【インタビュー】経産省 住田氏に訊く、ものづくり白書の課題とこれから
これまで、1章の重要なテーマをいくつかピックアップして紹介してきました(言及していないテーマも多くあります)。5月に「ものづくり白書」を公開してから反響はどうだったのか、2019年に向けてどのような課題があるのか。経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐の住田光世氏にききました。
-2018年版「ものづくり白書」の反響はどうでしょうか。
住田光世氏(以下、住田): 「4つの危機感」の反響が最も大きいです。ものづくり白書は、経営者や経団連の勉強会などでも紹介されてきましたが、その際には経営層の方から、4つの危機感のように辛口なことを言ってくれるのはいいことだ、(胸に)響いたという声をいただくことができました。
ただ一方で、非連続的な変革とは何なのか、実際にどう改革していいかわからないという声も、中小企業の方を中心に多くいただきました。「概念はわかった、変革を進めなければならないのもわかった。では、具体的にどうすればいいのか?」ここが2019年版白書の課題になってきます。具体的には、各国との比較をまじえて4つの危機感をもう一度検証し、非連続的な変革とはいうものの、世界では具体的に何が起きているのかを分析していきたいと考えています。
-ものづくり白書にはとても豊富な企業の事例が紹介されています。取材を通して見えてきた、先進的な取り組みを進める企業の特徴はありますか?
住田: 現実をしっかり見据え、危機や変化に対するセンサーが敏感な企業です。たとえ足下が好調でも、危機感を認識している企業は行動につながっていることが様々な調査の結果からわかります。
ものづくり白書においても、「ビジネス環境の変化への認識」と「足下の業績(営業利益)」との関係をみると、「大規模な変化が見込まれる」と回答している企業の方が、「変化しない」と回答している企業と比べて営業利益率が増加している傾向にあることを紹介しています(本文p.51)。幸い、足下の業績は好調で設備投資も回復していますから、経営者の方には慣性の法則で動くのではなく、自前主義を乗り越えて新しいことにチャレンジしてほしいと考えています。
-最近は品質不正の問題が深刻です。出口はガバナンスの強化と「Connected Industries」の推進による「うそのつけないしくみ」の構築ということですが、後者で品質不正の問題は解決できるものなのでしょうか?
住田: 品質不正の背景の一つに、人材不足があります。人を育てる、雇うという対策には限界があり、デジタル技術を活用し、人が介在しなくても対応できる品質管理のしくみが不可欠だと考えています。AIを用いた画像認識技術の発達はめざましいですが、「〇〇の技術を使えば、××の製品の安全は確実に保証できる」という段階まで技術レベルを上げ、しくみを整えていくことが今後の目標です。
-「第8回ものづくり日本大賞」の公募が始まりました(11月16日(金)~1月25(金))。この賞をきっかけに、2018年版の「ものづくり白書」で紹介された企業もあるようですね。
住田: そうなんです。さらに今回のものづくり日本大賞では、従来と2点、変わったことがあります。一つは、「Connected Industries-優れた連携」部門の新設です。もう一つは、各賞の評価の基準です。審査の項目は、「社会的課題の対応」「革新性」「波及効果」の3つがあり、これまでは「革新性」、次いで「社会的課題への対応」という順で、評価項目となっていました。
第8回からは、「社会的課題への対応」の比重を大きくし、最も重視することにしました。地元での少子化や品質不正の問題といった、製造業の置かれている社会的な課題に対して、技術でもって対応されている企業を評価していきたいという狙いがあります。
-2019年版の白書作成に向けて抱負をお願いします。
住田: これまで以上にデータや事例を積み上げていくとともに、今後はより多くの方に白書を手に取っていただけるよう、さまざまな工夫をしていきたいと考えています。
-どうもありがとうございました。
【関連リンク】
・2018年版ものづくり白書
・「第8回ものづくり日本大賞」
・Society 5.0(内閣府ホームページ)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。