IoTプロダクトやWEBサービスを繋げることができるYahoo! JAPANのIoTサービス、「myThings」。
なぜYahoo! JAPANがIoTサービスをはじめたのか、スマートデバイス推進本部 アプリ開発室 本部長 椎野さんと、サービスマネージャーの衣川さんにお話を伺った。

-myThingsはどういうサービスなのでしょうか?
椎野さん(以下、椎野) 「組み合わせて課題解決する」というコンセプトではじめました。基本的にこれまではIoT機器は、ユーザーに受け入れられるのは垂直型のサービスが多かったと思います。「あるデバイスAを使ったら、デバイスAでできることができる」という、あたりまえの話なのですけが、myThingsはそれをデバイスA,Bや、ウェブサービスA,B,Cと、横に繋げた時に、「繋げたから得られる価値」にフォーカスしている、というのがサービスの骨子であるといえます。
-myThingsは、IoTサービスを横につなげていくわけですね。
椎野 そうですね、横だったり、縦だったりですね。繋がって生み出せる新しい価値というのをユーザーさんに提供していきたいと思います。

-なぜmyThingsを作ろうと思われたんですか?
衣川さん(以下、衣川) かつて椎野がいた部署は、様々な領域の新規事業をどんどん立ち上げて、チャレンジしてダメだったら撤退、進みそうだったら全力投入ということをやっていました。
昨年の10月頃、そのひとつにスマートホームという軸があり、私たちのチームで何かできないかなという話をしていたときに、「様々なIoT機器やサービスを組みあわせて、便利なシステムを作れないかな」というアイディアが出たのがはじまりです。
また、当時社内でもいくつか、同じようなことをやろうとしていた人たちが同時にいることが判明して、みんなと話をしたところ、目指している方向が一緒だったので、「じゃあ一緒にやりましょう」という話になり、myThingsのプロジェクトが立ち上がりました。

-Yahoo! JAPANさんの社内では、そういうことが許されているのですね。
椎野 そうですね、水面下で動いている感じです。みんな世の中の動きをわかっているので、そういうことをやっていかなければいけないという意識が醸成されていたのだと思います。
昨年はまだ、「IoTってどうなるんだっけ?」という空気が、弊社や、ほかの会社さん、ユーザーさんにも流れていて、「何か新しいものがくるかもしれない」という漠然としたイメージしかなかったと思います。そして、今年になって、様々な会社さんがIoT製品やサービスを発表し、「これは何かくるぞ!」という雰囲気が高まってきました。
我々はもともとバックエンドサービス、BaaS(Backend as a Service)という形で、「Yahoo! JAPANもIoTの世界に参入します」と去年の12月に発表したのですが、Yahoo! JAPANがモノづくりをするというのは、もともとYahoo! JAPANの強みであるエンドユーザーに届けられる、というところに対してはちょっと遠いよね、という議論になりました。
さらに似たようなエリアで強力なプレーヤーが出現していたこともあり、Yahoo! JAPANの強みであるエンドユーザーへフォーカスしていきましょうと。つまり、一般のユーザーにどうやったらIoTの世界観を伝えられるか?というところを考えた末にできたのが、myThingsです。
-必然的な流れですね。
椎野 早かれ遅かれ、そこに到達するであろうというところを、前倒しで対応しました。我々Yahoo! JAPANは、日本の「課題解決エンジン」としての自負があるので、そこを解決するには、「単純にIoT製品作りました」というだけだと、どうしてもごく一部の課題解決しかできないと思ったのです。
もっと広い課題解決をしようと思った場合に、我々だけではなくて色々な会社さんや個人の方、多くの方々に繋げてもらって、全員で解決していこうと考えました。またマーケットの下地をしっかり作っていくことも、我々としてはやらなければいけないと思っています。

