毎年台湾でひらかれている、コンピュータの展示会、COMPUTEX Taipeiに今年もいってきた。
この展示会、もともとはパソコン花やかかりし頃に、製造拠点としての台湾でPC関係の製造委託をしたいメーカーがたくさん訪れていた。
時が経ち、パソコンも一般化し、スマートフォンの時代となったが、これも一般化してきている。
昨年のCOMPUTEXは、テーマ性がなく行きづまり感すら感じられた。

しかし、「COMPUTEXでの展示が増えると、北米などの製造拠点を持たない企業からの発注が増えている証拠」という見方があるくらい世界のコンピュータ事情に左右される。例えば、スマートホームの展示が多ければ世界の製造がそこに向かっている、スマートフォンの展示が減ればあまり将来性を感じなくなってきている、といった感じだ。
そういう目でこの展示会を見ると、今年は、「コンピュータ業界全体が分化し、それぞれの専門性を求める」展示となっていた。
GIGABYTEの展示に見る、PC産業の転換

例えば、もともと、パソコンのマザーボードやグラフィックボードの製造で業界内の地位を確保している、GIGABYTEのブースを紹介する。
昨年までであれば、入り口のところで大きなゲームの展示がされていた。今年も奥には展示がされていたが、例えばレーシングゲームの展示などがこれにあたる。
高速に美しいグラフィックを描画する必要のある、レーシングゲームの展示は、コンピュータの処理能力の高さを誇るものだ。
ところが、今年は入り口にはサーバ製品群が展示されていた。
しかも、一番入り口に近い場所には、AIによる学習が可能なサーバが展示されていて、文字認識の精度と処理スピードについて解説されていた。
ゲーム用のパソコンはというと、奥まった部屋に格納され、これまでより小規模になっていた。
実は、この傾向は、GIGABYTEに限らない。昨年より、パソコンの展示会であるにもかかわらず、サーバ関連の展示が登場し始めていたが、今年は顕著にサーバ関連の展示が増えていた。記憶デバイスに東芝のロゴが踊っていたり、GPUにNVIDIAやIntelのロゴが付いていたりという状況だ。
一方、ゲーム用のパソコンはというと、特にこれといった傾向はないが、多くのコンピュータにNVIDAのロゴが入っていた。
現在、オリンピック種目としても注目を集める、「eスポーツ」と呼ばれる、ネット対応ゲームでの試合が盛んだが、こういったゲームに使われるPCはかなり高性能だ。今後は、通常オフィスで使うようないわゆるパソコンと、eスポーツなどでも使うような高速グラフィック処理が可能なPCの住み分けが一層進むと考えられる。
スマートプロダクトの行方
COMPUTEXには数年前から、Smartechというエリアがある。これは、スマートテクノロジーの略なので、いわゆるスマート家電などが多く展示されているエリアだ。
昨年までの傾向はというと、スマートホームのデバイスやクラウドサービスの展示が目立っていたが、今年は洗練されたスマートホームのソリューションが幾つかあったが、昨年までほどではなかった。(というか、展示数自体減っているように感じた)
スマートプラグや、スマートライトなどのスマート家電の展示がなくなり、それらを統合するIoTプラットフォームの展示もほとんどなくなっていた。
これは、技術ありきでできたスマートホームが、結局市場に受け入れられずに、一旦縮小してしまったのではないかと感じられた。
実際、様々なスマート家電が登場するものの、定着していたり、爆発的に利用されていたりするプロダクトを見かけない。
技術は出揃ったところなので、消費者インサイトのある企業やマーケターが、今後は消費者に本当に望まれているスマートホームやスマートプロダクトとはなんなのか?ということを市場に問いかけることとなるだろう。
コモディティ化からの脱却を図るスマートフォン
すでに、Huaweiなどが高度な画像認識技術を使ったスマートフォンをリリースしているが、今回、ASUSがZenFone 5で画像認識技術を取り入れたカメラを搭載したスマートフォンを展示していた。
このカメラは、被写体が犬であれば、犬ということを認識し、猫であれば猫を認識する。
これまで、人を綺麗に撮影するために、顔を認識して必要な処理をリアルタイムに加えていくという加工を行っているスマートフォンメーカーが多かったが、これをもっと多くのものに採用していくことになるということだ。
ASUSによると、識別できるのは、「人」「たべもの」「猫」「日の入り」「空」「海」「花」「樹木」「犬」「グリーンフィールド」「雪」「夜景」「ステージ」「テキスト」「QRコード」があるのだという。これらを識別して自動的に美しく撮影するのだ。
今、プロダクトIoTにおいて、本当にやるべきことはなになのか?
最後に、スタートアップのあつまるInnoVEXと呼ばれるエリアに行くと、色々な国のプロダクトが展示されていた。
どのプロダクトを見ても使われている要素技術は、画像認識であったり、位置情報であったり、音声認識であったりと近視感のあるものばかりだ。
しかし、こういった要素技術をいかにうまくまとめて製品レベルまで持っていくか、そこに「おもしろい」で終わらない、どういった消費者ニーズがあるのかを明確にしていくということが今後必須になっていくだろう。
例えば、Kickstarterで話題になっていた、Oriiの展示を取材したが、実際に使ってみるととても聴きやすかった。
Oriiは、指輪型のデバイスで、例えば電話がかかると指輪が振動する。そして、着信処理をボタン操作で行い、指輪をつけている指を耳の耳珠と呼ばれる部分に強く当てると耳に声が聞こえるのだ。しかもかなり鮮明に聞こえるのもよい。

実際に使ってみたオーディエンスからは驚きの声が上がっていた。
現在でも公開されている、Indigogoのページを見てみると、初期型からの変遷が掲載されている。初期型のでは今のと比べ物にならないくらい大きく使い勝手も悪そうだ。
しかし、技術が進歩して、音声認識技術や小型のBLEチップなどを複合的に利用することで現在のOriiが実現できている。
技術はそれ単体で進んでいるが、今後はその要素技術をどういう風に料理していくのか、そこが重要になるのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。