社会インフラである物流を担うヤマトホールディングスは、次の100年を見据えた経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を2020年1月に策定した。そして、2021年4月にヤマト運輸と主要グループ会社7社を統合し、新たな組織体制をスタートさせた。
そこで本稿では、「YAMATO NEXT100」でどのような未来を実現しようとしているのか、また、その実現に向けて必要なデジタル技術や人材などについて、ヤマト運輸株式会社 執行役員 デジタル機能本部 デジタルデータ戦略担当 中林紀彦氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)
「新たな物流のエコシステム」実現へ向けた100年構想
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): まず、現在ヤマト運輸が取り組まれている「YAMATO NEXT100」の概要について教えてください。
ヤマト運輸 中林紀彦氏(以下、中林): ヤマトグループは、2019年に創業100周年を迎え、今後も持続的に成長を続ける企業であり続けるため、中長期の経営のグランドデザインが必要でした。
また、人手不足やフィジカルなネットワークの維持など、外的環境の変化や当社が抱える課題を解決する必要もありました。
そうした中、2020年1月に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を策定し、3つの大きな基本戦略を立てました。
1つ目は、経営構造の再編による「お客さま、社会のニーズに正面から向き合う経営への転換」(CX:コーポレートトランスフォーメーション)です。
2つ目は、DXの推進による「データに基づいた経営への転換」です。
3つ目は、イノベーションを起こすための「共創により物流のエコシステムを創出する経営への転換」です。
この3つの基本戦略を実行するため、3つの事業構造改革と、3つの基盤構造改革を定義しています。

経営構造改革を起点にデジタルを活用していく
小泉: こうした基本戦略や構造改革の中で、デジタルの使い所はどういった場面なのでしょうか。
中林: デジタルを基軸に物事を進めるよりは、事業構造や会社の体制を変革する中で、デジタルを活用していくというイメージです。
具体的には、これまで経験や勘に頼った宅急便のオペレーションにデジタルを新たに組み合わせ、物流オペレーションの効率化、標準化を図っています。
また、産業のEC化への対応として、送り手・購入者・運び手のニーズに応える、ECエコシステムの確立も目指しています。

ECエコシステムの構築にあたっては、データ統合・分析を行う「ヤマトデジタルプラットフォーム(YDP)」を活用し、受発注や在庫データから最適な輸送方法の解析や、セールスドライバーや車両などのモビリティに関わるデータから、お客さまへの配送通知を行うといったことを実現しようとしています。
さらに、法人向けの物流事業の強化も行っています。
これまで法人顧客に対し、各社が機能ごとにソリューション提案を行う、というスタイルだったため、お客さまが本当に求めているサービスをトータルで提供できていない課題がありました。
ワンヤマトでは、グループに点在する経営資源を結集し、お客さまの立場に立ったトータルなソリューションをご提供できる体制を整えました。

ここでも、各事業会社の仕組みを統合するために、YDPを活用して、様々なデータを分析・活用しています。
そして、こうした事業構造改革を支えるために3つの基盤構造改革を打ち立てています。
1つ目が、「経営体制の刷新」です。2021年4月にヤマト運輸と主要グループ会社7社を統合し、グループの経営資源を結集した「ワンヤマト」として新たな組織に生まれ変わりました。
新しいヤマト運輸が主体となり、先ほどご紹介した事業構造改革を進めています。
そして2つ目が「データ・ドリブン経営への転換」です。
ここでは、優先順位が高い5つのデータ戦略を定義しています。