-作っていく過程でご苦労されたところもあったと思うのですが、教えていただけますか?
衣川 Yahoo! JAPANは元々PCブラウザ、今はスマホに主軸を置いていますが、基本的にはインターネットサービスの会社なので、物理的な「モノ」を扱ってきた経験はないのです。今回、社内的なルールだとか、データの取り扱いひとつにしても全てが初体験。今まで社内的にやってきたことがないことしかなかったので、新しいルールを関係各所と調整し、新しく決め直すというところが大変でした。
椎野 インターネットサービス、コンテンツを中心に20年やってきたので、ハードと連携してサービスを生み出すという知見が会社にほぼなく、セキュリティについても厳しいポリシーを設けてますので、振り返れば大変でした。
-実際に技術的に難しいところはありましたか?
椎野 IoTならではのというところですと、機器との接続であったり、アプリと通信の仕方、コネクションの貼り方が違ったりするので、そこはチャレンジしたところはあったと思います。
-Machine(モノ)と myThingsの接続口はどのようになっていますか?
椎野 今のところでは、という意味なのですが、各メーカーさんの機器にバックエンドのサーバを持っていただくという前提があって、そのサーバとmyThingsが通信しインタラクティブ性を実現しているという状況です。
理由としてはmyThings縛りでメーカーさんにお願いするのはかなり恐縮してしまいますし、その会社さんのチャンスというのも色々なところにあると思いますので、そこは我々だけではなくて色々な使い方できればいいなと思っています。
-今後はモノと直接接続することは考えられていますか?
椎野 検討の範囲という感じです。我々まだ生まれたばかりの小鹿の状態なので、まだどういう形で展開していくのか、見ていかなければいけないことが多いので、展開次第では直接接続についても視野に入ってくると考えています。
-例えば、IoTのデバイスを作っている会社さんなどが、アプリまで全て作れるわけではないので、スマホの操作画面ひとつとっても、myThingsのようなサービスが間にあるのはいいと思います。
椎野 今は、いわゆるサーバープログラムの知識がある、IoT機器を作っている会社さんと組んでいますが、おっしゃるとおり、ハードウェアを扱っている会社さんやスタートアップの会社さんなどは、自前で作っていくのは難しいというのは想定しうるので、そこはやっぱり検討していかなければいけないのかなと思います。
-そこは、これからだということですね。例えば、Yahoo! JAPANが、モノの開発メーカーにモジュールを提供して、モノの中に入っていくとよいのではないかと考えます。そういう意味で、今後、モジュールレベルでの提供の構想はありますか?
椎野 プロジェクトのコンセプトで「Connect Everything」というのがあるのですが、その名のとおり、全部繋げていきたいというのはあります。今は、最短で価値を提供できるというところを押さえていくのが優先です。
-myThingsはIFTTTと機能が似ているところがあると思います。彼らは日本のサービスと繋がっていないので、日本人からするとmyThingsの方がいいと思うのですが、サービスが似ているので、何か特徴を出していくということも考えられていらっしゃいますか?
椎野 myThingsは、組み合わせた時に生み出せる価値、というところにフォーカスをしています。日常の色んなシーンで課題があると思うのですけど、その課題に対してこういう組み合わせであれば解決できますよ、という文脈をわかりやすく見せてサービス展開しており、ユーザーが利用する敷居を下げています。
また、スマートシティ、スマートレストランなど、リアルな世界と融合していくというところに対して、我々が今後価値を打ち出せるのではないかと思っています。
ーオリンピックに向けて何か検討されていることはありますか?
椎野 具体的にプランニングしているわけではないのですけども、やっぱり2020年はひとつの節目かと思うので、なにかしらそこに対して対応していきたいという気持ちはありますし、IoTはそれに最適だろうなと思っています。
衣川 myThingsはアプリとプラットフォーム展開をしていて、プラットフォーム展開の方では、様々な会社と組んで、もっと大きな課題解決をする取り組みも進んでいます。例えば先日の発表会でも挙がっていたシャープ様や親会社のソフトバンクともすでに話を進めています。さらに、今繋げられていないデータやサービス、モノを、繋げられるようにしていく施策も進めています。
-オリンピック後の2020年より先は、どのような展開を考えていらっしゃいますか?
椎野 まずはConnect Everythingを広めないといけないと思っています。まだまだ接続できるサービスが少ないので、ボリュームを増やしたいです。我々がエバンジェリストとして活動をして、少しずつ裾野を広げて、実際にデバイスが増えていく環境を推進、支援したいなと思っています。
衣川 先進国では、人がインターネットに繋がるところは飽和していると思っていて、次の革新を生むというところは人ではないモノがインターネットに繋がっていくところだと考えています。過去にHTMLのページからリンクで繋がって、相互につながりだして価値を生み出して進化していったというのがあるので、モノに関して、そこを今から辿っていくのかなと思っています。
まだ最初の一歩で、お互い繋がれていないモノ同士をこういうサービスやプラットフォームを使って、繋がり出したという状態なので、ここから先、進化、進歩が一気に進むのだと思います。まだまだ新しいものが生み出される余地がたくさんあるので、そこにYahoo! JAPANが第一歩を踏み出せたのは大きいと思い、模索しながら組み合わせて価値を見出していこうと思っています。
椎野 高齢者などスマートフォンを持ちたくても持てなかったり、使えなかったりする人たちに対して、インターネットを利用する手段としてIoTというのは非常に有効ではないかと思っています。他社さんの例になってしまいますが、Amazonさんが出しているAmazon Dashは、ボタン一つで購入できるなど、裏側でインターネットと繋がる仕組みがあることはわからなくても、実はインターネットを利活用しているという事例がふえていくのかなという期待と、日本の「課題解決エンジン」Yahoo! JAPANとしては、PCやスマホで解決できない課題をmyThingsで解決していきたいと思っています。
-本日は、ありがとうございました。
将来、様々なモノがインターネットにつながったとき、myThingsのようなサービス間連携ができるサービスが重要な位置づけになると予想される。
現在は、サーバを前提としたサービス間を連携しているということだが、将来モノに何らかのモジュールを提供することで、サーバがなくても様々なIoTサービスを連携させることにも期待がかかる。
このようなバックエンドのサービスがあることで、IoTメーカーは、「リアルな部分を作るだけ」ということでも成立するため、柔軟なサービス展開が可能となり、IoTの広がりは加速することとなるだろう。
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