無人化でヒトの仕事はどうなる? Uberとコマツの事例から考える
小泉: 2年ほど前に、八子さんがセミナーでお話しされていたUberの話を思い出しました。Uberの配車サービスにおいては、どのクルマがどの場所のヒトを乗せるのかということは、すべてシステムが決めています。そこにヒトの意思決定は介在していませんね。
八子: そうです。クラウドのアルゴリズムによって、ヒトが動かされている状態です。
小泉: どちらかというと、デジタルによってヒトが動かされているというイメージに近いですよね。
八子: ええ。Uberの場合には、今後自動運転が実現すると、ドライバー自体も必要なくなります。
小泉: そうですよね。「エッジインテリジェンス」が進むと、よりいっそう、そこにヒトは介在しないということになります。これはしばしば批判の対象にもなる議論です。
ただ、私は無人化が進んだからといって、ヒトの生活がつまらないものになるわけではないと思っています。Uberのシステムが配車を勝手に決めているからと言って、現に私たちは腹が立ったりしているわけではありません。むしろ便利だと思って活用しています。
八子: そうですね。あとは、私たちが本当にやりたいコトにフォーカスできるようになると思います。自分の存在価値がなくなるわけではなく、やらなくていい作業から解放されるということだと思います。

小泉: 大きな方向性をヒトが打ち出さない限り、新しい何かのサービスは始まりません。システムや機械は所詮、最適化しているだけですから。Uberの次のサービスをUberのシステムが勝手に創り出すことはできません。
八子: コマツが開発した自動運転の建機がわかりやすい事例です。聞くところによると、その建機を使えば、入社したばかりで建機を触った経験がまったくないドライバーでも、熟練者が何年もかけて習得できるような「法面(のりめん)」(※)の技術を3日間で可能にするといいます。
そうすると、建設現場の施工の仕方が変わります。そして、究極的には「法面」をいかにうまくつくるかというではなく、施工全体を管理したり、建機がどのように動いているかを把握したり、より難易度の高い仕事に注力することができます。
そうした、ヒトの働き方をより価値のある方向に導いていくところが、コマツの場合には徹底しています。それはやはり「現場が困っている」「現場の熟練者が少なくなっている」という現実をしっかり受け止め、その結果、無人化せざるを得ないという判断が首尾一貫しているからですよね。
※切土や盛土により作られる人工的な斜面のこと
小泉: 私が聞いた話では、河川で掘削した土砂を、盛土するため建設現場に運ぶのですが、その間の道は山の一本道であるケースが多いと言います。なので、その道に土砂を積んだダンプトラックが何台も縦列してしまうと、一般のクルマが走れなくなり、迷惑になってしまうと。
そのような場合には台数を減らして運用するらしいのですが、適当なオペレーションだと、河川でダンプがずっと待機していたりして、効率がどうしても悪くなります。これを、コマツではシステムで全体最適して、「今、土を取りに行きなさい」「この道を走りなさい」「ここで待っていなさい」といった指示を自動で出せるしくみをつくっています。
八子: 現場でダンプや建機に乗っておられる方は、自分たちが最適な形で走っているであろうと思っている。しかし、全体俯瞰してみれば、必ずしもそうはなっていない。それを全体俯瞰しているクラウド、およびそのクラウドからの指示によってエッジ側、つまり自分たちが運転しているクルマや使用しているデバイスがシステムによって全体最適化されるという環境の中で、人間が快適にふるまうことができる。そうしたしくみが必要です。
小泉: 物流の「バース」(※)もそうですね。適切なオペレーションができないと、バースの前にトラックがずっと待機するという状況になってしまいます。
※物流倉庫などでトラックを停めて積卸しを行うところ
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。