例えば、全国に約3700拠点、約6500センターごとの人員や車両の手配は、1〜2ヶ月前に準備する必要があります。そこで、3ヶ月ほど先の荷物量の予測をセンターごとに行い、その予測結果に基づきリソースの計画を立てています。
3つ目は、今後外せない「サステナビリティへの取り組み」を、データを活用しながら実現していきます。
このように、構造改革を行うにあたり、至る所にデジタル化やデータ活用という要素が関係しています。
全社員のデジタル知識を底上げする教育プログラム
小泉: デジタルプラットフォームにとどまらず、様々なポイントでデジタル技術が入り込んでいるのですね。そうした中で、必要な「デジタル人材」はどのような人材なのでしょうか。
中林: デジタル人材に関しては、内部の教育と、外部からの採用という2軸で進めています。
まず内部の教育では、部門ごとに必要な知識を習得し、全社員がデジタルに強くなってもらいたいと考えています。
そこで、デジタル人材を育成する学校というコンセプトで、「Yamato Digital Academy」(以下、YDA)という教育プログラムを2021年4月から本格的にスタートしました。
ここでは、社員を大きく4つのカテゴリーに分けて教育していきます。
1つ目が「経営層」、2つ目が複数ある各本部のリーダー層である「本部」、3つ目が本部の中でも、デジタル機能本部のスペシャリティ人材「デジタル機能本部(デジタル人材)」、4つ目がエリアマネージャーや主管支店スタッフといった「現場社員」です。

この4カテゴリーに向けた教育プログラムを展開しています。
小泉: 具体的にはどのようなことを学ぶのでしょうか。
中林: 経営層には、国内外での事例やテクノロジー、ビジネスのトレンドなど、経営に活かすことのできる基礎知識を学んでもらいます。
また、デジタル技術や仕組みが理解されず、ブラックボックス化することにより、経営のスピードにデジタルがついて行かなくなる、といったことを防ぐため、技術的な知識も分かりやすい表現で理解を深めてもらいます。
例えば、システムのアーキテクチャに関して、都市設計になぞらえて説明し、学んでもらう、といった取り組みです。

さらに、人事戦略を行うにあたってのデジタル人材への理解や、その価値をより深く理解できるプログラムなどを行っています。
本部には、ロジカルシンキングやデザインシンキングといった思考法を学び、アナリティクスといったデータ活用の知識を身に付けてもらいます。そして、プレゼンテーションやファシリテーションといったアウトプットの知識も学んでもらいます。

そして基礎知識を学んだら、本部の課題を解決するためにはどうすればいいのかテーマ設定してもらい、実際のデータ活用、アウトプットまでを行う実践的なグループワークを行ってもらいます。
デジタル機能本部(デジタル人材)には、各スペシャリティに応じて学ぶ内容は変わるのですが、データサイエンスの基礎やアーキテクチャデザイン、サービス開発をするためのアジャイル開発の知識などを学んでもらいます。

現場社員には、現状エクセルで行っている業務などを高度化・簡素化するために、デジタルツールの使い方などを学んでもらっています。
小泉: かなり実践的に事実上の課題を研修の中で解決していくということまでやられていて、先進的だなと感じました。
一方、様々な立場の方々に教えなければならないとなると、教える側も大変だと思うのですが、どのような体制で取り組んでいるのでしょうか。
中林: 現状は、私たちがコース全体のプロデュースやディレクションを行い、実際のコンテンツは、分野ごとに得意なパートナー企業に提供してもらいながら研修を行っています。
今後、コンテンツの質を保ちつつ、どのようにスケールさせていくかは課題のひとつですが、重要なことは、「ヤマトナイズ」したコンテンツを作り、受講者が自分ごととして捉えられる状態を作ることだと思っています。
そうすれば、パーツが密集していき、将来的には内製化を行うこともできると考えています。
外部へのブランディングを行い、採用を強化する
小泉: 次に「デジタル人材」の採用面に関しての取り組みについて教えてください。
中林: 取り組みの一つとして、優秀な人材を外部から集めるために、「Yamato Digital Transformation Project(YDX)」という、オウンドメディアを立ち上げてブランディングを行っています。
私たちの活動や、私が公で話している内容を公開しながら、各スペシャリストを募集する求人サイトに飛べるようになっています。

