デジタルに触れていて邪魔モノ扱いされがちなのは、広告である。しかしそれは、ユーザーに対して心地よい表示方法ではなかったり、必要のない情報が多かったりするからであることが多い。
IoT時代になり、ウェアラブルデバイスなどでパーソナルなセンシングデータがクラウドで管理されるようになった。それらのデータを活用し、さまざまな広告が広がっていくのは時間の問題だが、今回取材した広告配信会社のGlassViewは、ユーザーエクスペリエンスを最優先に考えた広告配信を追求したいという。
詳細を、GlassView Japan 副代表 岩本 香織氏に伺った。(聞き手:IoTNEWS 小泉耕二)
-GlassViewについて教えてください。
GlassViewはニューヨークからスタートし、2015年に日本で立ち上げたスタートアップです。われわれ日本法人の機能としてはセールスマーケティングです。ニューヨーク本社にある最新のアドテクノロジーを日本の広告にいかに生かしていけるのか、という活動をしています。
まだ2年ほどの若い会社なのですが、すでにグローバルに拠点が広がり、約100ヶ国を横断しプレミアムメディアとターゲティング技術を活用させていただきながら広告配信をしています。
CEOのブルックスがGlassViewを立ち上げた背景としては、彼がもともとコンデナストや、大手の出版社、デジタルメディアで、ブランドのさまざまな広告運用を担当している中で、「広告主にとって大事な広告が、正しい場所に配信されていないのではないか?」、と問題意識を持ったことにあります。
そういった中で、透明性が高くかつ精度が高い広告配信、見たい人が見たいタイミングで見ることができる広告配信のフォーマットは何なのかということを突き詰めて、GlassViewを立ち上げました。
社名のとおり、われわれはブランドセーフティです。広告主にとって安心な環境で、最大限効率的に出すことができ、ブランドリフトにつなげていけるような広告配信をし、守りと攻め両方を実現します。
-具体的にはどのような特徴があるのでしょうか。
まず取り扱っているのは、プレミアムメディアです。ターゲティングの仕方が特徴的でして、本当にターゲットに合ったメディアだけではなくて、そのメディアの中でも例えばThe New York Timesにはライフスタイル欄、もしくはトラベル欄というように、さらに深いセクションがありますが、そういうところまでが深く入り込んだリアルタイムの最適化運用を行っています。

-例えばThe New York Timesウェブサイトの、ライフスタイルカテゴリだけに配信していくということでしょうか?
どこにユーザーがいるのか、なのです。最初は仮説ベースですが、大きく網を張って、徐々に最適化しながら、お魚がいるスポットを見つけていく。リアルタイムでモニタリングしながらのも最適運用です。例えば弊社が行ったB2Bのキャンペーンで、IT意思決定者にITソリューションの広告を届けたいというときに、最初はニュース、ビジネスメディアでスタートしたのですが、結果的に一番ささったのが食べログのようなレビューサイト「Yelp」だったのです。
しかも、時間帯がランチタイム前後でした。意思決定者がちょっとリラックスしている状態の時に広告が見られやすいというインサイトが見つかりました。このように、事前に抑えた枠に広告配信するのではなく、リアルタイムで運用してターゲットがいる場所に届ける、最適化をしていくのが特徴的です。
-広告主ごとにオペレーションされているのでしょうか。
はい、結構オーダーメイドです。手間はすごくかかりますが、安心安全に提供するためには常に誰かが見張ってないといけません。自動化には限界がありますので、人の目でダブルチェックするヒューマンパワーをすごく使っています。
-IoTデバイスにも広告が出せるようになったそうですね。
はい。広告の変遷はいわゆる紙媒体から、テレビCMなど時代に合わせて変わってきています。そして、インターネットが普及してPC・スマホというように、どんどんインターフェースが増えていく中で、デジタルメディアが盛り上がってきています。
デジタルの世界は日進月歩で、今日新しい技術が明日は古くなっているという業界なので5年10年先を見たときに、広告の次のインターフェースはなんだろうと考えています。デバイスありきではなく、あくまで消費者の行動を予測していったときに、携帯を見ない、テレビを見ない、PCを見ない余白の時間帯というのは何をしているのか。
それがウェアラブルやIoT家電などのように、もっとパーソナルで生活に密着したデバイスが今後インターフェースとして普及していくと思っています。
マーケティングは消費者の行動に紐づくものなので、そういったIoTのデバイスが普及したときに広告はどうしていくべきなのか、という問題意識でGlassViewは、IoTやウェアラブルでの広告の可能性を模索し始めました。
実証実験段階ですが、アメリカのペンシルベニア大学のウォートンというビジネススクールの「Future of Advertising Program」というプログラムの一環として今、パートナーとして一緒にやらせてもらっています。
5年、10年、20年先の広告がどのように変遷してくのか、という学術的な観点から、われわれが実際のデータを収集するサポートをして、さまざまなキャンペーンでIoTデバイスや、ウェアラブルに広告を配信しながら、データを蓄積してインサイトを見ています。
-どういった実証実験なのでしょうか?
