気になった電動ハブラシの重さ
IoTNEWS吉田:ハブラシ製品というのは、京セラさんが今までタッチしたことがない事業領域だと思います。それが実現できた要因はどこにあるのでしょうか。
京セラ 稲垣:発端はソニーさんの新規事業開発プログラム「Sony Startup Acceleration Program」に京セラが参加したことです。上長からは去年の六月くらいに「このプログラムに参加してみないか」と声をかけられました。
そこで、自分が開発に関わっていた、圧電セラミック素子を使った振動アクチュエータを活用して、これまでに無かった音が聞こえるハブラシが出来ないかなと思い、プログラムへの参加を名乗り出ました。
ハブラシ開発を立ち上げた動機は、実は先ほどお話しした親子のコミュニケーションのために音の出るハブラシというアイデアがあったことと、その他にもう1つあります。それは重さの問題です。
プロジェクトを立ち上げた時、家で電動ハブラシを使っていたのですが、その時に「ボディが重いな」と感じたのです。そこで「京セラが持つ振動アクチュエータを使えば、従来の電動ハブラシよりも軽くて、歯にブラシを当てることで音が聞こえるハブラシを開発できるのではないか」と思いつきました。
ちょうど良いことに、私は社内で「メディカル開発センター」という部署に所属しています。つまりメディカル関連という括りで開発を提案すれば、ハブラシ開発の経験がない京セラでも、社内で認知を得やすいのではないのかと考え、ソニーさんに相談をしたところ「それならば新しい音が聞こえるハブラシでいきましょう」ということになりました。
IoTNEWS 吉田:どのくらいの重さになっているか、気になります。実物があれば、ちょっと持たせてもらっても良いですか。
京セラ 稲垣:ここに「Possi」のプロトタイプがありますので、どうぞ。(プロトタイプのハブラシを渡す)

ボディの中には電気基盤と単5電池2個だけです。最終的なデザインはプロトタイプより小さくなるので、より軽量になります。
圧電セラミック素子をハブラシに活用する
IoTNEWS 吉田:先ほど「振動アクチュエータを活用する」とおっしゃっていましたが、そもそも振動アクチュエータとは、一体どのようなものなのでしょうか。
京セラ 稲垣: 圧電セラミック素子と、素子に合わせて開発したデジタル駆動アンプを組み合わせて、小型・軽量・省電力で充分な振動パワーを得られるデバイスのことをここでは指します。
圧電セラミック素子は高反発力があり、再現性が非常に高いという特徴があります。京セラではインクジェットプリンターのプリンターヘッド(インク射出機構)に使用しておりますし、欧州では主にディーゼルエンジンの普及に大きく貢献しました。
この圧電セラミック素子は、音を伝えることもできます。京セラの開発する携帯電話にも、ガラスパネルに圧電セラミック素子を貼り付けて、パネル全体が振動して音が聞こえるといったパネル振動型のレシーバー用途で使われていました。
私は主にその圧電セラミック素子を用いた商品開発を担当していて、その応用開発としてハブラシに利用したということです。
圧電セラミック素子は非常に薄い膜で出来ており、電界方向と変位方向が垂直になるように重ねることで、電気信号を振動に変換して音が伝わるようになっているのです。
これをハブラシのヘッド部分に埋め込み、歯にブラシを当てれば音楽が聞こえるように作ったのが「Possi」です。
IoTNEWS 吉田:実際、どのように音は聞こえるのでしょうか。
京セラ 稲垣:試しに音を出してみましょう。(紙コップと「Possi」のプロトタイプを出す)
ハブラシのヘッド部分に圧電セラミック素子が組み込まれていて、ヘッドの振動がブラシを通して伝わる、というものです。
IoTNEWS 吉田:(「Possi」が触れている紙コップを耳に当て)ああ、なるほど。音が聞こえますね。骨伝導の仕組みでハブラシを当てた人にだけ、音が聞こえるというわけですね。
京セラ 稲垣:そうです。それを子ども用のハブラシの大きさに搭載できるように頑張ってくれたのがライオンさんです。京セラはコアになる電子部品を作りましたが、ハブラシとして市場に出せるレベルに仕上げることができたのは、ハブラシのリーディングカンパニーであるライオンさんの技術のおかげです。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。