募集に関して気を付けていることは、ジョブ・ディスクリプションを明確にしている点です。
メンバーシップ型で広くデジタル人材を募集するのではなく、「こうした職種でこうしたスペシャリティを持った人を募集している」ということを明確に打ち出してマッチングを行っています。
小泉: ジョブ・ディスクリプションを明確に定義しようと思うと、組織の戦略や枠組みがしっかりとしていないと難しいと感じるのですが、戦略や枠組みはどのように構築されているのでしょうか。
中林: 組織の枠組みと、そこに必要な人材像をある程度明確にしています。戦略的に欲しい人材をピンポイントで採用するというよりは、ある程度幅広にして、足りない部分は外部パートナーとの連携をしながら進めています。
小泉: 内部のデジタル知識の底上げと、採用によるデジタル人材の獲得、そして外部パートナーとの連携により、デジタル人材の強化を行っているのですね。
社会課題解決へ向けた変革に挑める体制
小泉: 最後に、ヤマト運輸に応募したいと考えている方へ向けて、メッセージをお願いします。
中林: ひとつは、社会課題の解決に直結できるような仕事ができる点が当社の魅力の一つだと考えています。
インターネット系の会社は、機械学習のプラットフォームを持っていることが比較的多いですが、事業会社で持っている会社はまだ少ないと思います。
例えば、最近では需要や業務量の予測などをAIで行うため、機械学習のパイプラインを自動化しました。
基盤構造改革の「データ・ドリブン経営への転換」でお話したセンターでのデータ抽出から前処理、学習、予測、評価など、一連のプロセスを自動化しています。
このように、事業にテクノロジーを組み合わせて実装できる環境が整っています。
また、ヤマト運輸がトランスフォームしている今だからこそ、チャンスと捉えて参画してもらえたら嬉しいです。
小泉: まさに変革をしている今だからこそのタイミングなのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
ヤマト運輸ではこんな人材を募集中
2022年1月5日時点での募集要項です。詳細な最新の情報はコチラからご確認ください。
企業名
ヤマト運輸株式会社
募集職種
プロジェクトマネージャー、システム企画担当、Webサービス開発エンジニア、データサイエンティスト、データエンジニア、研究開発・R&D、データプランナー、データアーキテクト
雇用形態
正社員
各職種の募集要項
プロジェクトマネージャー
新設された「Yamato Digital Transformation Project(YDX)」での様々なシステムやITインフラの管理、運営を行う。システムの新規構築プロジェクト、基幹システム刷新のマネジメントなどを⾏う。
活かせる経験
業種問わず業務部⾨と協業し、システムを構築した経験を活かすことができる。「To-Be」を描きながら、主体的に業務に取組む必要があり、業務部⾨と積極的な議論を⾏いシステムを構築・刷新する。
必要業務経験
アプリ領域
- 業務システムの開発、または、運⽤経験
- プロジェクトマネジメント経験
インフラ領域
- インフラエンジニアとしての経験
- プロジェクトマネジメントの経験
システム企画担当
新設されたDX部門「デジタル機能本部」にて、他本部と共に新規システムの構築、基幹システム刷新などのプロジェクトでシステム企画を担当する。宅急便を中核としたビジネスの高度化、新たな価値を生むシステム構築を行う。
具体的な業務内容
- 各事業本部、機能本部で起案されるシステム化要求に対し、企画段階(超上流過程)からデジタル担当として参画し、プロジェクトを推進する
- 各部署や各業務間の調整を図りながら、プロジェクト内においてシステム要求整理を推進する
- システム要件に応じて、開発ベンダー選定とコントロール、社内決裁手続き、開発プロジェクト進捗、その他マネジメントを推進する
- 各種会議での運営、ファシリテーション
- 各種システムの管理業務
- その他社内業務、調整諸々
必要業務経験
- システム企画経験
- システム要求整理経験
求める人物像
- コミュニケーション能力の高い方
- 好奇心があり、わからないことを自ら調べに行ける方
- 業務オペレーション視点で物ごとを考えられる方
Webサービス開発エンジニア
202x年のヤマトの目指すべき姿を検討し、それを実現させるための様々な技術要素の検証と運送ビジネスを支える基幹システムのアーキテクチャについて、検討・設計・実装を繰り返し行う。検討対象はレガシーな店舗や基幹システムから、AWS/Azure/GCPといったマルチクラウドシステムとの連携、及びユーザーとのインターフェイスとなるスマートデバイスや新たに店舗に設置するIoTデバイスまで多岐にわたる。