まだ本当に実証実験段階ですが、オンラインで行っている通常の広告配信と同じ指標で、IoTやウェアラブルデバイスにも配信をして効果検証を行っています。まだサービス化していないので、課金はしていません。広告主に「もし興味があれば試してみませんか」と伝えると、新しい技術に対して関心度の高いブランド各社はぜひ、とおっしゃってくれます。イメージ動画をお見せしますね。
https://youtu.be/ob8-WT1LfJc
実際に今、配信してみてわかったことは、そもそもスマートウォッチなどを使う人たちがアーリーアダプターという前提はありますが、30代から40代の比較的裕福な男性で、テクノロジーに関する関心が高く、ライフスタイルもアクティブな方が多いということです。
あとは、SNSで複数のアカウントを所有し、インターネットに接続している時間が長く、デバイスを多数持ちしている傾向があるようです。朝の通勤時間と夜のフィットネスやランニングの時間が見られやすい時間帯となっています。
-ランニングしている時は暇ですし、フィットネスをした後なら見る可能性は高いですね。
「今何時だろう?」とスマートウォッチを見るときは、目的を持って見るので、視認性はもちろん、集中力が高まりやすいと感じています。
PCや携帯を操作できない隙間時間は一つ注目しているポイントでもあります。本当に全てが自動化されてしまうと、スマホやPCを操作する時間ができ、例えば車のモニターをずっと見ている、ということがなくなると思いますが、今の段階ですと、運転中、スマホを見られない隙間の時間として車の可能性は高いと感じています、
-さまざまな可能性がありますね。
メインはウェアラブルになります。自動車メーカー、メディカルファッションブランドもそうなのですが、多岐な業界にわたって配信をさせてもらっています。
その中で、非常に反応が良かったのはメディカルです。最初はアーリーアダプターとして、ファッション業界が飛びつくのかなとは思っていたのですが、結果的にはメディカルでした。
実際にウェアラブルで配信したときと、PCで配信したときにどれだけ行動変容があったかを調べたときに、自動車メーカーに関しては490%のブランドリフトが見られました。
追いかけられていると割とネガティブなイメージを持たれがちですが、意外とブランドリフトという意味ではポジティブな結果が出ていますので、これから徐々に開始していくことにもなると思います。
-マスメディアがこんなに多様になってくると、広告する側も大変ですね。テレビ1本やれてよかった時代が懐かしいです。さまざまなところがメディアにどんどんなってくるということですね。
ガラスのドアでさえもメディアになる可能性がありますし、すでに鏡などで人体の計測ができたりします。今まではオンライン上で行動を追い、インタレストやコンテクスチュアルなどでターゲティングをしてきました。
しかし今後はさらにパーソナルな、それこそ生体生態データや日々の行動、どこを通って、どこで買い物して、何時に通勤して、フィットネスをして心拍数がどうなったなど、そういったサイエンスに基づいたターゲティングができるようになるというのが、一番大きいのかなと思っています。
-これはGlassViewアプリなどが入っているのでしょうか。
はい。例えばShazamなどのコンテンツディスカバリーのアプリを立ち上げたときに表示がされるようになっています。
-アプリの中に御社のプラグインみたいものが入っていて、立ち上げたら再生されるというものですか。
そうですね。考え方はオンラインメディアと全く一緒で、媒体側が握っている在庫ベースになりますので、それがウェアラブルになるとアプリケーションがメインになります。

-なるほど。ログインさえしていてくれれば、パーソナルなコンテンツも出せるということですね。私はずっとFitbitを付けているので、睡眠が少ないというデータがわかっている私には、昼寝する場所の情報を提供したり、マッサージ屋さんを紹介してくれたりするということですよね?
そうですね。追いかけ回すより、健康状態など、本当に必要なものだけを必要なタイミングで届けてあげることが大事なのかなと思っています。顧客のデータ、消費者のデータを収集してどう使うのか。追いかけ回すのではなくて、有益な情報を提供できていけば、可能性あるかなと感じています。
-追いかけ回す広告が多いですよね、それはうざいなと思ってしまいます。
それが最初の反応ですよね。「オンライン上で結構うざったい、もう見たくない」と思っているのにさらにスマートウォッチなどでも、追いかけられると、最初、私もそういう反応になりました。
でも実証実験を重ねていくうちに、「あ、そういうことではないんだな」と感じていますので、広告主のネガティブなイメージ(先入観)をいかに払拭していけるのかが重要です。そのためにもしっかりデータを集めて、効果検証を行い、インサイトを分析することが今の段階では必要です。
-インスタグラムの広告などでは料理している動画広告を、ひたすら眺めている人が結構います。広告なのに一生懸命見ちゃうのは、広告業界の人にとってはうれしい話だと思いますが、そういうのが実際実現できているわけですから、やりようによってはこういうのも面白くなるということですよね。
そう思います。広告として見られない広告を。つまり、広告をいかに有益な情報やエンターテインメントとして価値のある情報に上げていくかはすごく大事です。
-われわれのIoTNEWSは仕事で読んでいる方が大半です。でも会社で机に向かっているときだけが情報収集のタイミングではないので、そこをどうしたらいいかと考えています。今まではソーシャルメディアだと言われていましたが、疲れてくるとSNSを見なくなる人もいます。IoTNEWSの情報に接触したいな、と思っていただけるのがベストですよね。最後になりますが、今後の展望を教えてください。
まだ、媒体側のインフラ整備、在庫をどういうふうに確保していくのか、法整備の問題、消費者側のデータ提供の問題などクリアしないといけない問題はたくさんあります。
しかし、われわれが今いち早くIoTでの広告配信の実証実験を始めているので、いざIoTが世の中のメインストリームになったときに、慌てずに「もういろいろな課題をクリアし、プラットフォームはできていますよ」という状況が一番理想的なのかなと思っています。
今インサイトを集めて分析している状況ではありますが、インサイトに基づいた新しいかたちのターゲティングが、手法として確立していけるといいなと感じています。
何より、IoTやウェアラブルデバイスでの広告配信は、ユーザーエクスペリエンスを最優先し、広告主のブランドメッセージを進化させ、ターゲットオーディエンスと価値のあるコミュニケーションを構築していくための革新でなければならないと私たちは考えます。
-本日はありがとうございました。
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