2019年10月15日、エルピクセル株式会社(以下、LPIXEL)は脳MRI分野のプログラム医療機器として薬事承認を取得した医療画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm (エイル アニュリズム)」の発売を開始した。
この画像解析ソフトウェアでは脳MRI画像をAI、とりわけディープラーニングを活用した技術によって解析し、脳動脈瘤の疑いのある部分を検出することで医師による読影(MRI検査やCT検査などの画像を観察し所見を読み診断をすること)をサポートする。
IoTNEWSでは4年前に同社 CEO 島原 佑基氏へインタビューを行っていた。
LPIXELは当時、東大の研究室から始まったライフサイエンス(生物系)領域に特化した画像解析のソフトウェアを作成する会社だった。
今回のインタビューではLPIXELが「EIRL aneurysm」の発売に至るまでの開発過程や薬事承認を取得するまでの道のりについて、4年ぶりにLPIXEL CEO 島原氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉 耕二)
検診大国と言われる日本
IoTNEWS代表 小泉耕二(以下、小泉):島原さんへは4年前にインタビューをしていますが、最近はどのような事業をやられているのでしょうか。
LPIXEL CEO 島原佑基(以下、島原):前回のインタビュー当時はまだ10人くらいでした。資金調達もしていない時で、1年目は受託研究を、2年目は自社製品のプロトタイプを作ってみよう、3年目から自社製品に投資していくフェーズで、医療分野に注力しようとなった時に、長い期間売上が立たないまま薬事承認や認証への対応をする必要があるので、資金調達をしようということになりました。まず自社製品の可能性に共感していただける方から約8億円、事業化を目指せるか、ということで出資いただきました。
さらに、事業化の目処が立った時に事業会社さんを巻き込んで良いチームを作っていこうということになり、1年ほど前に富士フィルムさん、オリンパスさん、キヤノンメディカルさんなどに出資いただき、約30憶を集めて本格的に共同研究と事業化を見据えてやってきたところです。
そして現在、医療画像解析ソフトウェアEIRL aneurysm (エイル アニュリズム)はようやく今年の9月に薬事承認を得ることができました。実はその前にも認証を取得した製品がありまして、内ひとつは脳計測機能をもつ製品(医用画像解析ソフトウェア EIRL basic)です。EIRL aneurysmについては、NHKによる報道で、ディープラーニングを活用した医療機器で、PMDA(医療機器の製造販売承認に関する審査を行う独立行政法人)が承認したものは(NHKさんの取材によると)初めてだと、取り上げていただきました。
EIRL aneurysmは、先週初めてお客様に購入いただきました。ようやく1件というところまできて、次の予算で購入いただけると言っていただいている医療機関もあり、少しずつ導入数が増えていくと考えています。

小泉:おめでとうございます。どういうモノを製品化されたんでしょうか。
島原:脳のMRI画像をAIを活用して解析し、脳動脈瘤の診断支援をするものでした。
日本には脳ドックという言葉があるのですが、これは実は世界中にあると思いきやそうではないのです。これだけ脳ドックが広まっているのは日本独自の文化というか、脳ドックという言葉も日本で生まれているくらいなので、アメリカに行くとこういった検査は何十万円もします。脳の検査というのは日本では世界でも最安で受けられるほど進んでいて、検診大国だと言われているのです。
そういった背景もあり、脳の分野では日本の優位性が保てると感じたことが開発を始めたきっかけです。
もう一つの理由としては、3次元でMRIを解析するのが技術的に難しかったことです。
例えばCT。CTは絶対値が出るので画像処理がしやすい。また、健康診断で撮るような一般撮影は2次元なので技術的にも取り組みやすいのです。
それに比べ、MRIというのは、水分量とか、そういったものも見ますので絶対値があまりあてにならないんですよ。それに加え3次元なので、これらの画像解析ソフトウェアを開発するのは比較的難しい。
技術的に難しく、日本の独立性がある、という点で脳ドックのAIを作っていこうとなりました。
脳のMRI画像から異常の疑いがある部分を検出するAI

島原:日本人の死因の第3位、4位を行ったり来たりしているのが脳血管疾患です。脳血管疾患の中でも、脳の動脈にこぶが出来、それが破裂することで脳出血や脳卒中を引き起こしますが、そうしたこぶの早期発見をサポートするAIを開発しました。
小泉:動脈瘤というやつですね。
島原:そうです、その動脈瘤の疑いがある候補点を検出するAIでして、ディープラーニングを活用したAIとして取り上げられています。
その他にも実は認知症関連の分野にも取り組んでおりまして、白質病変という認知症の進行度が上がっていく要因となる部位を自動計測するソフトウェアを開発しました。脳溝の拡大を見るようなものとか。
実はトリータブル(治療可能)な認知症もあるのですよね。認知症と診断されたらお先真っ暗、といったイメージがありますが、早期発見できれば外科的に治せる認知症もあります。そういった診断に寄与しうるだろうと、数値の自動計測を行います。
小泉:動脈瘤の話なんですけども、早期発見するというのはどのくらい早期に発見できるものなんですか。
島原:脳ドックではだいたい2、3mmで見つけましょうという考えで、5mm以上になるとしっかり治療を考えるということが一般的に言われています。
ただ、その大きさだけではなく、形状だとか、どこに出来ているのか、血圧などいろんな情報の解析があるのですが、脳ドックではまず「あるかどうか」を見つけるのが大事です。日本人は欧米人に比べると破裂率が約3倍高いとされる報告もありますので。
小泉:脳卒中で亡くなる方多いですもんね。
島原:そうですよね。その仮説として、日本人は血管が弱いのではないかと言う医師もいて、欧米だとコイル(こぶの中にコイルを埋め込み、破裂を予防する治療方法)が出来るけれど、日本人では血管が薄いのクリップの方がいいのではないかと指摘する医師もいます。日本人は動脈瘤の破裂率が高いことから、やはり早く見つけることが大切と言えます。
3mmの時に見つかった場合、その後、毎年の検診を受けることになるのですが、急遽大きくなった時に治療を考えることが多いようです。
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