必要業務経験
アーキテクト
- マイクロサービスをを理解されている方、推進したご経験がある方
- クラウドを使ったサービスの開発のご経験がある方
アプリ
- アプリエンジニアとしての経験
- フロントエンド(React.js)/バックエンド(Java)/モバイル(Swift/Kotlin)のいずれかのご経験
インフラ
- インフラエンジニアとしてのご経験
- Azure/AWS/GCPなどのクラウドサービスの実務利⽤経験
データサイエンティスト
ヤマトグループが保有する年間約18億個の荷物や5万台以上の⾞両といった配送データを、サイバーデータ化した場合の最適なソリューションをの提案・活⽤を行う。データアナリストまたはデータエンジニアへデータ収集を依頼し、集計したデータから宅急便システムの最適化やヤマトグループの事業や現場業務、経営判断に活⽤できる結果を提案する。(※ツール/⾔語:Python・SQL・Hadoop)
必要業務経験
ポテンシャル枠
- 統計学、機械学習等のデータサイエンス領域でのご経験、知⾒
- SQLを⽤いたデータ集計(JOINが書ける)、分析経験
ミドルコンサルタント・PM
- 統計学の基礎的な知識
- 機械学習の経験
- SQLを⽤いた集計スキル(JOINが書ける)
- Excelやパワーポイントの操作、レポーティング
シニアコンサルタント
- 統計学の基礎的な知識
- 機械学習の経験
- SQLを⽤いた集計スキル(JOINが書ける)
- Excelやパワーポイントの操作、レポーティング
データエンジニア
ヤマトグループが保有する年間約18億個の荷物や5万台以上の⾞両といった配送データを、サイバーデータとして活⽤するため、SQLやHadoopを⽤いて各種データの正規化を⾏う。
具体的な業務内容
データアナリストまたはPMO、データエンジニアからの依頼を受け、宅急便システムからデータを抽出し、正規化を⾏う。その後、加⼯されたデータはデータアナリストによって分析され、ヤマトグループの事業や現場業務、経営判断に活⽤される。(※ツール/⾔語:Python・SQL・Hadoop)
必要業務経験
- SQLを⽤いてデータベースの開発・設計、運⽤・管理などを⾏った経験
- Pyhtonなどのツールを使ったデータクレンジングの経験
研究開発/R&D(メンバー・PM)
様々な制約条件のもとで、最適な配送計画や輸配送モデルを構築するオペレーションズ・リサーチの応⽤研究(同社リソースを活⽤した仮説検証型アプローチを実施)。配送計画にかかわるアルゴリズム設計および開発を行う。
具体的な業務内容
宅急便輸送・配送オペレーションについて様々なアプローチを駆使し、モデル化・⾃動化を⾏う。⾼度オペレーション⽀援システム構築プロジェクトに携わる。
必要業務経験
- 機械学習、統計解析、数理モデルに関するいずれかの研究経験や深い理解を持った方。
データプランナー
ヤマトグループが保有する年間約18億個の荷物や5万台以上の⾞両といった配送データを、サイバーデータとして、データ利用者がスムーズに活用できるサポート・プランニングを行う。
具体的な業務内容
データ利用者からの問い合わせを受け、データに関するナレッジやデータ利用の仕方などを提供する。問い合わせの背景にある要件もヒアリングし、データ活用における最適なアプローチの提案も行う。
必要業務経験・スキル
- ビジネス上の課題を解決するための問題解決能力、論理的思考力
- SQLなどを用いたデータ集計業務の経験
データアーキテクト
ヤマトグループが保有する年間約18億個の荷物や5万台以上の⾞両といった配送データを、サイバーデータとして活用するために、必要なデータモデルも含めたデータマネジメントの整備を行う。
具体的な業務内容
データ活用する上で必要となる、データモデルやデータセキュリティなど対応項目の洗い出し、実施、及び実効性あるものにする対応を行う。
必要業務経験・スキル
ミドルアーキテクト
- データマネジメント業務の経験
- システム開発でデータモデル作成の経験
- SQLなどを用いたデータ集計業務の経験
シニアアーキテクト
- データマネジメント業務の経験
- システム開発でデータモデル作成の経験
- SQLなどを用いたデータ集計業務の経験
ヤマト運輸の人材募集ページ
https://hrmos.co/pages/yamato-digital-career/jobs
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