
ひとつめは、ダイナミックプライシングの変動幅に関してだ。国土交通省では、現在20%の割増、10%の割引といった幅で検討が進んでいるという。
「利用者に混乱を招く」という懸念から、「まずは小さな上限率の設定しよう」と考えるわけだが、小さな割引率を設定した場合、ダイナミックプライシングの働く効果が限定的になってしまう可能性がある。
実際、「ふり幅が大きいほどダイナミックプライシングの効果が出る」、ということが、ニューヨークをはじめ多くの都市で実証されているとのことだ。
ダイナミックプライシング実現に向けてのタイムライン
ふたつめは、ダイナミックプライシングの実現取組みに向けてのタイムラインについてである。
国交省では2021年度内にダイナミックプライシングの実証実験、2022年度に本格実証、2022年4月以降に導入を計画しているとのことだ。
そこから、ダイナミックプライシングの効果を最大限発揮できる幅の調整がされていくとなると、有効なダイナミックプライシングの実現は2023年以降なってしまう。

そこで、西村氏は、「長年にわたりタクシー産業が低迷していっている中、一刻も早く効果的なダイナミックプライシングの実現をしなければならない」との考えを述べた。
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1975年生まれ。株式会社アールジーン 取締役 / チーフコンサルタント。おサイフケータイの登場より数々のおサイフケータイのサービスの立ち上げに携わる。2005年に株式会社アールジーンを創業後は、AIを活用した医療関連サービス、BtoBtoC向け人工知能エンジン事業、事業会社のDXに関する事業立ち上げ支援やアドバイス、既存事業の業務プロセスを可視化、DXを支援するコンサルテーションを行っている。